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まち・森づくりに関わる4組織が連携して取り組む「キノマチプロジェクト」——都市木造の先駆者・竹中工務店が語る、成果と課題

キノマチプロジェクト」とは、まちづくり・森づくりのプレイヤーたちが、木をめぐる社会課題を解決する足がかりとなることをめざす活動体。業界や専門分野を越えてつながり、木材を中心とした森林資源をまちづくりに活用しています。

都市木造のリーディングカンパニーとして、木に関する情報発信やコミュニティづくりに率先して取り組んでいるのが株式会社竹中工務店。

今回は、同社の木造・木質建築推進本部 樫村俊也さん、関口幸生さんに、本プロジェクトの始動理由や成果、課題、今後の展望について伺いました。

高層の都市木造のPRとして始動

——キノマチプロジェクトをスタートさせた背景を教えてください。

樫村:「キノマチプロジェクト」は、2020年2月に竣工した自社開発事業の高層木造建築「FLATS WOODS 木場」(以下、フラッツウッズ木場)のPR施策をきっかけとして、2019年6月にスタートしました。

日本では戦後、都市部の木造建築は耐火や耐震などの観点から、高層化や大規模化が難しく、長い間3階程度が限度でした。弊社では約20年前からさまざまな技術開発を行い、今ではフラッツウッズ木場のような高層木造建築が実現できるようになりました。

弊社はもともと宮大工の棟梁から始まっており、木とはかなり親和性が高い企業なので、社会的インパクトが大きい高層の都市木造が実現したタイミングで「木」をテーマとしたプロジェクトを立ち上げることで、一般のお客様にも木や木造建築に興味を持っていただけたらうれしいという想いがありました。

関口:日本は世界有数の森林大国なのですが、木があまり使われていない現状があります。、木を建築に使い、森林へ入るお金を増やしていくことで、森林保全という社会課題の解決にも貢献したいという側面もありました。

また、建設会社として木造建築を設計・施工するだけではなく、キノマチプロジェクトを通して仲間を増やしていくことで、木造建築市場の拡大に貢献したいという想いが根底にあります。

12階建ての高層木造建築「フラッツウッズ木場」

——どの組織と連携して取り組まれていますか。

樫村:本プロジェクトは、竹中工務店と一般社団法人Deep Japan Lab(以下、DJL)、NPO法人グリーンズ(以下、グリーンズ)、ココホレジャパン株式会社(以下、ココホレジャパン)の4組織が連携して取り組んでいます。

弊社がこれまであまり経験していない一般消費者とのコミュニケーションを得意としている人たちと手を組みたいと考えていました。

それぞれ、活動拠点が東京都、岐阜県郡上市、岡山県、熊本県南阿蘇と離れているので、対面で会う機会はほとんどありませんが、各地域に分散しているからこそ特徴のあるネットワークができていると感じます。

キノマチプロジェクトは法人格の異なる4組織が連携して取り組んでいる

——キノマチプロジェクトの主な活動と、それぞれの役割を教えてください。

樫村:主な活動は、「キノマチウェブ」というWebサイトでの情報発信と、「キノマチ会議」という交流・共創イベントの企画運営です。

「キノマチウェブ」は、弊社とココホレジャパンさんが共同で運営しています。コンセプトを「まちと森を繋ぐコミュニティとメディア」と定義し、実験場かつ学校のような場所をめざして活動しています。

関口:イベントは年に1〜2回、DJLさんとグリーンズさんが主体となって開催しています。2023年は10月には、今年で4回目となる「キノマチ大会議」というオンラインカンファレンスを開催し、建築分野や森林活用分野で活躍されている方など、幅広い方々に参加していただきました。

イベントではワークショップやトークセッションなどのプログラムもあり、知り合いの知り合いがどんどんつながって、年々ネットワークが広がっています。

立場が異なる4組織が連携。ポイントは最初のコンセプト設計

——4組織の立場が異なるとすれ違いなどもありそうですが、うまく連携は取れているのでしょうか。

樫村:連携にあたって、同じ方向を向くためにコンセプトづくりからスタートさせました。

もともと弊社の中にあった「森林グランドサイクル®️」という考えを定義し直し、4象限からなる「森林資源と地域経済の持続可能な好循環」と定めました。

併せて、めざす社会の状態を「まちと森が生かしあう関係が成立した地域社会:キノマチ®️」と定義し、4組織間で目線合わせをしていきました。

森林グランドサイクル(左側):森林資源と地域経済の持続可能な好循環
キノマチ(右側):まちと森がいかしあう関係が成立した地域社会

樫村:コンセプトづくりのあとは、「森林グランドサイクル」の4象限の言葉と、それぞれのフェーズでどのようなことができるのかについて話し合い、最終的に上記のようなビジュアルとともに定めました。

