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<地域連携>パーパスをきっかけに、寄付先や関わる人にとっても扉がひらかれていく|夢真ビーネックス【前編】

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「パーパス経営」という言葉を、ずいぶん聞くようになりました。自社の存在意義、志、社会に与える価値などを意味するパーパス(purpose)を軸に、あらゆる企業活動を行うことを言います。

今回、取材を行った夢真ビーネックスグループは、メーカー、ゼネコン、IT企業へのエンジニア派遣を主な事業としています。同グループのパーパスは、「幸せな仕事を通じて ひとりひとりの可能性を ひらく社会に」というもの。

本シリーズ記事では、取締役である村井範之さんに、事業・非事業を通じたパーパスの実践と、それをきっかけに広がることについてお話をうかがいました。

前編となる本記事は、2020年度に始まった岩手県滝沢市との連携と、今後パーパスに沿って進めてみたいことについてのお話です。

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村井範之 さん

夢真ビーネックスグループ 取締役

<夢真ビーネックスは、企業版ふるさと納税による寄付(*1)(*2)とビジネス・インキュベーション施設「ビーネックスラボ滝沢」(*3)を通じて、岩手県滝沢市と連携しています。同ラボではグループ内のエンジニア5名が滝沢市に移住し、キャリアアップの取り組みに加え、オープンイノベーションや地域課題の解決につながる活動を行っています。>

*1:企業版ふるさと納税(地方創生応援税制):国が認定した地方公共団体の地方創生プロジェクトに対して企業が寄付を行った場合に、法人関係税から税額控除する仕組み。

*2:若者の交流と最先端の人材育成事業による地域活性化プロジェクト(「滝沢人」市場価値向上プロジェクト)の推進に参画。

*3:市町村が公立大学施設内に整備する全国初の産学連携サポート施設である滝沢市IPU(Iwate Prefectural University:岩手県立大学)イノベーションセンター内に設置。

滝沢市とは「人材に対する熱意の波長が合った」

――岩手県滝沢市との2つの連携プロジェクトは、御社のSDGs(Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標)への取り組みの中でどのような位置づけにありますか。

村井さん:滝沢市とのきっかけは、企業版ふるさと納税でした。

企業版ふるさと納税に関して滝沢市の関係者とコミュニケーションを進めていくうちに、SDGsへの取り組みに関して、可能性が広がりそうだと感じたんです。

滝沢は人に関わる教育(*3)に特徴がありましたし、その他の取り組みも持続的にやっていくにふさわしいと思いました。

*3:SDGs4「質の高い教育をみんなに」

――企業版ふるさと納税をしようと考えられたきっかけは何かありましたか。

村井さん:内閣府がやっている「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」、つまりSDGs関連事業の地方公共団体プロジェクトと企業とのマッチングイベントです。行く段階では、「SDGsへの取り組みとして活かせないかな。ただ、個人版ふるさと納税のイメージからすると企業の取り組みとしては妥当なのかは話を聞いてみないとわからないな」という感覚でした。

そのイベントに参加したのも、企業が大きくなっていくにつれて、社会的な責任を果たしていかなければいけないという考えがあって、その一つとして情報収集のために参加してみようかというのが理由でした。

そのイベントでお会いした滝沢市役所と企業の方々のお話を聞いていると、当社の事業における人材に対する考え方やビジョンと方向が同じだし、人々の機会を広げていくことに対する熱意の波長が合うと感じました。それが、滝沢市のプロジェクトに寄付しようと考えた大きな理由ですね。

――人材育成・教育という共通項があったことのほか、滝沢市の人々が魅力的だったとうかがっているんですけれど。

村井さん:そうですね、行政だけでなく社団法人や個人事業主など、「滝沢市をこうしたい」という思いをもつ様々な組織が集まってプロジェクトを推進していこうというコンセプトがはっきり伝わりました。

それぞれの人が滝沢を好きだということは、その場でお話ししたらわかりますし、熱量で言うと滝沢市が一番強かったですね。

「勢いで決めてもよい」と思ったのは、場所や機会、熱意ある人々がいたから

――滝沢市との連携にあたって期待されていた成果は、どのようなものでしたか。

村井さん:正直に言いますと、寄付を決めただけでは具体的な連携のような形は見えていなかったです。当社グループは滝沢市内での事業取引がないので、寄付以外、何もない状況ですよね。

ただ、社内で検討していくなかで、地元に入っていろいろできる機会として、滝沢市IPUイノベーションセンターにちょうど空き枠があるので、そこで当社の社員がやりたいことを見つけられたら面白いんじゃないか、ということがありました。

半分、勢いで決めたところもあるのですが、それもやはり、企業版ふるさと納税を含めて話を聞いて、現場でそういう場所や機会があることを知ったからこそ、話が進展したのだと思います。

企業版ふるさと納税だけだったらたぶん、「寄付対象の事業に従ったプログラムをちゃんとやってくれるよね」というコミュニケーションだけで終わってしまいますものね。

――それで終わりたくはなかったということですね。

村井さん:そうですね。「ビーネックスラボ滝沢」で社員も関わることによって、一歩踏み込むことができそうだなあと。

IPUイノベーションセンターを運営する滝沢市も岩手県立大学もどちらもウェルカムで、ありがたいことに人材の交流の後押し、機会の創出でサポートいただけるという状況でした。その熱意はイベントの時と変わらずでしたし、今も変わらず同じだと感じています。

