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市民活動の支援を通じて沿線エリアの活性化へ——「東急子ども応援プログラム」で生まれた“つながり”

2020年7月にスタートし、今年で4回目の募集となる「東急子ども応援プログラム」。

子どもの居場所づくりや文化・芸術・スポーツなどを通じて生きる力を育む活動、障がいや難病とともに暮らす子どもや家族を支援する活動など、子どもたちの幸せを支える地域の活動を行う民間非営利団体に対し、過去3年間で計35件、約3,000万円の助成を行っています。

今回は、本プログラムを運営する、東急株式会社 社長室 ESG推進グループの岡田朋子さん、近藤美穂さんに、市民団体とのコミュニケーション方法や、助成により生まれた共創事例、今後の展望などについて伺いました。

市民団体と民間企業が協働して社会課題の解決に取り組む好事例ですので、ぜひ参考にしてみてください。

企業にとっての価値は“沿線エリアの活性化”

——御社の社会貢献活動の考え方および、「東急子ども応援プログラム」の社内での位置付けを教えてください。

岡田朋子さん(以下、岡田):弊社は、事業と社会貢献活動を両輪に、地域社会の課題に取り組んでいます。事業で実現できない部分は社会貢献活動として取り組むことで、社会課題の解決をめざしています。

「東急子ども応援プログラム」は、弊社の社会貢献活動の重点分野である「健康福祉」「教育」の自主運営プログラムとして位置付けています。

——本プログラムが立ち上がった背景を教えてください。

岡田:当社は従来から、社会課題の解決に取り組むサステナブル経営を進めています。

2022年に東急グループ創業100年を迎えるにあたり、これまでの弊社の歩みや社会における役割を振り返った中で、2020年に新しい社会貢献プログラムとして「東急子ども応援プログラム」を立ち上げることになりました。

東急グループは、存在理念として「美しい生活環境を創造し、調和ある社会と一人ひとりの幸せを追求する。」と掲げています。

本プログラムもそれに基づいて、「子どもたちの幸せを支える地域の活動を応援します。」と掲げて活動をスタートさせました。

助成団体の活動の様子

——「事業と社会貢献活動の両輪」を掲げられていますが、社会貢献活動が自社にもたらす価値についてはどのように考えられていますか。

近藤美穂さん(以下、近藤):東急グループは、鉄道や不動産をはじめ、小売業から学校運営まで、まちづくりにかかわる多様な事業を展開しているので、目に見えないところで、企業にたくさん返ってくることがあると感じています。

不登校の子どもたちも全国的に増えている状況の中で、子どもたちが少しでも生きやすくなったり、元気な姿で社会に出られたりするだけで、まちづくりをしている私たちにとっては十分な価値だと感じます。

過去3年間で35件の活動を支援させていただいていますが、東急線沿線の宝だと思うくらい本当に大切な活動ばかりです。

弊社にとっては、市民団体さんを含めた“沿線エリアの活性化”こそが何よりの価値と捉えており、それが持続可能な地域社会の実現につながると考えています。

課題や活動を知ってもらうことも企業の役割

——助成団体とは、どのようなコミュニケーションを取られていますか。

近藤:本プログラムの助成期間は1年間です。助成が始まると、助成対象となる活動の視察に伺い、助成から半年経過後には中間報告書の提出と個別インタビュー、1年経過後に完了報告書を提出いただいています。

今年7月には、昨年支援させていただいた団体さんが1年間の活動成果を対面で語り合う「完了報告会」を初めてリアルで開催しました。

「完了報告会」での集合写真

岡田:東急線沿線という限られた地域を対象としているので、支援させていただいた団体の皆さんとは必ず対面していますし、お互いに顔もわかる関係性です。これは全国規模ではなく、ローカルで取り組んでいるからこその強みだと思います。

——助成団体に対し、助成金以外に支援されていることはありますか。

近藤:本プログラムの実施目的として、「子どもたちの幸せを支える地域の活動の活性化」のほかに、「子どもたちを取り巻く課題や活動の認知向上、理解促進」も掲げています。

チラシなどを通じて支援する団体をご紹介することで、活動に携わっていない地域の方々にも課題や活動を知ってもらうことも企業の大切な役割だと感じています。

そのために、東急子ども応援プログラムのHPやFacebookなどで情報発信しているほか、立ち上げ当初から「リーダーインタビュー」というコンテンツを設け、活動を推進するリーダーをフィーチャーして、活動への思いを広める取材記事を掲載しています。

