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「特例子会社だからこそ、働きやすい環境を創造できる」。オープンアップグループのパーパスを体現する、D&Iの考え方と取り組み

株式会社オープンアップグループは、メーカーやゼネコン、IT企業へのエンジニア派遣を主たる事業としています。

「人材の成長支援」に軸足を置く同グループが掲げるパーパスは「幸せな仕事を通じて ひとりひとりの可能性をひらく社会に」。

これは、多様な事業を展開する中で、グループ全員で共有することができる価値観、社会的意義、行動指針として作られたものです。

このグループパーパスを体現しているのが、特例子会社*の株式会社ビーネックスウィズです。

今回は、同社代表取締役社長 佐野裕己さんに、従業員が働きやすい会社にするための考え方と実際の取り組みを伺いました。

*1障がいのある方の雇用促進及び安定を図るために設立された会社。 障がいのある方が働きやすくなるよう、障がいに配慮した「短時間勤務」や「通院のための休暇」「仕事(量・内容)の調整」などのサポートが整備されていることが最大の特徴。2021年6月時点で全国に562社ある。

株式会社ビーネックスウィズ 代表取締役社長 佐野裕己

お話を訊いた方
株式会社ビーネックスウィズ
代表取締役社長 佐野 裕己 氏

障がい者の長期就労を実現するために

株式会社ビーネックスウィズ(以下、ウィズ)は、株式会社オープンアップグループの特例子会社として、2005年7月に前身である共生産業株式会社として創業しました。

企業ミッションは『従業員が日本で一番働きやすい会社になる』こと。

特例子会社は、グループ全体の障がい者雇用において重要な役割を果たしており、法定雇用率2.3%(2022年12月現在)を遵守することが求められます。
2025年までの4ヵ年を対象としたグループ中期経営計画「BY25」では、グループ全体の総従業員数の成長を発表しており、全従業員数が増えるのと同じスピードで、障がい者雇用を増やしていかなければいけません。グループ会社全体で、2025年度に690カウントの達成を目標として掲げています。

ウィズは雇用数だけにこだわるのではなく、障がい者の長期就労を一番に考えています。

「精神障がいの方は約6ヶ月で転職することが多いのが現実で、その原因は就労環境が整っていないことがほとんどです。そこで当社では、『この会社にまた来たい』と思ってもらえる環境を考慮して事務所内をデザインしています。一番に考えるべきは、怪我を防止する工夫があるかどうか。よくバリアフリーとますが、バリアフリーの発想だけでは十分な環境はできません。万が一を考えて設備を整えることが、事業者の責務だと私たちは考えています。

このように長期就労が実現して初めて、スキルが身についていきます。当社では、一定量のスキルを身に着けて経験を重ねることで、私たちが作れないものすら作ることができるレベルにまで到達できるので、モチベーションの向上につながり、さらに長期就労が可能になるという好循環を生み出しています」

このような努力から、ウィズ従業員の入社後6ヶ月の定着率は93.2%、入社後1年の定着率は89.7%と高い水準を確保できています。

南橋本オフィス内の作業室。グリーンを基調にした優しい雰囲気に。

グループ全体を支える『人材の可能性をひらく姿勢』

佐野社長が「従業員が日本で一番働きやすい会社にする」と掲げる背景には、『世の中は効率性だけで回っているんだろうか』というアンチテーゼがあると言います。

「世の中理不尽だなと思うことがたくさんありますよね。その理不尽さはどこから来るか考えたときに、人の自由や考え方を踏み台にして、会社の総枠としての効率を求める姿勢がいきすぎる場合があると思っています。これが株式会社の本質だと言われるとそうかもしれないですが、そこに少し違和感を感じて、一番働きやすい会社を本気でめざしています」

佐野社長が具体的な行動に移せているのは、オープンアップグループ全体に「人材の可能性をひらこうとする姿勢」があるからだと言います。

「グループ全体のパーパスについては個々人でいろいろな理解の仕方があると思いますが、一人ひとりの可能性をサポートしていこうというマインドは全社が共通して持っています」

特例子会社としての歩みと、事業展開

障がい者雇用の歴史は古く、グループの前身となる企業が1972年に神奈川県相模原市で10名の障がい者を雇用したことから始まりました。
同社グループが人材サービス会社として業容を拡大してきた現在まで、障がい者との共生社会の歩みを脈々と引き継いでいます。

