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初めての企業連携で見えた、難しさと得られた成果とは?|NPO法人 a little【前編】

企業ならではの視点がNPOの活動意義を強化する

兵庫県西宮市で活動する特定非営利活動法人 a little(以下、リトル)は、2015年に子育て世代の女性たちが集まって活動を始め、産前産後・子育て期の方向けの家事サポートと、子連れで安心してつどえる場づくり、ひとり親家庭を対象にした食料支援や交流会を行っている団体です。

2021年に初めて企業のプロボノ支援を活用し、パナソニックの社員7名とともに営業資料の作成やテストマーケティングを実施。その経験を活かし、今夏からネッツトヨタとの連携も開始します。

今回は、同法人理事長のさかぐちゆうこさんに、連携を進める上で感じた課題や、連携したからこそ得られた成果、企業連携の展望についてうかがいました。

NPO法人 a little 理事長 さかぐちゆうこさん

8歳、3歳の二児の親。ヨガ/ピラティスインストラクターとしてフリーで活動する中第一子出産。思わぬ出産やパートナーとのすれ違いを経験したことから、産前に学ぶことの必要性を実感し、産前のカップル向けに講座を始める。活動の中で多くの産前産後の家庭と出会い、社会の在り方から変えていく必要性を感じ、NPO活動を続けている。

新しい知恵を求めてプロボノに初挑戦

――現在の企業連携の全体像を教えてください。

さかぐちさん:ひとり親家庭向けの食料支援に対しては様々な企業さんから寄付をいただいており、2021年7月から約半年間はパナソニックの従業員7名をプロボノとして迎えました。
常態的に一緒に汗を流して活動をしたのはパナソニックさんのプロボノが初めてでした。

―パナソニックさんによるプロボノはどういうきっかけで始まりましたか?

さかぐちさん:NPO法人サービスグラントさんが企業のプロボノとNPOをつなぐ取り組みをされており、そのプログラムに応募して通って、プログラムを受けることができました。

サービスブランドさんがパナソニックさんに対してボランティアしたい社員さんをあらかじめ募っていて、社員さんはリトルのように手を挙げている団体から自分が行きたい団体を選ぶ仕組みになっていて、今回リトルを選んでくれたのが7名でした。

―プロボノ支援に応募された理由は何ですか?

さかぐちさん:新しい知恵が欲しかったからです。

一番初めは関わってくれるメンバーも多かったんですが、女性メンバーが多い当団体は家族の事情に左右される人がまだまだ多く、長く続けられる人が少ないので、自ずとメンバーが少なくなっていきました。

NPOの活動はお金になる活動じゃないので、家族に認めてもらえなかったりモチベーションを保つことが難しかったりして、​​男性でも女性でも、家族の理解がある特別な人たちと強いエネルギーを持っている人たちだけしか活動を続けられない部分が課題として浮き彫りになっています。

あとは、組織内外問わず活動に共感してもらえるよう想いを言語化できるようになっていきたいと思っており、外部の方に関わっていただくことで言語化を克服したいという思いもありました。

企業とかかわることで自団体の活動価値を再認識

―パナソニックさんとはどのように活動を進められましたか?

さかぐちさん:まず7名の社員さんとキックオフミーティングをして、その後は基本的に平日の夜にオンラインで会議をしていました。最初はパナソニックの方から、私たちの想いや方向性を聞き取っていただきながら、一つひとつ確認していきました。

私たちの活動の理念や今取り組んでいる内容をわかってもらっていないと伴走してもらえないので、一番大事なところだと思って伝えていました。
ただ、一緒にやっていくことでやっとわかることの方が多かったとも思いましたね。

実際にパナソニックの方にはどのような支援をしていただきましたか?

さかぐちさん:今回の最終目標はリトルのことを外に知らせていくための営業資料を作ることだったのですが、結局テストマーケティングまでやってくださりました。

利用者やサポーターへのアンケートを取ってくれたり、子育て世代の動向や社会の状況を分析、西宮市での他の子育て支援のサービス状況、リトルの財務分析など、いろいろな分析をしてくださりました。

今までも何回か小児科や産婦人科に「私たちのリーフレットを置いてほしい」とアプローチしてきたことはあったのですが、門前払いだったんですよね。だから最近はやる前から「相手にされないな」と、少し諦めているところもあったんです。

だけど、今回パナソニックさんにお手伝いしていただいたことで、「リトルさんの活動って外に広げていく価値があるんだよ」というメッセージをもらった気がします。
とても勇気をいただいたので、今は「もっとやってみようかな」と思っているところです。

――プロボノの7名の方はリトルさんのどういったところに興味を持たれていましたか?

さかぐちさん:一番多かったのは同じ子育て世代の方で、男性女性ともに数名いらっしゃって、産前産後のど真ん中の人もいました。

オンライン会議中に1歳ぐらいの赤ちゃんがZoom画面に入ってきて一緒にミーティングに参加してくださる方もいて、やはり当事者としての共感をもって関わってくださった方が多かったですね。
また、独身の女性でも、女性の視点で女性の自立支援みたいなところに関心を持った方もいらっしゃいました。

他のNPOでボランティアとして、障がい者やもう少し上の年齢の子どもたちの支援をしている方が一人いらっしゃいましたが、産前産後の分野は初めてだからリトルさんで網羅できるともおっしゃっていました。

“企業ならでは”の視点がNPOの新しい風に

実際に活動を進める中で、従業員の方が気づきを得ていたことはありましたか?

さかぐちさん:私が客観的に感じたことは、皆さん社会貢献や社会を良くしていくことの一助に自分という人間もなりたいと思っていることですね。
企業という組織は利益を追求するもので、それも大事なことなんですが、それだけじゃない自分の役割みたいなものが人間には必要なのかなと感じました。

フルタイムで働いている方だとなかなかそういう機会をもてない方が結構いるようで、私たちとしてもプロボノがなければ交わることがなかった異業種の方たちと一緒に活動することで吸収するものがとてもありました。

NPOの仕事ってプライベートと仕事が混同しているので、常に自分の生き方を問い直すことがあるんですが、多分パナソニックの社員さんも、普段は関わらない私たちのようなNPOと一緒に活動することで、普段の働き方だったり、人生を見つめ直すことをしていたと思います。
私が言うのもおかしいですが、そういった経験は企業に帰って企業の活動をされるときにもきっと力になるんじゃないかなと想像していました。

――パナソニックさんとの連携によって、得られた変化や成果はありましたか?

さかぐちさん:私たちは考え方が非営利寄りなので、言葉の使い方から違いがありました。
そういった部分もすごく刺激になりましたし、企業ならではの視点というか、例えば今だったらSDGsの考え方をリトルに当てはめたときにどういうふうに表現すると刺さるのかなどを考えてくださって、大変勉強になりました。

また、今まで会員だった人がどのような関わりの中で何のイベントに参加したかや、いつから会員になったかなどを全部データ化してくださりました。
データ化って組織の内部にいてもなかなかできなくて、データ化することで目に見える形で私たちの活動を評価してくれたことも大きかったですね。

私たちとしても、いくら良い活動していていも自分たちの活動を外に伝えられないと意味がないのはわかっているし、活動に対する思いは強いのにアピール力が足りないのもわかっているんですよね。
ただ、わかっていても、何を改善したらいいかはわからなかったので、その具体的な方法を教えていただけたことは組織にとってもすごく大きかったと思います。

*後編:『企業との連携がNPO活動の多様性を生む|NPO法人 a little【後編】』はこちらから