ヤフー株式会社は、国内の脱炭素化および再生可能エネルギー化への取り組みの一つとして、2021年1月21日に「Yahoo! JAPAN 地域カーボンニュートラル促進プロジェクト」を発表しました。
Yahoo!JAPANは、国内の脱炭素化などの促進を目的に、地方公共団体が行うカーボンニュートラルに向けた地方創生の取り組みを広く募集し、同年8月24日に第一弾となる寄付先を発表。同プロジェクトを通じて、10の地方公共団体に計2.7億円の寄付をしています。
そして、同プロジェクトの特徴の一つが、「企業版ふるさと納税(※1)」の寄付先となる地方公共団体を対象としていることです。
そこで今回は、本プロジェクトの推進者であり、SR(Social Responsibility)推進統括本部長の西田修一執行役員に、企業版ふるさと納税を活用した理由や、同プロジェクト推進の裏側についてお話をうかがいました。
※1:「企業版ふるさと納税」とは、公共団体が行う地方創生の取り組みに対する企業の寄附について、法人関係税を控除すること。
お話を訊いた方 西田 修一 さん
ヤフー株式会社 執行役員
コーポレートグループSR推進統括本部長
広告代理店勤務などを経て、2004年、ヤフーに入社。2006年から「Yahoo! JAPAN」トップページの責任者を務める。2013年に検索部門へ異動。東日本大震災の復興支援キャンペーン「Search for 3.11 検索は応援になる。」を立ち上げる。2015年に検索事業本部長およびユニットマネージャーに就任。2017年から執行役員。2021年からZホールディングスのESG推進室室長を兼務
企業のハードルを下げる「企業版ふるさと納税」という仕組み
――今回「企業版ふるさと納税」を掛け合わせられていますが、西田さん自身が企業版ふるさと納税を知ったきっかけや取り入れようと思った理由は何ですか?
西田さん:企業版ふるさと納税を知ったのは、2017年頃です。ちょうどその頃に私は今のSR推進の立場になり、そこからまもなくして、内閣府の方に企業版ふるさと納税の話をうかがいました。
とはいえ当時はまだ、企業の実質的な控除が最大6割という仕組みだったため、当社の財務部門などに共有はしていたものの、なかなか活用の検討まではいきませんでした。自社の負担額が相当大きいことがネックポイントでした。
それが、2020年度に企業版ふるさと納税が改正され、税控除が最大9割で、企業負担は実質1割ということになりました。これはだいぶインパクトが変わるなと思ったんですね。
企業の負担額が大きいと、株主などのステークホルダーへの説明や、我々の経営指標との結びつき、あるいは目標に対する利益が厳しい場合はやめましょうという話になってしまうことが多いです。
それが1割負担であれば、このプロジェクトをやることによる広報価値や、企業からのメッセージ発信の対価と考えれば、必ずしも高くはないと思いました。会社としてもコンセンサスを得やすいと感じました。
寄付の部分がいたずらに大きくなることは、営利を目的とした企業としては必ずしも正しい姿ではないと思うんですが、少ない額で社会的にインパクトを出せるのであれば、むしろそれはやるべきだという話になりやすいと思っています。
そういう意味で、僕は、企業版ふるさと納税は企業が寄付をする際のハードルを下げてくれる一つの仕組みだと思っています。
――社内調整をするにあたって苦労した点や、よく聞かれたことはありましたか?
西田さん:そもそも「企業版ふるさと納税」が知られていなかったので、まずは経営陣に対してその説明からしなければいけなかったですね。
――しっかり説明すれば、理解は得られやすかったですか?
西田さん:そうですね。役員への説明時に強調したのは、「実質1割負担」という部分です。
やはりここはすごく大事で、例えば、「5億円を寄付します」と伝えるのと、「実質5000万で寄付します」というのではまったくインパクトが違いますよね。
理解を得るために、コミュニケーションを工夫する必要がありました。
あとは、個人のふるさと納税はみんなやったことがあるので理解しているのですが、個人のふるさと納税は返礼品のイメージが強いので、「返礼品を企業に置き換えるとどういうことなの?」という質問が多かった印象です。
ふるさと納税を理解する上で返礼品は一つの取っつきやすさでもあると思いますが、一方で、企業版ふるさと納税を説明する上では誤解をされやすい箇所だと思います。
企業版のふるさと納税の場合は、返礼品という目に見えやすい見返りはないので、このあたりの伝え方がキーポイントだと思っています。
協働することで深まる自治体との関係性
――企業版ふるさと納税を活用したこのプロジェクトによって得られた価値はありますか?
