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パーパス経営とは?企業のサステナビリティの鍵を握るって本当?

パーパス経営

今回の記事では、パーパス経営について解説します。

パーパス経営は、企業がサステナビリティ経営をするうえで欠かせません。

パーパス経営の推進にはさまざまなメリットがあり、長く繫栄するためには社内全体で取り組むことが大切です。

パーパス経営を推進する手順や事例などについても記載するので、最後までお読みください。

サステナビリティ委員会

パーパス経営とは?

ミッション・ビジョン・バリュー・パーパス

最初に、パーパス経営について解説します。

企業経営におけるパーパスとは

企業におけるパーパスとは、端的に言うと「存在価値」を明文化したものです。

企業がどのような価値を提供し、どのように貢献できるかを表すことで、最終的に目指すゴールを社会に示します。

パーパスで明文化するのは社会に関する目的であり、業務内容ではありません。

たとえば「予約システムをつくるためにプログラミング業務をしている」はパーパスではありません。

「予約によって利用者の余分な時間や労力を省略することで、人々の生活を便利にしたい」がパーパスです。

自分たちの業務が社会にとってどのような存在価値があるのかを示す経営を、パーパス経営と呼びます。

ミッション・ビジョン・バリューとの違い

パーパス経営と類似したワードとして、ミッション・ビジョン・バリューがあります。

これらのワードを3つ合わせて「MMV」と呼び、それぞれのパーパスとの違いは以下の通りです。

ミッション

ミッションを日本語にすると「使命」です。

企業の存在意義を明文化している点ではパーパスと同じですが、ミッションは「なすべきこと」を表します。

パーパスを実現するために何をすべきかを表したものがミッションと言えるでしょう。

ビジョン

ビジョンは企業が目指す「あるべき姿」のことです。

パーパスと同様に志や理想像を表します。

しかし、パーパスが企業の最終的に目指すゴールであるのに対し、ビジョンは中長期的な目標を示しており、ビジョンは企業の完成系ではありません。

バリュー

バリューは「価値観」という意味で、企業がどのような価値観を行動や判断の基準にしているかを明文化します。

バリューは、ミッションやビジョンを達成するための具体的な行動指針や行動基準を表す言葉です。

つまり、パーパスを定める前にミッション、ビジョン、バリューを決めなければなりません。

パーパス経営を推進するメリット

パーパス経営

企業がパーパス経営を推進するメリットとして、以下の3つが挙げられます。

パーパス経営は、サステナビリティな経営を目指す企業にとって嬉しいメリットが多いと言えます。

企業の存在理由を明確にステークホルダーに伝えられる

上記で述べたように、パーパスは企業の最終的な理想のゴールを示します。

パーパス経営をすることで、企業の存在理由を明確にステークホルダーに伝えられるメリットがあります。

企業の繁栄には、顧客や従業員、株主などステークホルダーからの支持が欠かせません。

ステークホルダーからの支持を得るには、企業の存在価値に共感してもらう必要があります。

一貫したパーパス経営をすることで、同じ価値観を持ったステークホルダーの共感を得られ、サポートを受けやすくなります。

反対に、パーパスが定まっておらず存在理由が不明確な企業は、ステークホルダーからの支持は得られないでしょう。

企業の存在理由を明確にステークホルダーに伝えることで支持を受けやすくなるという点は、パーパス経営のメリットです。

ステークホルダーの支持を獲得することは、SDGsの目標「働きがいも経済成長も」に関連しており、サステナビリティな経営にもつながります。

企業全体が同じ方向性でモチベーションをアップできる

パーパス経営の影響を受けるのは社外だけではありません。

パーパス経営によって企業の存在理由が明確になることでミッションやビジョン、バリューも定まり、従業員エンゲージメントもアップします。

従業員エンゲージメントとは、企業と従業員が互いにどれだけ理解しているかなど相思相愛度を示すものです。

従業員エンゲージメントが高いほど、従業員がその企業で働く意義や価値を感じており、企業に対して愛着を持っていると言えるでしょう。

一人ひとりが自分の仕事を“作業”ではなく“社会貢献”として考えられると、事業に対して価値を感じられるでしょう。

また、企業が目指すべきゴールを従業員全員が理解できると、企業全体が同じ方向に向かいやすくなります。

さらに、パーパス経営によって従業員エンゲージメントが向上すると、業績アップや離職率低下などの効果も期待でき、企業のサステナビリティにもつながります。

企業の目的が明確になり、イノベーションが起こりやすくなる

上記で述べたように、パーパス経営によって従業員全員が企業の存在理由や目標を理解しやすくなります。

そのため、従業員がビジネスに対して受け身ではなく主体的に取り組むようになり、仕事のスピードもアップしやすくなるでしょう。

また、仕事のスピードがアップする理由として、企業の判断基準が共有されている点も挙げられます。

どのような判断基準で業務に取りかかればいいかを逐一上司などに相談する工数が省け、意思決定のスピードアップにもつながるでしょう。

さらに、パーパス経営はイノベーションを起こしやすくなるメリットもあります。

役職にかかわらず従業員一人ひとりが企業の目的を把握することで、目的達成のためのアイデアを考えやすくなります。

一部役職者だけでは思いつかないアイデアが、別の従業員から生み出される可能性があり、SDGsの「産業と技術革新の基盤をつくろう」にもつながります。

イノベーションによって企業のさらなる発展につながるケースもあり、パーパス経営は新しいアイデアや風潮を取り込みたい企業にも必要と言えるでしょう。

パーパス策定の手順と3つのポイント

パーパス経営を推進する策定手順とポイントは以下のとおりです。

パーパス策定の手順

パーパス経営の大まかな策定手順は、社内に浸透させたあとに社外に発信するという流れです。

それぞれのステップをより詳細にすると、以下のような手順になります。

  1. 認知

まずは社内全体・従業員一人ひとりが自社のパーパスについて把握していることが大切です。

パーパス経営は社会貢献が前提となっているため、パーパス経営に取り組むこと自体に反対される可能性は低いでしょう。

しかし、「結局のところパーパス経営において自分はなにをすればいいかわからない」「目的や将来像があいまい」というケースも少なくありません。

パーパスは行動指針などと比べると抽象的になる傾向が高いため、あらかじめ具体的な内容で認知させるように心がけましょう。

  1. 理解

パーパス経営における理解とは、明文化した内容を暗記するということではありません。

パーパスを達成するために、どのようなミッションやビジョン、バリューが必要なのかを一人ひとりが理解することが大切です。

企業のパーパスを本質的に理解することで、自分の存在や仕事に対して価値を感じられるようになるでしょう。

パーパスを策定した当初のみ伝えても、時間の経過とともに従業員の意識が薄れてしまう可能性があります。

パーパスの理解を確固たるものにするには、定期的な対話や学びが必要です。

  1. 共感

共感とは、自主的に価値を感じて行動に移そうと思える状態です。

「上司に言われたから仕方なく自分も活動する」「目的はあまり把握していないがなんとなく参加する」ような状態ではなく、パーパスに対して心からの共感を得ることが大切です。