木に関するさまざまな技術開発による「木のイノベーション」で木造建築の需要を拡げ、「木のまちづくり」へとつなげます。

「木のまちづくり」から木や森に興味を持つ人を増やすことで「森の産業創出」へつなげ、森にかかわる人や森に入る資金を増やすことで「持続可能な森づくり」へ貢献することをめざしています。

現在はこの4象限のサイクルがうまく循環できていないことが多いので、各コミュニティをつなげていくことで好循環させることをめざして活動しています。

関口:最初はかなりディスカッションを重ね、半年間くらい共通言語づくりに時間を掛けました。

木造建築にするとどんな良いことがあるかを伝えていくために、「キノマチから生まれるいいこと10」というコンテンツをエビデンスも交えながら決めていきました。

この作業はDJLさんにリードしてもらい、弊社だけでは思いつかない概念や考えを言語化することができました。

初めにコンセプトを作り込んで、めざす方向性を統一できたことで、各組織の活動がブレることなく進められていると思います。

——御社として、本プロジェクトに人員はどのくらい掛けられているのでしょうか。

樫村:木造・木質建築推進本部がメインとなり、私や関口を含め5〜6人が関わっています。

他のプロジェクトでも単発的に広報することはありますが、人数をかけて、テーマを持ちながら継続的にメディアとして活動しているプロジェクトは弊社としても珍しく、力を入れているプロジェクトの一つです。

「木造建築といえば竹中工務店」をめざして

——活動の運営費はどこが負担されているのでしょうか。

樫村:もともと弊社のPR施策として始まったこともあり、基本的には弊社の広報予算から負担しています。イベント開催で得た入場料収入や協賛金も運営費に充てています。

正直予算はそんなに潤沢というわけではなく、他の連携組織も本プロジェクトの想いに共感して一緒に立ち上がってくださった仲間なので、ご厚意に甘えている部分もあります。

——今でも継続して取り組まれているのはすごいですね。

樫村:竹中工務店としては、キノマチプロジェクトを通して、弊社の木造建築の活動が認知されていることを経営層も理解しているからこそ、継続的に活動できているのだと思います。

手前味噌ですが、弊社は木造建築のトップランナーだと自負していますし、現にここ数年で木造建築のプロジェクトが増えています。

しかし、同業他社も力を入れ始めている分野なので、活動に取り組むだけではなく、そのPRにも継続的に取り組むことが大事だと考えています。

——本プロジェクトの成果はどのような観点から測られているのでしょうか。

関口:「木造建築といえば竹中工務店」というイメージを想起してもらうためのブランディングを第一目的としています。

そのため、会社としてのKPIとなる、木造建築プロジェクトの実現数や、ウッドデザイン賞をはじめとした各種賞への受賞などを意識しています。

お客様の木造建築への関心は年々高まっています。弊社ではフラッツウッズ木場のような大規模な木造建築を、これまでに35件手がけており、現在も多くの木造プロジェクトが進行しています。

キノマチウェブではこのような木造建築のお客様や関係者の想いを記事として発信して多くの方に読んでいただいています。

最近ではお客様の方から「木造プロジェクトをキノマチウェブで紹介してほしい」と要望いただいたり、キノマチウェブで発信した木造プロジェクトが各種賞を受賞することが増えてきています。

社員のモチベーションアップや、社内外のコミュニティ作りに寄与

——本プロジェクトにおける社内外の効果を教えてください。

樫村:社内でいうと、インナーブランティングにつながっています。

キノマチウェブで自分が関わったプロジェクトが取り上げられ、社外に発信されることで、モチベーションが上がる社員も多いですね。なかなか定量的に評価することは難しいですが、社員への効果は確実にあると思います。

また、木に関心のある人たちのコミュニティ作りにも寄与していると思います。

例えば、北海道内でのサプライチェーン構築に取り組んだ弊社の木造建築「北海道地区FMセンターでは、北海道のメディアにつなげる後押しをしたり、現地のプロジェクト関係者の座談会を企画してライブ配信をしたりしました。

皆さんの想いをウェブで記事化したりしたことで関係者の一体感が強くなり、北海道で別のプロジェクトに取り組む際にもそのコミュニティの力が活きているのではないかと感じています。