西田さん:一つ目の価値は、広報という文脈で非常に高い効果が得られたことです。カーボンニュートラルという文脈での公募による取り組みが日本初だったので、多くのメディアに取り上げられました。
また、当プロジェクトは、先日発表された内閣府が表彰する令和3年度「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)に係る大臣表彰」の企業部門を受賞することもでき、さらに広報価値が高まると思っています。
二つ目は、自治体と強い関係を築けたことです。北海道三笠市の市長には実際にご来社いただいたこともあり、今後の展望などいろいろな話をさせていただきました。
また、宮城県からはアプリやポータルサイトを作りたいという要望がありましたが、もっとこうすべきだという議論から展開し、当社のプロジェクトメンバーが入って相談を受けたりしています。
寄付による金銭的な支援のみならず、事業の企画から参画することで、各自治体との関係性は非常に強くなってきていますね。
――やはり強い関係性を築けるとビジネスチャンスも生まれやすいですか?
西田さん:そうですね。企業版ふるさと納税では、寄付企業への直接的な見返りは禁止されているので、私たちもそこは求めていません。
ただ、企業版ふるさと納税という枠組みの外でビジネスの話をする上では、関係値がものすごく大事になってきます。
例えば、企業版ふるさと納税での寄付をきっかけとして、有力な自治体とはもっと踏み込んだ取り組みをする際のパートナーにもなり得るのではないかと思っています。
実際に自治体が実現に向けて動き出す際は、当然ヤフーはその候補の一つになりえると思っています。
そういう意味でも、企業版ふるさと納税を活用することで生まれる深い関係性は有効だと思います。
ポイントは会社から従業員への働きかけ
――企業版ふるさと納税には「人材派遣型」もあります。今回のカーボンニュートラルの文脈だと人材派遣はなかなか合致しづらいとは思うんですが、今後、別の分野などで人材派遣の活用は考えられていますか?
西田さん:当社では正直人材派遣型は難しいなと思っています。これは人事部にも投げかけたことはあるんですが、なかなかうまくいった例がありません。
なぜかというと、企業版ふるさと納税に限らず、自治体から誰か派遣してくれませんかなどの話があったりするんですが、自治体が期待していることと我々従業員のスキルがマッチしないんですよね。
当社の場合は「DXの推進」や「ホームページの作成・運営」を期待されることが多いのですが、当社にDX推進のプロがいるかというとそうじゃないんですよね。
ホームページに関しても、サービスの運営としてページは持っていますが、一般的に想起されるホームページとサービス提供を目的としたページ作りは異なります。自治体がヤフーに期待している人材像と、我々が抱えている人材像が少しずれている気がしています。
我々のインターネットという業種の幅が広すぎて、具体的な人材像やスキルが想起しにくいのが原因だと思っています。
我々に限らず、企業の人材派遣を推進するには、双方の人材像の擦り合わせが必要になってくると思います。
――このプロジェクトに対する従業員の認知はどのくらいありますか?
西田さん:従業員に向けて当プロジェクトについての説明はしていないので、報道などを通じて知っている程度だと思います。
ただ、従業員のサステナビリティへの理解を推進していこうという動きはあるので、経営陣や現場に対してこういう取り組みがあるんだよと周知していくことは今後あるかもしれないですね。
――従業員へ周知する場合に想定される課題はありますか?
西田さん:すでにイントラネットなどを活用して従業員に周知することは可能です。一方で、社内には日々いろいろなニュースが溢れかえっています。当社のイントラネットでも毎日膨大な記事が出ているので、正直キャッチアップできている従業員は少ないんじゃないかなと思っています。
なので、どちらかというとこちらからの働きかけが大事だと思っていて、「ここにいけば情報が見れますよ」というよりも、「今度こんなことやるけど、参加する人いますか?」みたいな投げかけが大事だと思っています。
今、ヤフーでは国内であればどこに住んでも構わないことになっているので、徐々に従業員の中でも地域貢献などへの意識が高まりつつあります。
例えば、一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)と一緒に、休眠預金を助成している団体とそこへボランティアとして参加する当社従業員とのマッチングに取り組んでいます。
これにより、那覇センターにいる従業員が沖縄のボランティアとして参加したりしており、今までになかった動きが出てきています。この従業員のマッチングはこれからさらに進むと思っています。
これまでも従業員には「課題解決休暇」(年度で上限3日)は与えられているんですが、PTA活動や地域活動に参加するために使う人は一部いるものの、なかなか使用率は伸びていないのが現状です。
伸び悩んでいる理由は、そもそもどんな活動があるかわからないことにあると思っています。
そういった意味でも、会社として活動案件を集めて、それを従業員につなげていくことで、結果的に従業員が地域の活性化にうまくマッチし、ひいては社会的インパクトの貢献につながると思っています。