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Yahoo! JAPAN 「地域カーボンニュートラル促進プロジェクト」にみる、企業が社会課題に取り組む際のポイント

ヤフー株式会社は、国内の脱炭素化および再生可能エネルギー化への取り組みの一つとして、企業版ふるさと納税(※1)を活用し、国内の脱炭素化などの促進を目的に、「Yahoo! JAPAN 地域カーボンニュートラル促進プロジェクト」を発表しました。

同プロジェクトでは、地方公共団体が行うカーボンニュートラルに向けた地方創生の取り組みを広く募集し、同年8月24日に第一弾となる寄付先を発表。

10の地方公共団体に計2.7億円の寄付をしています。

そこで今回は、本プロジェクトの推進者であり、SR(Social Responsibility)推進統括本部長の西田修一執行役員に、同プロジェクト推進の裏側についてお話をうかがい、企業が社会課題に取り組む際のポイントをうかがいました。

※1:「企業版ふるさと納税」とは、公共団体が行う地方創生の取り組みに対する企業の寄附について、法人関係税を控除すること。

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お話を訊いた方 西田 修一 さん

ヤフー株式会社 執行役員
コーポレートグループSR推進統括本部長

広告代理店勤務などを経て、2004年、ヤフーに入社。2006年から「Yahoo! JAPAN」トップページの責任者を務める。2013年に検索部門へ異動。東日本大震災の復興支援キャンペーン「Search for 3.11 検索は応援になる。」を立ち上げる。
2015年に検索事業本部長およびユニットマネージャーに就任。2017年から執行役員。2021年からZホールディングスのESG推進室室長を兼務。

地域全体のカーボンニュートラルを目指して

――まず「地域カーボンニュートラルの促進プロジェクト」をスタートさせた背景を教えてください。

西田さん:Zホールディングス全体のカーボンニュートラルプランは、先日2030年をゴールとして進めることを宣言させていただきました。対してヤフーはそのZホールディングスの中核企業の一つとして先んじて取り組みを宣言しており、2023年度までにカーボンニュートラルのスコープ2(*1)までの達成を目標としています。

*1:【スコープ1】事業活動に伴う直接排出量、【スコープ2】事業活動で使用した熱・エネルギーの製造段階における間接排出量

我々のようなインターネット企業は、サービスを運営し事業拡大していく際は、大量のサーバーを必要とし、大量のデータを使います。

サーバーを動かすためには大量の電気が必要で、さらにそれらを冷却するためにまた大量の電気を使うので、まず我々自身が、脱炭素や再生エネルギーへの切り替えを推進していかなくてはならないという点が一つ目の背景です。

もう一つは、自らのカーボンニュートラルはもはや当然のこととして、むしろ国内の、地域などの脱炭素化も推進していくことで、きちんと我々の姿勢を世の中に示そうと考えたからです。

特に日本においては、再生エネルギーの施設を会社の近くにつくって、そこからエネルギーを引っ張ってくることがなかなか難しいので、どうしても証書(*2)などの活用を通じて、実質カーボンニュートラルを達成できる状態をつくっていくことが主なアプローチとなります。

*2:再生可能エネルギー由来の電力量・熱量を「kWhやkJ」単位で認証するもの。

――2021年1月に当プロジェクトの公募開始のリリースをされていますが、実際に、西田さんが会社に提案された時期がいつで、どのように社内調整・承認までされていたのでしょうか?

西田さん:発表する半年ぐらい前からプロジェクトとして企画化し、実現可能性の検討や、CEO、CFOに承認を得るというプロセスを踏みました。

当社のCEOの考え方に近いこともあり、『「企業版ふるさと納税」という仕組みをCSRという観点で有効活用した方がいいのではないか』という論理は理解されやすかったのですが、次に来るのは「それをどんな文脈で活用するか」という議論です。

我々は、防災・減災、そして被災地支援は今までもやってきましたし、そこに対して非常に強いコミットメントを持って取り組んでいるので、普通に考えると防災・減災・被災地支援という文脈になるんですが、一方で、「Yahoo!基金」(*3)という任意団体との違いが出にくいという懸念があります。

カーボンニュートラルについては当社がしっかり取り組めば3年程度で実現は可能だと考えていましたが、当社が実現すれば問題が解決するかというと当然そうではなく、国内では「2050年カーボンニュートラル」が推進されている一方で、財源がない自治体はどうやって取り組んでいくのかと懸念していました。

であれば、この企業版ふるさと納税を利用して、別で進めていた自社のカーボンニュートラル関連の文脈をうまく絡めることで、地域のカーボンニュートラルを推進するのが良いのではないかという結論になりました。

折しも菅内閣が国内のカーボンニュートラルの宣言をしたタイミングでもありましたし、国際的に見ても、脱炭素化へのコミットメントがどんどん強まっていく中で、ベストなテーマだと考えました。

*3:Yahoo! JAPANのサービス開始10周年を記念し、持続可能な社会の実現に貢献していくために設立された任意団体。「自然災害や感染症に対する支援」と「インターネットやIT技術の利活用を通じた市民活動の支援」をテーマに活動を展開。

定量・定性の両軸でインパクトや独自性を判断

――当プロジェクトは、地方公共団体を公募で選定されていますが、公募方式にした理由はありますか?