助成団体のリーダーにフィーチャーした「リーダーインタビュー」の記事

さらに、応募時期に合わせて東急電鉄の車内に広告を出したり、駅構内や東急ストアにチラシを置いてもらったりしており、より広く活動が伝わる工夫をしています。

また、助成期間が終わってからも、SNSなどでの情報発信という形で連携しています。

支援している団体さんからは「団体の後継者」や「運営資金」の課題も多く耳にします。社内外問わず、社会課題解決の現場が抱える課題やニーズを広く知ってもらうことで、ボランティアやサポーター、寄付や援助が増える一助になれたらうれしく思います。

東急子ども応援プログラムのチラシでは、助成団体の各活動が紹介されている

プログラムを通じて“つながる”ことで、活動が広がる

——助成終了後、助成団体からはどのようなお声をいただいていますか。

近藤:助成終了後も私たちとつながっていたいというお声を多くいただき、本当に励みになります。

他にも「助成金をもらい、ずっとやりたかったことができた」「活動を認めてもらった気がして、メンバーのやる気が上がった」「自分たちの可能性が広がった」というようなお声をいただいています。

過去に助成した団体さんが新たなチャレンジを検討して再度申請していただけたり、他の助成プログラムに挑戦されている姿を目にしたりすると、団体として新たな広がりを見せてくれているようで、とてもうれしく思います。

——助成がきっかけで、御社の新たな取り組みにつながった事例はありますか。

近藤:住宅街にあり、多世代が集まるコミュニティカフェの活動に助成させていただいたことがあります。
赤ちゃんから妊婦さん、シニアまでが訪れる、地域の素晴らしい居場所になっており、弊社のまちづくりの部署につないで視察に行ってもらいました。たくさんのヒントがあったようです。

助成団体の活動の様子。子どもの居場所になっている

——助成団体同士がつながって、共創する事例はあるのでしょうか。

近藤:助成団体同士が連携し、共に成果を上げていらっしゃる事例があります。

例えば青葉台では、小学生に向けて商店街での職業体験プログラムを実施されている団体と、不登校や保健室登校の小中学生がICTを活用して動画を撮ることで表現する活動を推進している団体がつながって、商店街での職業体験のレポートであるショートムービー制作の講師として招かれたりしています。

このプログラムで作られた動画は、横浜市のイベントでも発表されました。異なる団体が連携し、新たな展開が生まれた好事例だと思います。

助成をしていた1年間に濃密なコミュニケーションを取り続けられたことで、支援から2、3年経っても、弊社にご連絡いただけることを非常にうれしく思います。

——近藤様が市民団体さんのハブになられているんですね。

近藤:以前、団体の方から「社会課題解決のために活動していても、支援からこぼれてしまう方たちを助けられないというジレンマを抱えている」と聞いたことがあります。

本プログラムを通じて、東急線沿線で活動する団体同士がまずは知り合い、必要な時につながれるような相互補完の関係性を築くことで、子どもたちにとってより安全・安心で心豊かに暮らせるまちになると思います。

今年初めて対面で実施できた「完了報告会」のような場で団体同士がどんどんつながっていくと、困っている子どもたちの行き場がなくなるという事態も防げるかもしれないという期待を持っています。

本プログラムをスタートして3年が経ち、異なる組織が「つながる」ことが大切なキーワードであると実感しています。

「完了報告会」での団体同士の交流の様子

活動を持続させ、地域に浸透させていきたい

——東急子ども応援プログラムの今後の展望を教えてください。

岡田:4年目にしてようやくつながりが生まれてきた段階なので、プログラム内容をより進化させていきたいと考えています。

応募時のアンケートでは、「もっと少額の助成がほしい」「もっと長く支援してほしい」などの声もいただいていますので、そうしたニーズも踏まえてプログラム自体のブラッシュアップを検討しています。

近藤:内容を改善しつつ、今後も本プログラムを継続させることが何よりも大事だと考えています。

プログラムが立ち上がった翌年には、コロナの影響で厳しい経営状況となり、全社的に大幅な経費の見直しが必要になりましたが、「今」ではなく「未来」を見据えた長期的な視点で捉えると、地域社会の活性化に貢献し続けることが大事との考えから、コロナ前と変わらずプログラムを遂行することができました。

社会貢献活動は、続けることで裾野が広がり、地域に浸透していくと思っているので、本プログラムも、市民団体と民間企業が協働して取り組む活動としてさらに発展させていきたいです。

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インタビュー:平野美裕、川添克彰
文・編集:平野美裕