2005年には障がい者が一層働きやすく、そして組織として持続的に運営するためグループの特例子会社として旧共生産業株式会社が誕生。
当時は従業員が50名ほどで、以降約10年間、軽作業(グループ会社の清掃や洗濯、文具の梱包等)を主業としてきました。

しかし、佐野社長就任直後の2016年に、事業転換の舵を切ることになります。

その際に重視したのは、障がい者が生き生きとできる仕事かつ、スキルの向上や経験が次の目標に展開していくような業務。
また、会社としてはビジネスサイクルが異なり、特性の違う事業をミックスさせることで、多種多様な業務内容の確保をめざしました。

当初はパンや石鹸の製造なども検討しましたが、最終的に選んだのが、フラワーアレンジメント事業・アウトソーシング事業・ステーショナリー事業の3本の柱です。

まず、ビジネスモデルを確立させる必要があったため、フラワーアレンジメント事業に着手。ここでは主に、精神障がい者を採用しました。

その後、通年の業務受託量の安定化を図るため、アウトソーシング事業を開拓。

精神障がい者採用を拡大したのち、従来の知的障がい者が従事していた軽作業をステーショナリー事業へ転換。現在は、紙の再生産を主業とし、グループ全体のSDGs活動の中心的役割を担っています。

佐野社長「今の仕事の原動力の一つに、当グループの中でSDGs活動を形として一番示せるのがウィズだということがあります。これも自負になっています」

紙の再生産事業の様子

ウィズは事業の方針転換により、それぞれの障がいのレベルや特性を活かせる仕事を提供できるようになっていきました。

現在は、本社「BASEONE HQ」のほか、サテライトとして、南橋本、横浜、四ツ谷にも事務所を構えています。また、2023年2月には、町田にも新設予定です。

サテライトを構える場所については、就労移行支援事業所が多い地域を選定しています。通勤のしやすさを確保することで、長期で働いてもらいやすい環境を整えるためだと言います。

「障がい者に限らず、女性や高齢者にとっても通勤のしやすさはとても大事な要件です。仮にどんなにスキルが高かったとしても、通勤時間が超えると採用できないと思います。1時間以内を目安にしています」

働きやすい会社になるための、ウィズの考え方と共有方法

スキルマッチングには、仕事やスキルの分解が重要

働く人の幸せとは、自分が社会から必要とされていることを自覚することだと考える同社。

そのためには「自分の居場所」が必要です。

企業が「居場所」を整えるためには、仕事と個人の持つスキルを細かく分解し、マッチングさせることが重要だと言います。

「フラワーアレンジメントでは、作業を20工程に分解し、スキルの難易度に分けていきます。例えば、花を刺すときの下のオアシスを切るだけの作業などですね。Aくんは切る能力がマックスならそれでいいという考え方で、自分ができることが日々少しだけできるようになることが幸せと考えているので、昨日5本だったのを今日6本切ることができればいいんですよね。

従業員のスキルも、恒常的に一定のパフォーマンスを発揮するように人間はできていないんです。加齢によるスキルダウンもありますが、1日ごとの変動もあります。難しいのは、仕事とスキルをマッチングさせていくところ。これが私たち指導員の役割です。言うのは簡単ですが、実際にできるかできないかは、従業員一人ひとりをしっかり見ているかどうかに尽きます。一人ひとりの個性がベースにあって、マッチングさせるところに一番神経を使っています」

このように指導員が「適材適所の業務を見出していくこと」に注力していった結果、フラワーアレンジメント事業には現在も、2016年から働く初期メンバーが3名います。

なかには、指導員によるフラワーアレンジメントの基礎レッスンを経て、小さなデザインを何度も繰り返すことで、少しずつサイズの大きいフラワーを担当するようになった方も。

スキルアップにあたっては、指導員が細かな気配りでサポート。

指導員がアレンジしたサンプルと同じサイズをコピーしていくことで感覚を磨く指導をしたり、障がい特性によって口頭指示だけの理解が難しい方には、画像や絵コンテで視覚的に説明・指導を行ったりもしています。

復職時にも活用し、女性の雇用率をアップ

この考え方は、産休・育休後の女性の復職や高齢者雇用にも活用しています。

例えば、ある女性が積み上げたキャリアを「パソコンのとあるソフトが使える」などのスキルだけで見てはいけないと言います。なぜなら、これは時間とともに陳腐化するスキルだからです。

