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寄付からはじまる、NPOと企業の「連携」のカタチ2|神奈川県視覚障害者福祉協会×三木プーリ

三木プーリ株式会社(本社:神奈川県川崎市)は、『米沢へ送ろう、わたしたちのありがとう。』をテーマに実施したわくわく寄付コンペに引き続き、『街と私たちとのサステナブル化』と題して、同社のヘッドクォーターが位置する神奈川県座間市を中心に社会課題の解決に取り組む団体への支援を始めました。

今回、従業員投票で寄付先として選ばれたのは、視覚障害を持つ方々の積極的な社会参加を支援するNPO法人神奈川県視覚障害者福祉協会。昭和23年(1948年)に前身となる任意団体を設立して以来、75年にわたって活動を続けてこられた長い歴史を持つ団体です。

両者は「寄付だけの関係にとどまらず、継続的な対話を大事にしたい」という想いのもと、神奈川県視覚障害者福祉協会 代表理事の鈴木孝幸さんと三木プーリのわくわく寄付コンペ委員会(参加者6名)とでリモート対談を実施しました。

鈴木さんからは、団体紹介動画ではお伝えしきれなかった団体の魅力とともに、『当事者目線』での課題感や、より良い福祉の実現に向けて現場から声を上げ続けることの重要性が力強く語られました。

三木プーリの委員会の皆さんにとっても、新たな学びと同社の製品と社会との深い結びつきを改めて感じていただく機会として、今後の連携にも期待が膨らむ素敵な対談でした。

寄付先団体をもっと知るために

中3で全盲に。仲間の一言がきっかけで代表を務めて23年

鈴木さん:この度は、わくわく寄付コンペを通じて、三木プーリの皆さまからご寄付をいただきまして、大変うれしく思っています。本当にありがとうございました。

私事ですが、たまたま地元が座間市で、三木プーリさんのテクニカルセンターから歩いて10分ほどのところに住んでいます。小学生の頃から、三木プーリさんのすぐ横のあたりをよく自転車で通っていました。

私は座間中学3年生のときに、サッカーの授業中の怪我により失明し、全盲となりました。

その後は平塚の盲学校に通い、整形外科にも1年ほど通った後、座間市役所でリハビリの仕事に約30年従事していました。現在は退職して、この団体の活動を中心に生活しています。

NPO法人神奈川県視覚障害者福祉協会 代表理事の鈴木孝幸さん>
素敵な笑顔が印象的です

活動に関わったきっかけは、視覚障害のある仲間から「一緒にやろうよ」と声をかけられたこと。約22年、この神奈川県の代表をさせていただいています。

本日はどうぞよろしくお願いします。

福祉をより良くするためのイベントや調査を通年で実施

――まずは、団体のご活動について、改めてご紹介いただけますか。

鈴木さん:私たちNPO法人 神奈川県視覚障害者福祉協会は、『視覚障害のある人たちが生活しやすい環境を作っていく』ことを目標に、75年間活動を続けてきました。

現在の会員は、神奈川県内の横浜市と川崎市を除く31市町村です。人数は、同地域に住む約7000人の視覚障害者のうち430人ほど。この中から理事12名、監事2名の計14名で理事会を構成し、月1回のペースで話し合いをしながら事業を進めています。

私たちが毎年通年で行っている事業としては、まず、年1回の「総会」と、横浜・川崎を除く県内17団体の団体長を集めて行う年2回の「団体長会議」があります。

23年前からは「福祉大会」を行っています。これは、バリアフリーや視覚障害者の職業についての分科会などさまざまなテーマに分かれて討議を行い、これからの福祉をさらに良くしていこうという活動です。

それから、毎年2月11日には「文化の集い」という合唱や朗読劇、カラオケや三味線などを発表しあう場を設けています。今年は「雅楽」を生で聞かせてもらおうという企画を組んでいますよ。

