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人との関わりを楽しむ子どもが集う「こども食堂」。カルビーとの協働で見えた成果と課題

NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえによると、2021年現在、全国に6,000ヶ所以上のこども食堂が存在する。その数はコロナ感染拡大前の約1.6倍にのぼり、コロナだけでなく、核家族や共働き世帯の増加などの社会情勢も相まって増加していることが伺える。

栃木県宇都宮市で、10年以上前から子どもと若者の支援をしている一般社団法人栃木県若年者支援機構内の「昭和こども食堂」は、コロナ前の2017年からカルビー株式会社と協働して夏祭りなどのイベントを開催。

今回は、2016年からこども食堂を運営している荻野 友香里さんに、カルビーとの協働が生まれた背景や成果、今後の課題などについて伺った。

キッズハウスいろどり 荻野友香里さん

お話を訊いた方 荻野 友香里 さん

2016年に一般社団法人栃木県若年者支援機構に入職。栃木県宇都宮市に「昭和こども食堂」を立ち上げ、カルビー株式会社と連携しながら、子どもたちのために夏祭りなどのイベントを開催。

想いや活動内容に共感してもらうために

――こども食堂を始められた背景を教えてください。

荻野友香里さん(以下、荻野さん):一般社団法人栃木県若年者支援機構という団体は、10年以上前から子どもと若者の支援をしています。若者に関しては、引きこもりやニートの状態の若者を就労につなげていく支援を行っている団体です。

子どもに関しては、無料で寺子屋を開放し、学習支援の活動をずっとやっていた団体だったんですが、2016年頃に学習面だけではなく、食事面などでもサポートをしていきたいということで私が入職することが決まり、こども食堂を立ち上げました。

――カルビーさんとはどういうきっかけで連携が始まったのでしょうか?

荻野さん:こども食堂を始めて半年くらいが経った頃、カルビーのCSR担当である橋本さんが、私たちが運営するこども食堂に来てくださりました。その時にカルビーの社会貢献委員をしていることと、何かカルビーに協力できることはないかと思って来てみたというお話を聞きました。

ちょうどその頃、子どもたちと一緒にご飯をつくる機会があってもいいなと考えていたタイミングだったので、「今こういうことを考えているんですが、子どもだけで来るとなると参加費をいただくのが難しいので、協賛してもらえませんか」というお話をさせていただきました。

――はじめは資金的な面での支援をお願いされていたんですね。

荻野さん:カルビーさんが協働の形を考えてくださっていたので、こちらから「資金提供という方法があります」とご提案させていただきました。

最初は1回のイベントに対して掛かる費用を協賛金として支援していただくことしか考えておらず、カルビーさん側も同じ考えだったと思います。ただ、イベントとなると子どもの参加人数も増えるので、カルビーの社員さんにも来てもらえたらうれしいなという話になりました。

――企業に支援をしていただくと言っても、どんな企業でも良いというわけではないと思います。企業さまにはどういうことをお伝えしていますか?

荻野さん:こども食堂にはいろいろな種類があるので、支援したいとおっしゃっていただいた方全員に、私たちのこども食堂の在り方をお伝えしています。

支援したいと言ってくださる方の中には、「こども食堂=困っている子どもたちが来ている」とか、「貧しい子のための活動なら支援したい」という想いで訪ねてきてくださる方もいます。

私たちはもともとさまざまな活動をやっていた団体なので、経済的に困窮している子どもだけでなく、人とご飯を食べる機会がない子などさまざまな子どもたちが気軽に集える場所として開いていることをしっかりお伝えしています。

そこに共感してくださって寄付をしたいと言っていただける方がいたら、寄付金の使途をご説明しています。私たちの想いに共感してくださって、応援したいと思っていただけるのが一番だと思います。

子どもたちにたくさんの人と関わる機会を

――実際にカルビーの社員さんがイベントに参加するにあたって、どのような話を意識的にされましたか?

荻野さん:カルビーさんとこども食堂のイベントをやっていたのはコロナ前で、今ほど世の中にこども食堂という存在が知られていませんでした。なので、イベントに来る子どもたちの中には、夏祭りに行ったことがない子がいたり、こうしたイベントに参加する機会を家庭ではもてない子がいることを伝えました。

一見すると子どもたちとただただ楽しく過ごすイベントなので、背景を知らないと「楽しかったな」「いいイベントだったな」で終わってしまうと思います。

実際に子どもと接する機会があるだけでも良いとは思いますが、事情を抱えている子どもにとっても大切な思い出になるイベントであることや、皆さんと一緒にできてよかったということをお伝えすることを意識しています。

そうすることで、少しでも活動に参加した意義を感じてもらえるかなと思っています。

――カルビーさんと協働されたことでの成果や変化はありましたか?

