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SDGsで世界の課題を「1枚の絵」として見る(斜めに見るのもアリ)

SDGs、持続可能な開発目標、ウェディングケーキ・モデル、生物圏、環境、社会圏、経済圏、ロックストローム、国連、MDGs

皆さまご存知の「SDGs(エスディージーズ)」。

国連が提唱した「Sustainable Development Goals(サステナブル・ディベロップメント・ゴールズ):持続可能な開発目標」のことです。

「ああ、流行ってるやつね!」と思う方、「はいはい、キレイごとね」と思う方、様々かと思います。

たしかに、実践面での難点や大人の事情というのは、あるかもしれませんが…、その基本的な考え方は、より良い世界を願う人にとって、やはり参考になると思います。

理由は、SDGsが大変包括的なものだから(包括しきれているかは別として)。

地球規模の課題と方向性を、1枚の絵として提示しようとしているからです。

世界には、たーーくさんの、しかも喫緊の、問題、課題がありますね。

広がる経済格差、止まらない温暖化、失われ続ける生物多様性…。

普通に生活している私たちにとっては、なんだかいろいろデカイ問題ありすぎてよく分からない。

SDGsの考え方は、そんなときにこそ役立ちます。

全体のなかで、どの課題がどのように位置づけられるのか?
どの課題とどの課題がつながっているのか?
自分たちが取り組みたいことは、どんな課題と関係しているのか?

考え、行動するためのヒントを、SDGsという枠組みから借りることができるのではないかと思います。

サステナ委員会LP

ウェディングケーキモデル:経済・社会・環境

人と地球が持続可能であるための3階層

まずそもそも、「持続可能な開発目標(SDGs)」の、「持続可能な開発」ってなんなんでしょう。

国連によれば

「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」

だそう。

言葉を補いつつ言い換えると、

「今まで通りガンガン開発してたら、大げさじゃなく、地球はパンクしちゃうんです!」

「子孫のこと考えたら、マジで頑張って変えないといけないんです(自分たちを犠牲にしすぎない程度に)」

という感じでしょうか。

さらに、

「経済成長、社会的包摂、環境保全……その調和を図ることが不可欠である」

ともあります。

経済と社会と環境。これらは密接に関わっている、バラバラに考えていてはイカン、と。

3つの調和を示しているのが、「SDGsウェディングケーキ・モデル」と呼ばれる下の図です。

sdgs、持続可能な開発目標、ウェディングケーキ・モデル、生物圏、環境、社会圏、経済圏、ロックストローム

これは、当時、ストックホルム・レジリエンス研究所長だったヨハン・ロックストローム博士(*1)が提唱したもの。

土台に「生物圏(Biosphere、環境)」があり、その上に「社会圏(Society)」があり、一番上に「経済圏(Economy)」があります。

下の階層がしっかりしていてこそ、その上の階層が成り立つ。

SDGsの17個の目標とともに、一つひとつの「ケーキの段」を見ていきましょう。

*1 ロックストローム博士らが提唱した、「プラネタリー・バウンダリー(planetary boundaries、地球の限界)」 という概念(Rockström et al. 2009)が、SDGsの基礎にあります。人類が地球システムに与える圧力が大きくなりすぎると、気候変動をはじめとする9つのサブシステムが持つレジリエンス(回復力)の限界を超え、不可逆的で壊滅的な変化が起こりうるとされています。現在、最もそのリスクが高いのは、生物圏の一体性(≒生物多様性)、プラスチック等を含む新規物質、窒素・リンの循環だとされています(Steffen et al. 2015; Persson et al. 2022)。

生物圏(環境)

ヒトが地球で暮らしていくためには、他の生物が必要です。

酸素を供給してくれる植物たち、栄養源となってくれる動物たち。

また、生物や生態系のありかたは多種多様で、その多様性が低くなるほど、全体が脆弱になるという構造があります。

森や海を守ること、生物を守ることは、私たち自身を守ることと同義です。

さらに、誰にとっても身近になっているのは気候変動でしょう。

温室効果ガスの排出等による地球温暖化は、猛暑の一因となっているほか、世界を見渡せば海面上昇や干ばつ、山林火災の増加などにつながっています。

農業に大きな影響が及ぶことで、食糧危機が起こるとの予測も。

環境を守り、ときに回復させることが、生活に直結しやすい時代になったと言えるかもしれません。

生物圏に属する目標は、以下の4つです。

目標6.安全な水とトイレを世界中に
目標13.気候変動に具体的な対策を
目標14.海の豊かさを守ろう
目標15.陸の豊かさも守ろう

案外、少ない感じもしますが…、

SDGsが発表された2015年以降、気候変動に関する議論がさらに進み、国や企業によるカーボンニュートラル(*2)の動きなども進んでいます。

「海の豊かさ」「陸の豊かさ」は、生物多様性の保全、海洋ゴミや富栄養化(*3)、砂漠化などに関わるもの。

「安全な水とトイレ」は、水質汚染など環境に関わる面と、途上国の衛生などに関わる面があります。

*2 カーボンニュートラル:二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすること。(環境省 脱炭素ポータル

