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プロボノ10年、立ち上げの経緯から成果の“見える化”まで|Panasonic【後編】

支援先組織の役に立つだけでなく、参加した社員の成長につながる人材育成効果が大きいとされるプロボノ。

パナソニック株式会社の企業市民活動「NPO/NGOサポート プロボノ プログラム」に関する後編となる本記事では、プログラム立ち上げの背景や10年間の成果について、パナソニックオペレーショナルエクセレンス株式会社の東郷琴子さんにうかがいます。

(同プログラムの内容や具体的事例、社員の方の声については前編をご覧ください。)

NPO, NGO, 企業、連携、支援、プロボノ

東郷 琴子 さん
Kotoko Togo

パナソニックオペレーショナルエクセレンス株式会社
企業市民活動推進部

ソーシャルアクション推進課 課長

NPO/NGOの組織基盤を強化しないと持続的発展が危うい

――まずは、プロボノプログラムを立ち上げられた背景を教えていただけますか。

東郷さん:パナソニックは、会社として早い時期からNPO/NGOをはじめとする市民活動団体の方々と協働する機会がありました。

1990年代から企業市民活動の自主プログラムにおいて市民活動団体の方々と協働したり、1998年のいわゆるNPO法が制定されたときからは、「ボランティア・市民活動資金支援プログラム」という、社員、1親等の家族、OBが定期的に活動する非営利組織に対して資金支援をする制度がありました。

そして、NPOの方々と接点を持たせていただくにつれ、皆さんいろいろなところの助成金を頼りに活動されているなあという実感を持ちました。あわせてその助成金が、特に2000年当時には、直接的な経費には充てられても、自分たちの人件費などの間接的な経費には使えないという状況でした。また、単年度の助成金が多かったことから、今は助成金があるからこの活動ができるけれど、来年度以降は活動が続けられるかわからないといったように、中長期の展望が描きづらくなっていました。

さらに、あちこちから助成金をもらってプログラムを実施されて、1年が終わる頃にはその報告書を書くのに時間を取られてスタッフの方が疲弊してしまい、組織としての成長実感を得られないまま次々と助成金の獲得に奔走されているNPO/NGOが多いのではないかと感じました。

市民活動の持続的発展を考えると、NPO/NGOの皆さんの組織基盤の強化をしないと危ういということから、「Panasonic NPO サポート ファンド」という、活動への助成ではなく組織基盤の強化を応援させていただく助成金プログラムを立ち上げました。2001年から現在まで、累計445件、5億円強の助成をしています。(*1)

*1:パナソニックの企業市民活動では、グローバルな共通目標であるSDGsと創業者が考える企業の社会的使命の2つの背景から、「共生社会の実現に向けた『貧困の解消』」という重点テーマのもと、課題解決に取り組んでいます。2018年NPO サポート ファンド」は、重点テーマである「貧困の解消」に合わせてNPO/NGO サポートファンド for SDGs」へと改定されました。

資金面での支援に始まり、より多面的な支援へ

東郷さん:サポートファンドをきっかけに、会社として応援したNPOと従業員との接点を持たせたいという想いで2011年に始めたのが、従業員がチームを組みビジネススキルを活かしてNPO/NGOの事業展開力や組織運営力の強化を応援するNPO/NGOサポート プロボノ プログラム」になります。

この他、サポートファンドを運営するなかで、必要に応じて組織基盤強化のプログラムを多面的に展開しています。組織基盤強化の重要性をご理解いただくためのワークショップもそのひとつです。

また、サポートファンドには、助成先の皆さんだけで助成事業を実施いただくのではなく、第三者の方に伴走支援していただきながら助成事業を行うという特徴があります。このNPO/NGOの皆さんに伴走支援できる人材が日本では限られているのではないかという問題意識もあり、個々の団体に組織基盤強化の側面で伴走支援できる人材を育てていこうと始めたのが、「NPO『支援力』応援プログラム」です。こちらは地域の中間支援組織の方々を対象とした研修です。

2022年現在、パナソニックによるNPO/NGO組織基盤強化に向けたプログラムには、学びのための「組織基盤強化ワークショップ」「NPO『支援力』応援プログラム」実践のための「NPO/NGO サポートファンド for SDGs」「NPO/NGOサポート プロボノ プログラム」の4つがあります。
業市民活動 NPO/NGOの組織基盤強化支援

チームを組んで” “スキルを活かして” 支援する

――NPOと社員の方との接点を持たせたいと考えられたとのことですが、詳しくお聞かせいただけますか。

東郷さん:はい。2008年ぐらいに、パートナーシップ・サポートセンターが主催する企業とNPOとの協働事業を顕彰する賞に応募したことがあったんです。

私どものNPO/NGO支援のプログラムは、パナソニックが単独で行っているのではなく、プロボノプログラムでしたらサービスグラント、また国際協力NGOセンター、市民社会創造ファンド、日本NPOセンターと協働してプログラムの企画開発や運営をしています。

そこで、協働事業を顕彰する賞に、「NPO サポート ファンド」で応募したのですが、賞はいただいたのですけれど、大賞には選ばれませんでした。審査過程での気づきとして、“社員の巻き込み”という点がプログラムに弱かったからではないかというのが、担当者として感じた課題でした。

当社にはもともと、従業員がNPOと関わることを応援する仕組みもありましたが、やはりチームを組んで応援するというのは大きな違いだったのが、あまりまだ私自身も体験したことがなかったですし、そこをちゃんと訴求もできなくて。プログラムとしても次の10年を視野に入れていた時でしたので、次のフェーズとしては従業員と助成先NPO/NGOとの関わりを持たせたいと思い、プロボノプログラムを提案しました。