「研修会」では今年度、3つの大きな調査を実施しました。
1つ目は、視覚障害がある人たちに対して市の情報をはじめとするさまざまな情報が、どのような方法(点字・録音・拡大文字など)でどのくらい提供されているかについて。
2つ目は、ハザードマップがどんなふうになっており、緊急災害時にはどのように情報を伝えていくかについて。
それから3つ目が、3歳頃に行われる「弱視スクリーニング検査」の各市町村の取り組み状況についてです。

視覚障害があっても、スポーツを楽しめる

鈴木さん:鈴木:ここからは、レクリエーション的な活動である、「青年部」「スポーツ部」についてご紹介します。

例えば、視覚障害があっても、ボーリングをやる人はいっぱいいるんですね。一般のボーリング場を借りて、「全盲の部」と「弱視の部」、「晴眼(視覚に障害がない人)の部」の3つに分かれてそれぞれ競い合っています。

それから「グランドソフトボール」。皆さん、キックベースボールならやったことがあると思うのですが、ボールを転がして、それをバットで打って”野球”をやります。ベースは衝突すると危険なので、守備用と走塁用で分かれていて、それぞれにコーチがつき、全盲の人でも思いっきり打って走ることができます。

昨年の6月には、関東ブロック大会で優勝しました。その後、栃木県で行われた全国大会では、惜しくも3位でしたね。

いちご一会とちぎ国体でのチーム集合写真

他にも「フロアバレーボール」という、平面的なバレーボールをやっています。6人制で、前衛が目隠しして、うさぎ跳び状態でネットにくっついてプレーするもので、こちらは5度の全国優勝を果たしています。

このように、視覚障害があってもスポーツを楽しんでいます。

また最近では、「成人を祝う会」も開いています。『視覚障害があって、地元の成人式には行きにくいな』という若い視覚障害の人たちを、仲間としてお祝いしてあげようという会です。

今年は、合計9名の対象者が参加しました。とても喜んでくださって、「今後は、一緒に団体の活動にも取り組みたい」という声もいただいています

寄付金は、神奈川県で行われる大会に活用したい

――今回の寄付金をどのように使われるご予定か、教えていただけますか。

鈴木さん:寄付金の使途については、先般、理事会で話し合い、今年開催する大きなイベントに活用させていただくことになりました。

まず、今年3月4〜5日に、藤沢市で関東ブロックの団体が集まってさまざまな会議が行われます。それから6月10〜11日には、厚木市でグランドソフトボールの関東大会を神奈川県が主催することになっています。さらに、8月30〜31日にかけては、藤沢市の文化会館で、全国の視覚障害のある女性の研修大会を神奈川県が主催する予定です。

ーー「今年の大会は神奈川県が主催」ということは、視覚障害者を支援する団体間・地域間でのコミュニケーションや情報共有が、全国的に行われていらっしゃるのでしょうか。

鈴木さん:そうですね。組織的にはピラミッド型になっていて、一番下に市町村の団体、その次に都道府県の団体、日本を取りまとめている団体があり、さらには「世界盲人連合」という世界の視覚障害者団体もあります。

残念ながら「福祉は行政がやるんだから、別に頑張って活動しなくてもいいんじゃないの?」という方たちもいるのですが、そんなことはなくて、私たちが声を上げないと、福祉は良くなっていかないと感じているところです。

Q&Aセッション

ーーここからは、第2部として、三木プーリの皆さんからのご質問に移らせていただきます。

<三木プーリわくわく寄付コンペ委員会のメンバーのみなさん>
左側手前から高萩さん、栗田さん、古川さん。右側手前から平賀さん、西村さん、山口さん。

視覚障害者の “二大不自由” は『読み書き』と『移動』

古川さん:よろしくお願いいたします。恥ずかしながら、弊社の各事業所でもなかなかバリアフリー化が進んでいないのが現状です。
鈴木さんから見て、バリアフリー化するにあたってまずどういったことが必要になるのかについて、ご教示いただけますか。

