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【最新版】不動産業界のサステナビリティ・ESGの動向、企業事例

不動産 サステナビリティ動向

世界中でESGへの注目が集まる中、不動産業界でもサステナビリティへの動きが加速しています。

環境や人々の生活に密接にかかわる不動産業界は、低炭素住宅の施工や再生可能エネルギーの活用など、サステナビリティへの取り組みが求められる業界のひとつです。

今回の記事では、不動産業界のESGの動向や企業の取り組み事例をご紹介します。

不動産業界の現在の市場環境 

不動産業界のESG動向を確認する前に、まずは現在の市場環境を把握しておきましょう。

不動産業界は、人々の生活や経済成長を支える日本の基幹産業であり、人口減少やAIの発展など社会情勢の変化に伴って、持続的に発展することが求められています。

国土交通省が定めた「不動産業ビジョン2030」によると、不動産業界を取り巻く市場は下記のようにまとめられています。

・少子高齢化・人口減少の進展
・空き家・空き地等の遊休不動産の増加・既存ストックの老朽化
・新技術の活用・浸透
・働き方改革の進展
・グローバル化の進展
・インフラ整備の進展による国土構造の変化
・地球環境問題の制約
・健康志向の高まり
・自然災害の脅威

このような社会情勢の変化に従い、消費者・企業・投資家のニーズも変容しつつあります。社会情勢や社会のニーズが急激に変化する時代にいて、不動産業界では時代の要請や地域のニーズを踏まえた不動産の形成や個人・企業・社会に対する不動産の最適活用を図ることが重要です。

不動産業界が目指すべき将来像については、「不動産業ビジョン2030」にて、以下の3点が設定されています。

『豊かな住生活を支える産業』
『我が国の持続的成長を支える産業』
『人々の交流の「場」を支える産業』

不動産業界におけるESGの動向

世界中の企業でサステナビリティおよびESGに関する取り組みが活発化している中、日本の不動産業界も例外ではありません。

特に不動産業界は、環境や社会と密接に関わる業種であり、それらの課題を解決できるポテンシャルが高い重要な対象として位置づけられています。

投資家から評価されるためには、E(環境)・S(社会)、G(ガバナンス・管理)の基準を満たした不動産開発・運営を行うことがポイントです。

不動産を管轄する国土交通省では、不動産業界におけるESG投資の対象として、下記のような開発・運用例を挙げています。

国土交通省「ESG不動産投資のあり方検討会 中間とりまとめ(概要)」より引用

不動産業界は、これら3つの概念のうち「E」と「S」の概念と特に関わりが深い業界です。

ここからは実際に、不動産業界が環境や社会に与えているインパクトと目指すべきESGの取り組みを確認していきましょう。

E(環境):脱炭素化

まず、環境面で注目されているのが「脱炭素化」です。

建物を建築するにあたり、省エネや再生可能エネルギーを利用することで、温室効果ガスの排出を削減することができます。

また、省エネルギー性能の高い建物を新築・再築することで光熱費の削減につながり、中長期的な資産価値の向上も見込めるでしょう。

国土交通省では、具体的な脱炭素化への取り組みとしてZEB(ネットゼロエネルギービル)やZEH(ネットゼロエネルギーハウス)の建築を挙げています。

ZEB・ZEHとは「年間での一次エネルギー消費量を大幅に削減し、省エネでエネルギー収支が正味ゼロとなる建築物」のことです。

経済産業省資源エネルギー庁にて推進されている取り組みで、日本の建築物全体の低炭素化に大きく寄与するとされています。

ZEBを見据えて高効率な省エネルギー設備を備えた建築物に対しては「ZEB認証」が与えられ、一次エネルギー消費量削減に適合した建築物であると示すことが可能です。

ほかにも、自社の事業の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指した「RE100」という国際的イニシアティブも存在します。

RE100へ加盟することで、脱炭素化へ配慮した取り組みを推進している企業だと示せるでしょう。

国内の不動産企業でも省エネへの取り組みが進んでおり、CO2排出量や環境負荷低減効果、気候変動へのリスク管理に関する情報を開示している事例もあります。

中小企業を含め、今後はTCFD提言を参考にしつつ積極的な情報開示が求められる可能性が高いです。

S(社会):評価項目の整理

不動産業界が社会に与える影響としては、主に下記の4項目が挙げられます。

  1. 健康性・快適性の向上
  2. 地域社会・経済への寄与
  3. 災害への対応
  4. 超少子高齢化への対応

たとえば、地域経済の発展に貢献できる不動産の開発や運営は地域自体の価値を向上させ、不動産における雇用拡大やイノベーションといった中長期的な投資リターンを拡大できるかもしれません。