西田さん:端的に言うと、地方公共団体が策定している「地域再生計画」が包括的でわかりにくいことが主な理由です。

自治体からすると、その都度内閣府に承認を得るよりも、包括的に地域再生計画の承認を得るほうがやりやすいので理解はできるのですが、一方、それを我々が見てもさっぱりわからないんです。

カーボンニュートラル」と1行だけ書いてあったりするのですが、何をするのかもわからないし、それは森林の保全なのか、ブルーカーボンのように海藻類で炭素吸収固定をしようとしてるのか、あるいは単純に役所の電気をLED化しようとしているのか…。

これらをすべてキャッチアップして、自治体にヒアリングする作業は労力がかかると考え、むしろ応募してもらった方がいいという結論になりました。

公募形式を採ることで、我々のターゲットとなる案件が集まりやすい状況を効率的に作ったということです。

あともう一つ、自治体は今後カーボンニュートラルを進めていかなければいけないので、ヤフーがそういうプロジェクトを始めるのであれば、新しく地域再生計画を作り、内閣府の承認を得たいという新たな動きも生まれるといいなという考えもありました。

――実際に地方公共団体の選定指標になった「直接的インパクト」、「横展開可能か」、「独自性・地域性」について伺います。この3つのポイントは具体的にどのように評価されましたか?

西田さん:「直接的インパクト」については、定量、定性の両軸で判断しています。

定量的に判断するうえでは、例えば、3年後に吸収される炭素量や削減される炭素量がどれぐらいで、どういう推移で増えていくのかを計画書にして提出してもらっています。

一方、「横展開可能かどうか」「独自性・地域性」は、定性的な内容で判断する必要があると考えているので、インパクトの確認も含め、実際に自治体から話を聞いた上で判断しています。

例えば、北海道三笠市は炭鉱で栄えた町なので、地下にたくさんの坑道があります。膨大な広さの空間があり、そこに排出される炭素を特殊なセメントで固形化して固定するという取り組みを検討していたんですね。

これってまず炭鉱の町という地域の特殊性がありますし、もしそれが実現可能であれば、全国でその炭素をセメント化して埋めていくことで炭素量をマイナスにしていけます。

また、炭鉱の町なのでまだまだ石炭はたくさんあるのに、石炭を使う火力発電はこれからの社会には受け入れられにくい。一方、日照時間や風などを考えると三笠市だけでは、再生エネルギーを産みにくいんですよね。

それがもし、石炭火力で出てきたCO2を切り取り(キャプチャー)、それを固形化して地下に固定化する(ストレージ)ことで、石炭火力を使いながらCO2を排出しないで電気を生み出せる仕組みが生み出せると、将来的なインパクトがものすごく大きいです。

また、日本には他にも有数の炭鉱を持つ自治体があるので、この事例は「横展開」という観点から見ても非常に有効です。

それらに横展開することで、再活性できる可能性があるかどうかを見ています。

逆に言うと、工業車を電気自動車にする施策や、ソーラーパネルの設置、役所の電気をLEDに切り替える施策などは独自性のないものと判断し、対象外としました。

――自治体が言っていることの実現可能性や適正さなどは調査されましたか?

西田さん:私たちは自治体からの話を聞くしかないので、自治体に最終プレゼンをしてもらうまでに3回くらい話を聞き、こちらからも質問を返すことを繰り返しました。

時にはプロジェクトメンバーで議論して、もっとクリアにしたい部分や、費用の精査、委託業者の価格の適正さなどもチェックしました。

そのプロジェクトが適正かどうかというところは、可能な限り確認しています。

――公募を始める段階では寄付額は未定だったかと思いますが、最終的にどのように寄付額を決められましたか?