設計者だけではなく、森林所有者や製材所の方々なども記事に取り上げさせていただいているので、プロジェクトの川上から川下まで、関わっている人の顔が見えることで、つながりができやすくなっていると感じます。

北海道の木が木造建築となるまでの物語「Hokkaido FM Center Story」

関口:社外でいいますと、パートナーのDJLさんからは、キノマチプロジェクトがきっかけとなり、新たなプロジェクトが動き出していると聞いています。

グリーンズさん、ココホレジャパンさんも、それぞれキノマチプロジェクトを起点としたネットワークが全国各地で拡がってきていると話しています。

——キノマチプロジェクトがめざす「コミュニティとメディア」のコミュニティの部分で大きな効果が出ているんですね。反対に、プロジェクト運営において、課題になっていることはありますか。

関口: 持続可能な活動としていくために、共同運営するDJLさん、グリーンズさん、ココホレジャパンさんそれぞれが、キノマチプロジェクトに感じる価値をさらに高めていくことが課題です。

ひとつの方法として、皆でアイデアを出し合い、キノマチプロジェクトの枠組みの中で新たな事業を行っていくことも検討していきたいです。

他組織との連携がプロジェクト推進のエンジンに

——非営利・営利が混じった4組織で連携する中で、やりにくさなどはありましたか。

樫村:私はほとんど負荷を感じていないですね。皆さんフットワークが軽く、弊社が見習いたい点がたくさんあります。

社内で推進する際にも、「他の組織の方々が率先して動いてくださっているから、私たちも頑張ろう」という気持ちになり、プロジェクトのエンジンになってもらっています。

関口:NPOは組織としての特性は違うものの、非営利ならではのビジョンの芯の強さもあり、キノマチプロジェクトに対して同じ方向性で取り組めていると感じます。

——今回のように、今後NPOなど他組織と連携して取り組みたい分野はありますか。

樫村:竹中工務店の経営理念が「最良の作品を世に遺し、社会に貢献する」なので、会社としても社会貢献への意識が高いです。社会貢献というからには一社で担えるはずもなく、多様な組織と連携していく必要があります。

そのときに誰と連携するかは悩み所ではありますが、まちづくり、特に地方ではどの分野でも他組織とうまく連携して取り組んでいかないと先に進まないと感じています。そういう意味では、先行して現場で活動されているNPOや行政の存在は今後さらに重要になってくると考えています。

木に関わる人たちをつなぎ、業界のモチベーションアップに貢献したい

——引き続きキノマチウェブやキノマチ会議などの活動を続けられると思いますが、キノマチプロジェクトの今後の展望を教えてください。

関口:先ほど課題として申し上げたとおり、共同運営する4組織それぞれが、Win-Winで居続ける運営体制を築いていくこと、それからキノマチプロジェクトに共感して仲間になってくれる方が増えることを願っています。

弊社としては、木造建築のブランディングとしてとても効果があると感じているので、状況に合わせて体制は変化しつつも、キノマチプロジェクトは継続して取り組んでいきたいと考えています。

樫村:「キノマチウェブ」では最近、木材デューデリジェンス(*1)など、最先端の情報発信に力を入れています。そのほか社内でも、サーキュラーエコノミーやサーキュラーデザインビルド®(*2)などの意識が高まっているので、木に関わる会社として、これまで以上に最先端の動きを社会に発信していきたいと思っています。

*1:木材デューデリジェンスとは、木材を使おうとするときに、その木材が育った山林が適切に管理されているのかや、そもそも現地の法令を遵守しているのかどうかまでを確認すること。

*2:サーキュラーデザインビルドとは、従来のスクラップ&ビルドから「つくる」「つかう」「つなぐ」をキーワードに、サーキュラーエコノミーの概念を採り入れ、廃棄物を出さない竹中工務店が提唱する建築手法。

また今後は、それぞれ特色ある日本全国において、川上側(山や森林)から川下側(建築)の連携をさらに進めていくことが私たちの役目だと考えています。

さらに言うと、多極的複層キノマチコミュニティの形成を図っていきたいと考えています。「多極的」とは特徴ある各地のキノマチコミュニティ、「複層」とはその各コミュニティが相互に貢献し合い、それによってさらに全体が活性化していくようなイメージです。

実際にキノマチウェブや会議を通じてお互いのつながりが深くなり喜んでいただけているケースも出てきているので、同様の機会をさらに増やして木に関わる人たちをうまくつなげることで、木造建築全体の課題を解決していくとともに、業界全体のモチベーションアップにも貢献していきたいです。

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インタビュー:平野美裕、川添克彰
文・編集:平野美裕