鈴木さん:ありがとうございます。少し理屈っぽい話になりますが、特に私たちのように視覚障害があり見えない人・見えにくい人たちには “二大不自由” があります。

一つは『読み書きの不自由』です。先ほど、情報共有に関する調査の話もしましたが、例えば点字ができる人は視覚障害がある人の1割にも満たないんです。そういう意味では、広報紙などを録音したものが聴きやすかったり、例えばパソコンなら「16〜18ポイント、丸ゴシック体」の拡大文字が見やすかったりします。

“二大不自由”のもう一つは『移動の不自由』視覚障害があると、ひとりで歩くことすら命がけの行動です。
今、駅にはホームドアが徐々に設置されるようになっています。ホームドアは、ベビーカー利用者や高齢者、車椅子の人も含めて事故防止には非常に有効な対応だと思っています。
それから道路でいうと、最近困っているのは歩車分離式の横断歩道です。4ヶ所全部の信号が止まるため、斜めに渡っていいのかまっすぐ渡るべきなのかがわかりません。「音響信号機」や「エスコートゾーン」があれば、まっすぐ渡れるので非常に有効だと考えています。

「通りゃんせ」などのメロディー式や鳥の声式がある音響信号機は、信号のうちわずか2%にしかついていないのだそう

毎年、私たちは「通りゃんせ基金キャンペーン※」をやっています。2022年は12月24日に、小田急相模原駅南口と座間駅ロータリーの2ヶ所で30分の路上ライブを行い、7万円弱集まりました。そういったライブにも、ぜひ足を運んでいただければありがたいですね。

でも一番良いのは、誰かが声をかけてくださることですね。それがもっとも確実で、私たちとしても助かるなと思っています。

※12月24、25日の24時間放送「ラジオ・チャリティ・ミュージックソン」をメインイベントとする通りゃんせ基金キャンペーンは1977年にスタートし、以来45回、寄せられた募金総額は約5億2,300万円となりました。 その貴重な浄財は168基の「音の出る信号機」や28基の「音声案内装置」をはじめ、数多くの教育・福祉機器の寄贈に役立てられています。

ラジオ福島 全国ラジオ・チャリティ・ミュージックソン実行委員会

声がけをするときは「お手伝いしましょうか」から

西村さん:少し近いご質問かもしれませんが、僕ら「健常者」は実際にどういった補助ができるかについてぜひ教えていただきたいです。特に全盲の方に対して、親切心でやってしまって、逆にご迷惑をおかけすることもあるのかなと心配です。

鈴木さん:ありがとうございます。一番大事なのは、本人に対して「どうしたらいいですか?」と聞くのがよろしいかと思います。

声のかけ方も、「大丈夫ですか」と聞かれるとどうしても反射的に「大丈夫です」と答えてしまうんですね。それよりは「お手伝いしましょうか」と言っていただき、「お願いします」と言われたら「どうしたらいいですか」と聞く順番でやっていくと、サポートしやすいかなと思います。

山口さん:先ほど会員が430名いらっしゃるとのことでしたが、活動する中で、一番課題だなと感じているのはどのようなことでしょうか。

鈴木さん:非常に難しい質問だと思います。430名全員が単独で外に出られるわけではなく、ご家族の付き添いや「同行援護」という自治体の視覚障害者向け外出支援制度を活用して、誰かと一緒に来なきゃいけない方もいます。

そうした制度を上手に使える方たちはいいのですが、地域の福祉の事情などで『行きたくても行けない』という方たちにどのように参加してもらうかが課題です。現状では、ボランティアなどの仲間や、弱視の人が全盲の人を連れてくるといった形で参加してもらっています。

今までで一番多くの人が参加したイベントで250人くらいですが、そのうちの約3分の1は付き添いの人だと思います。

デジタル化に取り残されないためにも、当事者が声をあげる

平賀さん:先ほど鈴木さんのお話を聞いて、座間中学校のご出身ということは、うちの娘の先輩だなと思いました。

鈴木さん:相当、前ですよ!(笑)

平賀さん:そういうところで共通点がありました。どうぞよろしくお願いします。
我々の製品は、電動の車椅子や三輪車、介護用のリフト、駅のホームドアなど、いろいろな産業にわたって使われています。今日お話をして、製品という部分でも社会貢献ができているんだなと実感できました。