*3 富栄養化:プランクトンの栄養となるリンや窒素が水中に増えすぎること。生態系のバランスが崩れる原因となる。工業廃水や生活排水の流入などが原因。

社会圏

健康な地球があってこその人間の暮らしなのだと、多くの人が実感しつつある現代。

さらには、健康な人間社会があってこその経済活動なのだ、との考えもますます広まっています。

唐突ですが、理想の社会とはどんなものでしょう?

多くの方は、誰もが幸せであることのできる社会だ、と考えるのではないかと思います。

世の中のごく一部が豊かで便利に、「幸せ」になったとしても、それが誰かの「不幸せ」に目をつぶることで成り立っているならば、人類全体にとって持続可能な幸せとは言えない。

SDGsでは、「誰一人取り残さない」ことが宣言されています。

貧困や飢餓にあえぐ人、差別や偏見、不平等に苦しむ人がいなくなること。

途上国においても、先進国においても、全ての人が幸せであることのできる、平和で公正な世界をつくること。

社会圏には最も多くの目標が属しています。

目標1.貧困をなくそう
目標2.飢餓をゼロに
目標3.すべての人に健康と福祉を
目標4.質の高い教育をみんなに
目標5.ジェンダー平等を実現しよう
目標7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに
目標11.住み続けられるまちづくりを
目標16.平和と公正をすべての人に

途上国に当てはまることが多いものもあれば、先進国にも当てはまりやすいものもありますね。

「住み続けられるまちづくりを」は、日本であれば自然災害や高齢化などの観点から考えられることが多いでしょう。

ジェンダー平等に関しては、長年、日本が指摘され続けていることでもあります。

また、貧困などは、一見、途上国中心の問題に見えても、程度の差こそあれ、日本でも起こっていることです。

先進国内の様々な層に目を向けられるようになるところにも、SDGsの意義があるように思います。

経済圏

ケーキの最上段は、経済活動についてです。

先進国のこれまでの発展・成長は、自然環境や発展途上国に不都合を押し付けることで進んできた面があります。

たとえば、流行に合わせた低価格の衣料を、速いスパンで大量生産するファスト・ファッション業界。

工場廃水による環境汚染や大量の二酸化炭素排出、売れ残った商品の大量廃棄などに加え、仕事を選ぶことの難しい途上国の人々に劣悪な環境で労働をさせていることが問題視されるようになりました。

生物圏や社会圏に犠牲を強いるような(そして結果的にそうした経済活動を行っている組織・人自身の首を絞めるような)、こういうやり方をやめよう、ということです。

経済圏に属する目標は、以下の4つです。

目標8.働きがいも経済成長も
目標9.産業と技術革新の基盤をつくろう
目標10.人や国の不平等をなくそう
目標12.つくる責任 つかう責任

日本でも大いに当てはまるものばかりですね。

働き方改革などは、まさに目標8です。

働き手が不幸せでは(あるいは働きたいのに働けないのでは)、全体の生産性が落ちるし、経済成長にとってもマイナスだよね、と。

(国によっては、強制労働や人身売買など、深刻なことがいろいろあります。)

また、最近ではサステナブルを謳う商品やサービスがかなり増えました。

これは、少ない資源でものをつくり環境負荷を減らそうという「つくる責任 つかう責任」に関わります。

連帯して取り組むということ

SDGsの目標は全部で17個ですが、ここまでに登場しているのは、16個のみ。

3つの階層のどれにも属さない、「目標17. パートナーシップで目標を達成しよう」というものがあります。

これは、ウェディングケーキの頂点に単独で乗っているものです。

まず、「誰一人取り残さない」ためには、やはり途上国を支援していく必要があります。

目標17ではさらに、各国政府だけでなく、企業や科学者、市民の結束を進めることが謳われています。

大勢が協力しなければ、壮大な目標を達成することはできない、とハッキリ言っているのです。

特に、人々の暮らしや地球環境に対する企業の影響は大きいので、これまで以上に企業の貢献が求められるようになっています。

そして、それに応える企業は増え続けています。

もう一つの分類、5つの「P」とは?