共感を得るには、文章化したパーパスだけでなく、パーパスが設定されたストーリーも共有するといいでしょう。

また、社外に対してパーパスを発信すると、第三者評価を通じて社内からの共感を得やすいと考えられます。

  1. コミットメント

コミットメントとは、企業のパーパスから個人のパーパスを設定し、個々があるべき姿を設定するような状態です。

企業と個人のコミットメントにおける共通点が多いほど、その従業員のパーパスに対する熱意が高いでしょう。

その企業に入社した理由や楽しいと思える瞬間などを上司たちと話し合うことで、個人のコミットメントは洗い出しやすくなります。

  1. 自発的な行動

従業員が個人のコミットメントを設定すれば、自発的な行動につながるでしょう。

自発的な行動と言っても、常に個人で行動するのではなく、上司や同僚などと相談してコミュニケーションをとることが大切です。

パーパス経営の3つのポイント

パーパス経営をする際には、以下のようなポイントを抑えることが大切です。

社内全体がパーパスを意識した行動・思考ができる状態を目指す

パーパスの内容があいまいなまま発信してしまうと、最終的なゴールがイメージできず、中途半端に終わってしまう可能性が高いです。

パーパスはあいまいな理想像を話すだけではなく、全体がパーパスを意識した行動・思考ができる状態を目指しましょう。

パーパスを発信する前に、どのように社内・社外に伝えるかをイメージしておくことがポイントとなります。

視覚化し、パーパス経営について触れる機会を多くする

パーパスは存在価値を明文化したものですが、文字だけで伝えるだけでは効果が薄くなってしまいます。

絵やロゴなどで視覚化し、ビジュアルで覚えやすくすることが大切です。

また、何度も自社のパーパスに触れることで頭に刷り込まれやすくなります。

視覚化した情報を頻繁に目にする場所に設置したり、勉強の機会を設けたりすると、社内全体にパーパスがしっかりと広まるでしょう。

効果的に社外発信を取り入れる

パーパスは社内だけでなく社外にも発信することをおすすめします。

また、社内にパーパスが伝わりきってからではなく、発展途上の段階でも社外を巻き込むのも有効手段です。

上記の策定手順の「共感」の際に、第三者評価が効果的であると説明しました。

社外に発信することで第三者から評価・期待が返ってくるので、モチベーションアップにもつながります。

パーパス経営がサステナビリティ経営を促進している企業事例

ここでは、実際にパーパス経営がサステナビリティ経営を促進している企業の事例について5つ紹介します。

キリン

ビールや清涼飲料水の製造・販売などの事業を手がけるキリンホールディングス。

キリンのパーパスは「社会課題の解決に取り組むことで社会と共に成長する」です。

環境や社会に対する問題解決に積極的に取り組む人が増えた昨今、自社の利益のみを追及する企業はサステナビリティ経営が難しくなるでしょう。

キリンは「健康・コミュニティ・環境」という3つのポイントで酒類メーカーとしての責任を果たすため、CSVパーパスを定めています。

CSVとはCreating Shared Valueの略称で、事業活動そのものが社会課題解決につながります。

環境や社会など、幅広い分野にかかわる酒類メーカーだからこそ、貢献できる範囲も広いと言えるでしょう。

キリンのCSVパーパスは、SDGsの目標の17個のうち、実に11個に貢献しています。

セルフケア飲料やサステナブルな容器包装の開発などで、人だけでなく環境にもメリットの多いパーパス経営をしています。

花王

幅広い日用品の製造・販売事業を中心とする花王のパーパスは「豊かな共生世界の実現です。

花王のパーパス経営は、将来の子どもたちの豊かさを目指しているもので、まさにサステナブルな経営と言えるでしょう。