荻野さん:普段のこども食堂は、1回につき平均20人くらいで、一人ひとりとしっかりコミュニケーションがとれるような体制でやることを大事にしています。ただ、年に1、2回くらいはもっとたくさんの人と関わる場をつくりたいと思っていました。

カルビーさんとイベントをやろうとしていた時期は、こども食堂に従事している職員が私1人で、あとはボランティアさんだったので、子どもたちは多くても20人くらいじゃないと、ボランティアのコーディネートや利用者の対応をするのは厳しかったと思います。

そんな状況下でも、カルビーさんのおかげで、子どもたちがたくさんの人と関わる機会、いろいろなことを体験する機会をイベントとして実現できたことは大きな成果だと思います。

イベントに来てくださるカルビーの社員さんはモチベーションが高い方も多いですし、子どもたちと遊ぶのが上手な方も多かったので、こちら側としても安心してたくさんの子どもたちを受け入れられたのはすごくありがたかったです。

――イベントがきっかけでその後もこども食堂に継続的に来るようになった子どもたちもいるんですか?

荻野さん:いますね。こども食堂というと「どんなことをやっているかよくわからない」というお母さん方もいらっしゃるんですが、夏祭りなどのイベントとなると来やすいみたいです。カルビーさんと一緒にやっているということでイベントに来てくださった方の中には、「あの場の居心地がよかったから」とその後も継続的に昭和子ども食堂に来てくれるようになった方がいました。

――定量的に数字を出していたりしますか?

荻野さん:1回のイベントに対する参加人数は数値として見ています。カルビーさんと共同して開催したイベントの参加人数は以下のとおりでした。

イベント名参加人数
2018年8月20日(月)【夏祭り】27名
2019年3月23日(土)【文化祭】38名
2019年8月19日(月)【夏祭り】29名
2020年1月26日(日)【新年会】 22名

昭和子ども食堂の新年会の様子

こども食堂の現状を伝えることの重要性

――企業との協業にあたり、苦労したことや今後変えていきたいことはありますか?

荻野さん:カルビーさんに関してはとても良い形ができているので、コロナが明けたらまた是非一緒にイベントをさせていただきたいです。

ほかにもたくさんの企業さんが応援してくださっていますが、「こども食堂は貧しい人が多いから助けよう」という考え方も見受けられます。

そうではない場所もあるということを現場のスタッフがきちんと伝えていかないと、例えば、「賞味期限間近のものだけど使ってください」と、こちらの需要と反した物や量が届くこともあります。

「子どもたちに栃木の美味しい新米を食べさせてあげたい」と感じることもありますし、食育に力を入れているこども食堂でもあるので、そこはきちんと説明していく必要があるなと思います。

――企業含め他の組織と連携する際は、運営者の子どもに対する想いや実際の活動内容などをご理解いただけるかが重要ですね。共感してくださる企業であれば、今後も連携をしていきたいですか?

荻野さん:そうですね。こども食堂には関わる人がたくさんいる方が良いと思いますし、一つのこども食堂を通して子どもたちの実情をもっとたくさんの人に知ってもらいたいと思っているので、そういう意味では企業さんとも引き続き連携していきたいと思っています。

――コロナ禍でカルビーさんとのイベント活動は止まっていると伺っていますが、再開の目途は立っていますか?

荻野さん:昭和こども食堂は、コロナ禍でもずっと運営をしているんです。なので、イベントの再開時期は正直企業さん側の判断によります。

カルビーさんは食品などを扱っているので、その判断は難しい部分もあると思いますが、いつも気にかけてくださり、イベント開催以外のさまざまな形でご支援を続けてくださっています。

企業が現場を知ることで協働の糸口が見える

――子どもたちのために何かしたいと思っていらっしゃる方に向けて、現場のスタッフとして何かメッセージがあればお願いします。

荻野さん:こども食堂って全国に6000ヶ所くらいあるんです。お住まいの市町にないところもまだまだあるとは思うんですが、探すと意外と近くにある場合も多いと思います。

イメージしているものと、実際に行ってみて感じるものは違うことが多いと思うので、実際に1回こども食堂に行ってみていただきたいです。

もちろんいろいろなタイプのこども食堂があるので、一つだけを見て、「こども食堂ってこういうものか」と概念が固まってしまうのも良くないとは思います。それでもイメージしているものとの違いは、実際行ってみれば感じていただけると思っています。

一つ一つ雰囲気や運営方法が違うとはいえ、こども食堂の数だけ子どもを想う大人がいるということは間違いないと思います。

まずは実際に足を運んでいただいて、そこから一緒に何ができるかを模索していけたらうれしいです。

サステナビリティ委員会