西田さん:最終的に10の自治体に、合計2.7億円を寄付することになりました。

寄付額は自治体からの要請額が基準となるんですが、要請額の中身も本当に必要なものかどうかを精査しました。

例えば、自治体で多いのがアプリやポータルサイトの制作ですね。住民が見に来るようなものを作りたいと言う自治体が多いんですが、アプリの想定利用者やランニングコストなどを考えると本当に必要かどうかまで検証する必要がありました。

効果を生まないと判断したものは寄付の対象から外し、我々が寄付したい適正な案件にまでブラッシュアップして、そこに対して必要とされる金額を寄付する形を採りました。

――適正な案件にまでブラッシュアップするにあたっては、ヤフーさん単独で決められたのか、自治体と対話をされながら進められたのかどちらですか?

西田さん:自治体と対話した上で、これぐらいまでなら出しますよと提示しています。

先ほど例に挙げた三笠市は1億円という額になりましたが、あの案件は地下を深く掘っていかなきゃいけないので、ボーリングの距離で値段が変わってくるんですよね。掘る距離を浅くすれば値段は安くなるけど、効果が得られないと元も子もないので、自ずと金額は膨らんでいきます。

このあたりはインパクトの大きさや将来性、独自性などの総合評価で決めています。

重要なKPIは取り組みの本質に置く

――プロジェクトの応募条件に「寄付を受けた自治体さんには定期的に事業の進捗をご報告いただきます」と記載がありますが、実際にどういうところを定期的にチェックされていますか?

西田さん:少なくとも1年に1回は所定のフォーマットで報告書を提出してもらっています。すでに今年2月に1回、各自治体に提出してもらいました。

計画に対しての今の進捗や、問題が発生していればその問題について報告してもらっています。

報告をしてもらうことで、「計画ではここまででいくら、こういうふうに使う予定だったけど、この分の費用が必要なくなったので別のものに流用します」などのコミュニケーションが生まれています。

一方、寄付だけして「ちゃんと進んでますか?」と確認するだけではなくて、もう少し自治体に寄り添うサポートもしています。

例えば、波力発電を推進している自治体があれば、プロジェクトメンバーが現地まで行ってしっかり目で見たり、取材をして今我々が運営しているSDGsメディアで自治体の取り組みを全国に発信したりしています。

その自治体の取り組みが知られることで他の地域を刺激することもできますし、自治体としてもメディアに取り上げられることでやりがいも生まれると思っています。

なので、ルールで縛っていくというよりは、メディアでも応援したり、自治体が積極的に取り組みやすい状況をつくることを意識しています。

――このプロジェクトにおいて設けられているKGIやKPIはありますか?

西田さん:この取り組みの最大の成果物は、やはり脱炭素文脈での効果そのものです。

地域でどれぐらいの排出量が削減されたか、あるいは吸収する量がどれぐらい増えたかを、しっかりと数値で追っていきます。

その他の、広報効果や今後のビジネスチャンスに対する考えがないわけではないんですが、そこは表立ってKPI化して追っていくものではなく、あくまで副次的に生まれる価値だと考えています。

要は、この炭素の削減量が大きくなればなるほど社会的インパクトが生まれ、自ずと広報やESG評価の文脈でも、企業側にメリットとして返ってくると思っています。

そういう意味でも、あくまで重要なKPIは、取り組みの本質である炭素量に限っています。

事業の本質やミッションと結びつきのある取り組みを

――同プロジェクトの第2弾の実施は決まっていますか?

西田さん:2022年度の公募については、3月にHPでお知らせいたします。

――第1弾の結果を踏まえて変更される点などはありますか?

西田さん:一つの打ち手で二つの効果が得られる取り組みを加点要素として評価しようと考えています。

例えば、三重県尾鷲市の尾鷲ヒノキ市有林の活性化事例は、「脱炭素」の文脈でも「生物多様性」の文脈でも推進できます。

現在、気候変動に対するアクションとしてカーボンニュートラルが大きなイニシアティブになっていますが、もう一つの大きなテーマが「生物多様性」です。

先ほど説明した通り、我々のインターネット事業という文脈では、脱炭素化については説明が先ほど説明した通り、我々のインターネット事業という文脈では、脱炭素化については説明がしやすいんですが、生物多様性は事業との関連づけが難しいんですよね。

これらの取り組みは、自治体や社会の要請、あるいは企業の事業の本質や、ミッション・ビジョンとうまく結び付けないと成り立ちにくいと考えているので、当社が「生物多様性」を単体で出さないのは、その結びつきが弱いからです。

企業とテーマの結び付きが弱い状態で進めてしまうと、企画が中途半端に終わってしまったり、どこかで改めて意義を問われることもあり得ます。そのため、この結び目の設計はとても大事にしています。

企業が企業版ふるさと納税を活用する際も、寄付の対象となる分野といかに太い文脈をつくれるかがポイントになると思っています。