当時、サービスグラントが主催するセミナーに参加して、プロボノという“チームを組んで”“スキルを活かして”応援する新しい形のボランティアを知りました。当社のNPO/NGO支援プログラムのコンセプトである組織基盤強化につながるという点でも、親和性があると感じていました。

NPO/NGO、社員、それぞれにとっての成果

―― プロボノプログラムの成果について教えていただけますか。

東郷さん:毎年従業員30人ほど、10年間で330名が自主的に参加してくれました。参加した従業員や支援先からの感想などでプロボノの意義や価値を感じていたものの、改めて何がどう良いのか、どんな変化があったのかを知りたいと思い、昨年、10周年の節目にアンケートを取りました。(プロボノプログラム10周年アンケート デジタルブック『プロボノのススメ』

プロボノの支援先の皆さんには、「プロボノを通じて組織の基盤強化につながりましたか」との問いに対し、25団体中23団体が、基盤強化につながったと回答してくれています。(*2)

――支援先の皆さんは、具体的にどのような成果があったとのことでしたか。

東郷さん:大きく4つありました。

まず、事業収入、寄付、スタッフ、支援者数などが増加しているということ。そして、ご自分たちの活動が可視化されて、組織内の課題やビジョンの共有が促進されているということ。

また、プロボノのメンバーがNPOのスタッフの方にヒアリングをさせていただいたり、ステークホルダーへのインタビューの結果などをフィードバックするなかで、活動に対する自信やモチベーションが向上し、日々の活動における実行力が増したという声をいただいています。さらに、企業人との協働の経験が、プロボノの支援メニュー以外の日常業務の中でも活きていると答えてくれています。

一方で、財源確保やスタッフの人材育成については、一定の成果は出たものの、引き続き課題はあるとのことでした。

――参加された社員の方にとっては、いかがでしょうか。

東郷さん:従業員にとっての成果は、大きく5つありました。

プロボノが社会感度を高めることにつながっているということ。多様性の理解や、自分自身の自己効力感、自己有用感、主体性を高めることにつながっているということ。また、自分の本業にも活きる経験になっており、自律的なキャリアを考えるきっかけになっているということ。そして最後に、プロボノという活動を会社として行っていることで、私どもの企業市民活動や、自社への愛着、ロイヤリティが高まっているということが見て取れました。

*2:残りの2団体は、その当時と今とで事業形態が大きく変わっていたり、事業承継をされていたりして、今現在の団体には直接つながっていなかったとのこと。

一番の魅力はNGO/NPOとの共同作業そのもの

――企業が社会課題解決に向けて外部組織と連携するにあたって、社内でのチームのあり方は重要なところでしょうか。

東郷さん:プログラムの設立当初は、他社との混成チームというところにプロポノの魅力があるのかと思っていたところもありました。

けれども、それ以上にNPO/NGOの皆さんとの共同作業に一番の魅力があることを感じまして、また、やりたいという社員が多くなってきたこともあり、当社グループの従業員でチームを組んでいます。私どもの会社の規模になると、実は社内チームとはいえ初対面であることが多く、社内の異職種交流の場になっています。

チームを組むことで、体感を通して多様性への理解が進む

――企業の中で社会貢献プログラム等を立ち上げたい場合、社員や組織にとってのどのような価値を訴求することになるでしょうか。

東郷さん:そうですね、ひとつには「社会課題への感度の高まりや視野の広がり」があると思います。さらに、プロボノで言うと、今後大切になる、多様性への理解のような部分が、チームを組むことやNPO/NGOと一緒にプロジェクトを進めることで体感できる。それは本業にも大きく活きてくるのではないかと思っています。

例えば、NPOと企業ではお互いに組織の成り立ちが違います。どちらかというと企業はトップダウン型ですが、NPOでは皆さんの想いや合意形成を大切にしながら仕事を進めていかれます。プロボノでは、NPO/NGOの皆さんの想いに寄り添い、より良い選択を話し合いながら進めていったのが新鮮だったとの声も聞かれました。

また、私どもの従業員チームのほうも、年代、職種、経歴、プロボノへの参加動機などがバラバラななか、プロジェクトの目標、目的に向かって、フラットな関係で皆で意見交換をしながら作り上げていく。若手がプロジェクトマネージャーを担い、ベテラン勢がサポートしていくといった姿も見られるのが、プロボノならではですね。

人材育成等につながることを知ってもらい、さらに展開していきたい

――プロボノプログラムを始めるときに描いていた目標に、現時点で達していると感じられますか。

東郷さん:いえいえ、プロボノというものを10年やってきて、支援先にとっての成果や、参加した従業員にとっての良い変化、例えば社会課題への理解が深まる、それによって視野が広がる、イノベーションマインドや仕事へのモチベーションが上がるなどにつながっていることは、今回のアンケートで可視化することができました。いよいよ、これをもって大きく展開していきたいと思っています。

特に、従業員がより参加しやすい環境をつくるためには、上司の方たちにもプロボノの意義や価値を体感してもらい、人材育成につながることを人事の担当も含め理解してもらって、もっと多くの従業員に参加してほしいと思っています。

10年取り組んでいるんですけれども、このプロボノプログラムは6ヶ月ぐらい続くので、やはりちょっと敷居は高いんですよね。参加した社員の数でいうと、まだまだ多くはないんです。

プロボノはボランティアプログラムの中ではハードルが高いものなので、まずは、従業員が何らかの社会課題の解決に向けて活動しているようにしていきたいと思っています。プロボノに限らず、従業員一人ひとりが、社会課題の解決に向けて行動を起こし、社会的インパクトを生み出せたらという想いです。

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