エンジニア5名が移住。「ビーネックスラボ滝沢」の取り組み

――現地に入ってできることとして、具体的なものが見えていたわけではなく、何か可能性を感じられたとのことでしたが。

村井さん:当社グループはエンジニア派遣の事業を行っているので、顧客企業のプロジェクト期間に合わせて就業の区切りが生じることが多いのですが、滝沢市に行くことは、当社の都合で業務からわざわざ離れるということです。

そうまでしても滝沢市に集まってもらった主な目的は、エンジニアが自分のキャリアを見つめ直して、新しいことに取り組んでほしい、ということでした。

目の前の仕事だけに追われるのではなく、自分自身のキャリア、そしてもう少し広い視野で、社会課題にも取り組みながらやるような、そういう時間や機会を少しでも設けたいなと。

現地に行って、地元の人たちや地域の会社に触れて、取り組みたいことを見つけてもらう。それをラボのタスクとして、進めながら立ち上げようと考えました。

連携する岩手県滝沢市にて、「ビーネックスラボ滝沢」のメンバーであるエンジニア5名が親子向けプログラミングイベントで講師役に。青い上着を着ているのがメンバーの1人。

――今のところ、地域連携ではどんな成果がありますでしょうか。

村井さん:例えば、岩手県立大学の教授の研究をお手伝いしました。害獣対策のテーマで、カメラで畑を撮影して、映った動物をAIで解析し、動物の種類に応じて警告する仕組みです。

もともと大学で取り組んでいたものですが、動物を判別する仕組みがなかったので、AIによる判断のロジック実装にラボのメンバーが関わりました。これはラボのメンバーが自発的に岩手県立大学でのニーズを伺ってチャレンジしました。

あとは、企業版ふるさと納税の対象事業となる教育プログラムで講師として参加しています。現地の社会人や学生、子どもたちに直接プログラミングを教える機会も始まりました。

地方、大学、全く違う環境で、スキルもコミュニケーション能力も自発性も上がる

――社員のエンジニアの方たちに変化があったとか、成長していると感じられることはありますか。

村井さん:そうですね、非常に大きな成長をしていると思っています。

一人ひとりのスキルの面で言いますと、例えば、機械の設計やテストの仕事をやってきた人が、ソフトウェアでの開発や実装方法のスキルを身に付けたりなどのことです。それって、仕事をしながらでは、簡単にはできないことです。派遣先のお客様のところで働きながら、異なるスキルを広げていく機会というのはあまりないですので。

滝沢市に行ったことで、課題に対して自分たちで考えて、解決のために新しいスキルに取り組んでプログラムを書いたりシステムの設計をしたりといったことを、自発的にできるようになったという実感をもっています。

今後、ソフトウェア技術者として活躍するときにも、単にソフトウェアだけやってきた技術者とは違うバックグラウンドがあるのは強みです。

そして、大学や現地での教育に携わるという今までにない経験をするなかで、対人コミュニケーションがかなり豊かになっていると思います。

大学や関わっている団体の方に対してどういうコミュニケーションをとったらプロジェクトが前に進むのかですとか、自分が主導していかないと前に進まないといったところは、これまでたぶんやっていなかったようなポジションです。そういう環境で、コミュニケーション能力がすごく付いてきています。

東京で同じことをやっても駄目です。滝沢にいる期間には区切りがあって、ある意味、企業の看板を背負って、土地柄や経験値の違うところでチャレンジをしている。地方創生に関わる方々も各々がチャレンジをしていらっしゃるなかで、同じチャレンジャーであることは大事な要素ではないかと思いますね。

企業版ふるさと納税の寄付をきっかけに、当社グループも可能性の広がる扉がひとつ増えましたし、これからも広がっていく、ということです。

やりたいのは、人の可能性の「扉をひらく」こと、ひと押ししてあげること

――今後は、どのようなプロジェクトをされたいですか。

村井さん:地域創生など社会と共に進むプロジェクトに関しても、当社グループのパーパスの価値観に沿って「扉をひらく」ことができるプロジェクト、より多くの人により良いチャンスがひらかれるようなプロジェクトをやっていきたいですね。

当社グループは、働く人の仕事の機会、言い換えると「扉」が多様になって、いろいろな扉をひらき進んでいくことによってスキルアップやキャリアアップするということを大事にしています。また、仕事に幸せを感じ、高いパフォーマンスを発揮することも実現していきたいと思っています。

夢真ビーネックスのパーパスは「幸せな仕事を通じて ひとりひとりの可能性をひらく社会に」。解説には、「働く人ひとりひとりの『幸せな仕事』に向けて、たくさんの扉を創り続けること」「扉とは可能性をひらく機会であり、『幸せな仕事』への道しるべ」とあります。

やりがいをもって働く人が増えれば、派遣先の顧客企業、そして顧客企業が作っているものを使う人にとっても、より良い商品やサービスなどになる。つまり、当社グループでたくさん扉をひらいてどんどん進んでいく人が増えると、より良い社会が待っていると思いますね。

この考えは事業を通じてだけではなく、たとえば企業版ふるさと納税の寄付先やそこに関わる人にとっても、同じように扉がひらかれ可能性が広がっていくことになり、当社のパーパスに沿うと考えています。

当社のパーパスをきっかけに、地域課題の解決への扉が増える方法があると思っています。そのようなプロジェクトには継続的に関わっていきたいです。

*後編はこちらから。