ところで、17個の目標が、経済圏、社会圏、生物圏に、数字の順番通りに並んでいないのはどうしてだろう…と思われた方はいるでしょうか。

実は、17個の目標には、もう一つの分け方があります。

それが、5つの「P」。

  • People:人間 (目標1~6)
  • Prosperity:繁栄 (目標7~11)
  • Planet:地球 (目標12~15)
  • Peace:平和 (目標16)
  • Partnership:パートナーシップ (目標17)

こちらのほうが理解しやすいという方もいるかもしれません。

細かな説明は省きますが、どのようにまとめられているのかを見ていきましょう。

People:人間

目標1.貧困をなくそう
目標2.飢餓をゼロに
目標3.すべての人に健康と福祉を
目標4.質の高い教育をみんなに
目標5.ジェンダー平等を実現しよう
目標6.安全な水とトイレを世界中に

誰もが人としての尊厳を持ち、心身ともに健康に生きられる世界をつくるための目標が含まれます。

目標6以外は、社会圏に属するものです。

Prosperity:繁栄

目標7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに
目標8. 働きがいも経済成長も
目標9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
目標10. 人や国の不平等をなくそう
目標11. 住み続けられるまちづくりを

豊かで安心して暮らせる(かつ自然と調和した)世界をつくるための目標が含まれます。

社会圏と経済圏にまたがっています。

Planet:地球

目標12. つくる責任 つかう責任
目標13. 気候変動に具体的な対策を
目標14. 海の豊かさを守ろう
目標15. 陸の豊かさも守ろう

生物圏に属する目標だけでなく、環境に配慮した経済活動を行う「つくる責任 つかう責任」も含まれます。

Peace:平和

目標16.平和と公正をすべての人に

あらゆる暴力や搾取、犯罪、司法へのアクセスなどに関するこちらの目標は、単独で。

Partnership:パートナーシップ

目標17. パートナーシップで目標を達成しよう

連帯して取り組もうという目標は、ここでも単独です。

金科玉条にしなくていい。モノの見方の参考に

SDGsがイイと思う理由、SDGsを斜めに見てもイイと思う理由

世界の様々な課題を包括的に捉えるためのヒントとして、SDGsを見てきました。

SDGsには、途上国の開発を主眼においたMDGs(Millennium Development Goals:ミレニアム開発目標)という前身がありました(2000年採択)。

さらに遡れば、1992年のリオ・サミット(国連環境開発会議、いわゆる地球サミット)で、1970年代以降に議論されるようになった環境問題に対し、地球規模で連帯して取り組むことが宣言されました。

SDGsは、決して「ぽっと出」のものではないのですね。

「開発を優先すべきか、もっと環境のことを考えるべきか」

そのような二元論に陥りやすかった議論が、まるっと統合された、そう明言されたという点でも、歓迎されるべきものではないかと思います。

とは言え、一般論として、国際的な取り決めには各国の思惑が働くもの。

また、研究が進むことで、科学的「事実」が変わったり、より優先的に取り組むべき課題が見えてきたりするものです。

たとえば、将来的には気候変動よりも、先にご紹介した窒素循環に注目が集まるようになっているかもしれません。

私たち市民が知る頃には、多くのことが「既成事実」「過去における事実」になっていると言えます。

さらに言えば、「17個で世界の課題全部カバーできるわけないじゃん」と思われる方もいるでしょう(17個はもっと細かく分かれていて、169個のターゲットというのがあるんですけどね)。

実は、かく言う筆者も、その一人。

筆者が最も気になる「課題」は、SDGsに登場しません。

それは人類と地球が持続可能であるために優先的に対処されるべきこととは考えられていない、ということですね。

あなたにとっての課題や理想は?

結論として、17個の目標を金科玉条として掲げる必要は、まったくないと思います。

それでも、SDGsという枠組みが、1枚の絵として世界の課題と方向性を見せてくれていることは、大いに参考になるのではと。

私たち一人ひとりにとっての課題が、絵の中にどう位置づけられるか、考えてみるのも悪くない。

もちろん、それぞれにとっての課題をSDGsのどこかに無理やり当てはめる必要はないでしょう。

SDGsはあくまで、人類が持続可能な発展を続けるために、その時点での知見を結集して考えられたもの。

もしかしたら、あなたにとっての課題や理想の社会は、違う観点から生まれたものかもしれません。

多くの人がまだ気付いていない、「事実」があるかもしれません。

ひとつのモノの見方として、本記事を参考にしていただけましたら幸いです。

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