鈴木さん:なるほど。

平賀さん:今、世の中でデジタル化がどんどん進んできていて、今後ITが発達していくうえで、鈴木さんとして期待する部分と、逆に心配な部分があればお伺いできればと思います。

鈴木さん:ありがとうございます。デジタル化が進んできて、良い面と悪い面とが、両極端になってきたかなと思っています。今ここにあるスマートフォンを操作をすると、全部喋ってくれるんですよ。こういった機器を上手に使える人たちもいれば、使いきれていない人もいます。いいものができても、その使い方を教わる、やれるようにすることが大事かなと。

デジタル化がどんどん進むのはいいんですが、取り残されちゃう我々がいるよということも知っておいていただくと、ありがたいなと思います。

日頃から利用されている「話す機能」について説明する鈴木さん

平賀さん:ありがとうございます。今は視覚障害者の方向けのアプリなどもかなり増えてきていると聞きますが、そういうものを皆さんに紹介するイベントなどもあればいいのかなと思います。

鈴木さん:そうですね。携帯電話ショップに行って音声機能の使い方を習おうとすると、お店の人が操作方法を知らないこともあり、困っちゃいます。

通称「福祉機器展」などのイベントでは、視覚障害向けのアプリなどを紹介するコーナーが結構あって、専門的な知識を持つ、視覚障害当事者から教わることができるのが便利です。

当事者がどんなところに困っていて、どういうことをして欲しいかということは声に出さないとわからないので、私たちがそういった発信をすることが大事なんだろうなと思っています。

平賀さん:私もエンジニアだった頃、「介護福祉機器展」に行ったことを思い出しました。今日ここにいる技術部のメンバーもぜひ足を運んで、いろいろとヒントを持ち帰ってもらえたらなと思いました。ありがとうございます。

進む “ボランティア離れ”、地域企業との連携に期待

ーー最後に、鈴木さんのご視点から、これから三木プーリの皆さんと「こういうことができたらいいな」というものがあれば、ぜひお話を伺えますか。

鈴木さん:先ほどお話ししたスポーツイベントや文化イベントなどをやるときに、視覚障害者の周りでさまざまなサポートをお願いできたらうれしいです。

先日の理事会でも、人的な支援が足りないという議題が検討されました。普段、定期的に点訳や録音をされるボランティアさんはいらっしゃいますが、部分的に関わっていただけるボランティアさんが非常に少ないのが最近の状況です。

ーー地域の中でボランティア人材をどのように集めるかが課題でもあり、地域のつながりの中でできることの一歩目でもありますね。ボランティアが必要になるイベントには、どういったものがありますか。

鈴木さん:例えば、先ほどの「福祉大会」や「文化の集い」における準備や交通整理など。今年に関しては、神奈川県が主催の「関東ブロック大会」「野球大会」「女性大会」の三つのイベントで、多くの人的支援が必要だと考えています。

平賀さん:ボランティアを集めたいとなったときには、大体どのくらいの人数が必要でしょうか。

鈴木さん :普段は5〜10人くらいです。一番人員が必要になる6月の野球大会は、20名くらいかなと思います。

平賀さん:わかりました。ありがとうございます。
私も知らない部分が非常に多く、お話が聞けてとても良かったです。本日の内容を社内でもPRさせていただきます。「人的支援」に関しては私の一存では決められませんが、土日であれば支援が可能だと感じていますので、ぜひ社内で一度議論してみようと思います。ありがとうございました。

鈴木さん:本日のお礼と言っては何ですが、『街で視覚障害の人を見かけたら』という、視覚障害者援助に関するパンフレットがありますので、今度皆さんにお届けしたいと思っています。

私たちの事務所は座間駅のすぐそばにあります。ほぼ年中無休でやっていますので、お気軽にお立ち寄りください!お待ちしております。

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三木プーリ株式会社が利用した『わくわく寄付コンペ』では、様々な社会課題に取り組む団体から企業の従業員投票によって寄付先を選定し、継続的な寄付を行なうことができます。
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