花王は環境保護や高齢化、パンデミックなどの社会課題を解決することで、将来の子どもたちを守れると考えています。

環境面での行動方針が中心となっており、二酸化炭素の削減や資源再生化を目指しています。

花王のパーパス経営は企業単体で行うのではなく、ステークホルダーの協力も合わさって成り立っており、関係者全員で達成へのモチベーションをアップできるでしょう。

オープンアップグループ

オープンアップグループは、人材派遣事業を中心とした企業です。

パーパスは「幸せな仕事を通じてひとりひとりの可能性をひらく社会に」。

オープンアップグループのパーパスはSDGs目標の「働きがいも経済成長も」や「産業と技術革新の基盤をつくろう」などに貢献しています。

仕事は生活するうえで欠かせない要素ですが、ただ単に生活費を稼ぐだけが目的ではありません。

仕事を通じて自己実現や存在理由を見出したい人も多く、仕事においてやりがいや幸せは必要不可欠です。

しかし、スキルや縁が無いなどの理由から、必ずしも自分にぴったりの仕事が見つかるとは限りません。

オープンアップグループは就業機会やトレーニング、キャリア相談などを通してひとりひとりが幸せな仕事と出会うためのチャンス、つまり「扉」をつくっています。

社会貢献やウェルビーイングの概念が広まるにつれて、オープンアップグループのパーパス経営はサステナビリティな社会には欠かせないでしょう。

ユニリーバ

ユニリーバはパーソナルケア用品やホームケア用品を通じ、SDGsに貢献しています。

ユニリーバのパーパスは「サステナブルな暮らしを“あたりまえ”にする」。

ユニリーバの事業には、豊かな自然環境が欠かせません。

様々な原材料を必要とするユニリーバだからこそ、地球の健康を改善するために迅速な対応を目指しています。

たとえば、昨今課題となっているプラスチックを中心としたゴミ問題や森林伐採問題などに対し、再生可能エネルギーや森林伐採をしないサプライチェーンの採用などに取り組んでいます。

他にも栄養価の高い食品によるウェルビーイングな生活の提供など、自然だけでなく人間に対してのサスティナブルも重視していると言えるでしょう。

自然も人も守ることで、将来にわたって長く続く豊かさを提供しています。

オレンジページ

料理レシピの出版やWebサイト運営などの事業に携わるオレンジページ。

オレンジページのパーパスは「『食』を起点に暮らしをつくり、生活者、コミュニティ、地球のよりウェルビーイングな未来をつくる」です。

オレンジページはパーパスだけでなくビジョンやミッションにおいてもウェルビーイングをキーワードとしています。

ウェルビーイングとは、心身的だけでなく社会的にも健やかで幸せな状態のこと。

「食」という毎日の生活に欠かせない要素によって地球にウェルビーイングを提供する点で、オレンジページのパーパスはサステナビリティ経営に寄与していると言えるでしょう。

フードロス削減やフードバンク活用などにも取り組んでおり、SDGsでは「飢餓をゼロに」や「貧困をなくそう」などに貢献しています。

また、バリューとして「生活者であれ、創始者であれ」を設定したり、行動指針に「前例をけとばす」「見方をかえる」などを設定したりしており、従業員全員が自分事としてパーパスに取り組みやすいです。

【まとめ】企業がパーパス経営を社内に浸透させるために

ここまで企業がパーパス経営を社内に浸透させるための手順や、パーパス経営のメリットなどについて解説しました。

昨今の企業は株主だけでなく消費者からもサステナブルが求められており、サステナブル経営のためには明確なパーパスが鍵となります。

パーパス経営は主要メンバーだけでなく、社内全体で深く理解し、実行することが大切です。

浸透するまでには時間がかかりますが、定期的に発信したり、視覚化して目に入りやすくしたりすることで長期的に挑みましょう。

サステナビリティ委員会