また、少子高齢化の急速化や生産年齢人口の減少が顕著な日本において、高齢者施設や保養所などのニーズは今後も増加すると見込まれています。

有料老人ホームやヘルスケア不動産などの開発は、安定的かつ中長期的な不動産価値にも反映され、超高齢化社会への課題解決にもつながるでしょう。

ただし、社会課題の分野においては、不動産による社会へのインパクトや評価項目・評価手法などの枠組みが十分に整理されていない状況です。

現在国交省は2023年度をめどに防災や子育て支援など社会分野に特化した不動産の評価基準を設ける予定としており、前段階として「安全・尊厳」「心身の健康」「豊かな経済」「魅力のある地域」の4テーマに分けて合計約80の評価項目を以下の通りまとめています。

テーマ評価項目(一部抜粋)
安全・尊厳・災害時のエネルギーの供給や確保
・不動産の資材調達における人権の尊重
・子育て支援施設の整備
心身の健康・運動促進設備や健康増進プログラム
・快適な音環境の提供
豊かな経済・再利用含む地域産材の利用
・地域の街づくり方針の沿った取り組み
魅力のある地域・歴史的な価値のある建物の活用や保全
・景観に配慮した外観や敷地のデザイン
国土交通省『不動産のS(社会課題)分野における評価項目等 』を参考に作成

引き続き段階的に整理が進められているため、今後も注視しつつ社会課題に取り組んでいく必要があります。

不動産業界でサステナビリティを推進する際の注意点

ここからは、不動産業界がサステナビリティを推進する際の注意点をお伝えします。

今後サステナビリティ活動への取り組みを考えている企業は、ぜひ参考にしてみてください。

ダイベストメントのリスクを把握する

ダイベストメントとは、特定の資産・企業・産業などから撤退し「資産を売却すること」を指す金融用語です。資産を手放すことで、関連するリスクや責任から離れることを意味します。

不動産業界におけるダイベストメントは、不動産資産や不動産関連企業への投資の撤回や売却を指すことが一般的です。

環境負荷の大きい事業展開など、サステナビリティの実現に反している企業から資金を引き上げることで、ESGへの配慮を促すことを目的としています。

投資家からのダイベストメントを避けるためには、適切なESG経営の推進が必要不可欠です。

自社のサステナビリティビジョンに沿ったビジネスモデルを確立し、自社のESG評価基準と投資家のESG評価基準に整合性を持たせることが重要になるでしょう。

エネルギー効率の改善を重視する

不動産業界がまず取り組むべき課題として「エネルギー効率の改善」が考えられます。

エネルギー効率の悪い建物は電力や燃料などのランニングコストが高いだけでなく、エネルギー価格の上昇やエネルギー規制の強化によって、将来的な維持費用も増加する恐れがあります。

また、環境に対する負荷や持続可能性への関心の高まりにより、建物自体の資産価値に大きく影響を与えることになるでしょう。

エネルギー効率は不動産業界と密接に関わる課題だからこそ、逆に取り組みやすい課題とも捉えることができます。

国際エネルギー機関(IEA)の報告によると、建物部門におけるエネルギー効率を改善することで、エネルギーの消費量と関連する二酸化炭素排出量を削減できると提言されています。

経済的なメリットを享受するためにも、省エネルギー設備や絶縁材の採用などによって運用コストを削減することが重要です。

不動産業界のサステナビリティ取り組み事例

最後に、不動産業界におけるサステナビリティの取り組み事例を確認していきましょう。

企業事例①:三井不動産株式会社

日本の大手総合不動産デベロッパーである三井不動産株式会社。

SDGsの17の目標と169のターゲットに関連する、さまざまな事業展開やプロジェクトを推進しています。

主な取り組み内容は下記の通りです。

  1. &EARTH衣料支援プロジェクト:家庭で不要になった衣料品を商業施設で回収し、世界各国の難民や被災者へ寄贈
  2. 生食ぶどう生産・販売事業「GREENCOLLAR」:高品質な生食用ぶどうを日本とニュージーランドで通年生産・販売し、農業活性化へ貢献
  3. 東京都水道局との水源林保全(&EARTH FOREST):グループ従業員が森の整備活動を通し、水道水源林の保全に貢献
  4. 太陽光発電事業:メガソーラー事業にて再生可能エネルギーの利用を推進
  5. 「チャレンジドセンター」の設置:障がいを持つ方々の新たな活躍の場を創出し、ダイバーシティを推進
  6. リファイニング建築による解体廃棄物の大幅削減:老朽不動産の再生にあたり、解体工事による建築廃材を大幅に削減
  7. 「RE100 」への加盟・TCFDに賛同:事業活動で利用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを表明。2050年までの達成を目標にしている
  8. 国連グローバルコンパクトへの参加