ポイントは、コアスキルを分解して把握すること。

例えば、コアスキルがコミュニケーション力だとした場合、どのようなコミュニケーションの取り方が彼女の強みなのかまで掘り下げて分析することが重要です。

そうすることで、職種が変わってもそのコアスキルを活かせる仕事に充てることができます。

ウィズでは、全従業員の内68%が女性で、そのうち64%がお母さんだと言います。また、役職者の56%が女性で、全従業員の内23%が60歳以上と、女性や高齢者が活躍する職場になっています。

多様な方に活躍してもらうには、会社側に個々人のスキルが活かせるポジションが用意されていなければいけません。そのため、スキル分解と同じくらい、会社の成長も必要不可欠だと話します。

「会社が成長への足を止めた途端、会社が駄目になると同時に、人材の活用も駄目になります。なので、私たちに与えられた使命は、『特例子会社だからと言い訳せずに成長すること』です。法定雇用率は割合なので、グループ全体が成長カーブを描く限り、僕らも常に成長していくことが求められます。これが本当の意味で良い循環だと思っています」

グループ全体に障がい者雇用のノウハウを共有するには

これらの障がい者雇用に関するノウハウ・考え方は、グループ全体にも共有しています。

障がい者の目線から就職を考えた場合、会社には大きく3種類あります。

一つは、一般企業に入社し、障がいの有無関係なしに働くこと。二つ目は、一般企業の障がい者雇用枠で入社すること。最後が、特例子会社に入社することです。

佐野社長曰く、前二つの一般企業では、特例子会社でのノウハウそのものの運用をまるごとコピーすることは難しいとのこと。

その理由は、就業規則を変更するか、通常の就業規則とは別に規則を策定する必要があるから。さらに、就業規則などの制度面を変更できたとしても、障がい者のケアをする周りの人材の知見を広げていくことが求められます。

そこで、オープンアップグループでとっている方法が、ベースとなる考え方の共有です。

「特例子会社の仕組みはコピーできませんが、ケアをする人たちに、『考え方』なら共有できると考えています。例えば、障がいとはいったい何であるか、ほとんどの方は知りません。知っていたとしても、どういう対応をとればいいかということはわかりません。その先の、どういう症状が出てきたときに、どういうアクションを起こせばいいかということもなかなかわかりづらいと思います。ウィズは各社にこういった情報や考え方を共有していくことができると考えています」

SDGsや基幹業務の文脈で、ますます存在感を示す会社へ

さらなる成長のため、ウィズは2022年7月よりフルダム事業を始動。

グループ会社のバックヤード業務の受託や、障がい者雇用に関するコンサルティングを行うことで、バックヤード業務のグループ一元化によるコストダウンや、障がい者雇用に関する各社の負担軽減を図っています。

また、ミッションである「日本で一番働きやすい会社」を掲げ、本気で達成をめざしている同社は、ウィズの基本姿勢を『WITH WAY』にまとめ、進むべき道を全員で共有しています。

ウィズの基本姿勢を示した『WITH WAY』内の行動指針

「事業特性や障がい特性がそれぞれ違うので、スキルや技術面における一律の教育はなかなか難しいのですが、全社共通でできることは『考え方の共有』です。例えば、『ありがとうの気持ちを伝える』ことは当たり前なのですが、ここでは、ありがとうの気持ちを『持つ』ではなく、ありがとうの気持ちを『伝える』と言っています。よくありがちなのは、「僕・私はそういうつもりじゃなかったのに」ということ。受け止め方の問題でもありますが、発信側の問題でもあるので、『この価値だけは揺るがせないでほしい』という行動指針の研修を徹底して行なっています。これは指導員にもスタッフにもすべて同じ教育をしています。
具体的には、行動指針の一つひとつを5W1Hにブレイクダウンし、ウィズの仕事のお作法や仕事術として社員に説明していきます。社長自らが動画でポイントを話し、浸透させていくことが今後の大事なポイントとなってきます。

ミッションである『従業員は日本で一番働きやすい会社』の達成に向けてどうすればいいかというと、セグメントを細かく分けて、それを一つ一つクリアしていく。細分化すればするほど、日本一にはなれますが、細い日本一にしかなれません。この細い日本一を束ねていくことで、段々と幹の太い日本一にしていきます」

「特例子会社」という枠組みを超えて、グループ会社とともに成長を止めない同社。

オープンアップグループ全体のパーパスを体現し、SDGsやグループの基盤を支える基幹業務の文脈でますます活躍が期待されるウィズに、これからも目が離せません。