このように、三井不動産では「E:環境」「S:社会」「G:ガバナンス」のバランスを上手く取り入れたサステナビリティ経営が推進されています。

2025年までに「持続可能な社会」と「継続的な利益成長」の実現を目指した「VISION2025」では、重点的に取り組むべき目標として下記を定めています。

・街づくりを通した超スマート社会の実現
・多様な人材が活躍できる社会の実現
・健やか・安全・安心なくらしの実現
・オープンイノベーションによる新産業の創造
・環境負荷の低減とエネルギーの創出
・コンプライアンス・ガバナンスの継続的な向上

これらの目標達成を通してSDGsの目標達成に寄与すると同時に、不動産業そのもののイノベーションや超スマート社会の実現に貢献すると表明しています。

参考:三井不動産株式会社

企業事例②:株式会社MAI

メルディアグループとして不動産開発や賃貸事業を担う株式会社MAI。街づくりを中心とした社会貢献を推進し、ESG課題に積極的に取り組んでいます。

主な取り組み内容は下記の通りです。

  • 他構造の建築物比で約4倍のCO2排出抑制
  • 森林需要創出によるCO2吸収力の維持向上
  • 材料製造時においてRC造の約4倍のCO2排出抑制
  • 国産材使用による材料輸送時のCO2排出量削減

このようにMAIでは、「E:環境」を中心としたESG経営に取り組んでいるのが特徴です。たとえば、木造建築の開発を推進することで、鉄筋コンクリートや鉄骨プレハブ住宅に対して約3.7~4倍もの炭素貯蔵効果を期待できるとしています。

また、木材の調達を近隣地域から行うなど、国産木材の利用率を高めることにより、材料輸送時のCO2排出量の削減に貢献。森林資源と密接に関わる不動産業界ならではの取り組み事例と言えるでしょう。

参考:株式会社MAI ESG/SDGs

企業事例③:ヤマガタデザイン株式会社

ヤマガタデザイン株式会社は、山形県庄内を起点とした街づくり企業です。

「観光」「教育」「人材」「農業」を基軸に、地域・社会課題解決のためのプロジェクトを展開しています。

具体的な取り組み内容やプロジェクト例は、下記の通りです。

  • 地域の自然・食・文化の魅力を活かした新事業:景観を活かしたホテルの整備、運営(スイデンテラス)
  • 庄内における有機農業の産地形成 :農業者の所得向上を目指し、地域の有機資源の循環を重視した農業を推進
  • 農業の将来の担い手の育成:2年制の就農支援施設を運営
  • 全天候型の児童教育施設の整備、運営

地域密着型の企業ということもあり「S:社会・人」を中心とした取り組みを実施しています。

特に、地域の自然・食・文化の魅力を活かしたホテル「スイデンテラス」は、年間7万人以上が訪れる施設となり、地域活性化の一端を担っていると言えるでしょう。

また、子どもたちの個性育成を目的とした施設「SORAI」では、オリジナル遊具が設置された「アソビバ」や約800冊の本が楽しめる「ライブラリ」などを整備。

ほかにも、 海外の子どもたちとの国際交流プログラムを実施するなど、地元の子どもたちの学習や遊びの機会を提供しています。

不動産事業だけにとどまらず、地域社会への貢献を重視している好事例です。

不動産業界に関わりの深い社会課題

まとめ

今回の記事では、不動産業界におけるESGの動向や取り組み事例をご紹介しました。

環境や社会との関連性が深い不動産業界は、サステナビリティの推進が急務となっている業界のひとつです。
ESGに効果的に取り組むためには、自社の事業や強みを活かしながら戦略を立てる必要があります。

ぜひご紹介した事例も参考にしながら、独自のサステナビリティを推進してみてはいかがでしょうか。