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【最新版】食品業界のサステナビリティ・ESGの動向、企業事例

食品業界 サステナビリティ動向

我々の生活に欠かせない食品業界は、食品ロスや脱プラスチック化などの環境問題と大きく関わる業種のひとつです。

世界中でサステナビリティへの動きが加速する中、食品業界のESGへの取り組みも注目を集めています。

今回の記事では、そんな食品業界におけるESG・サステナビリティの動向や企業の取り組み事例を確認していきましょう。

食品業界の現在の市場環境

食品業界のESG動向を確認する前に、まずは現在の市場環境を把握しておきましょう。

日本の基幹産業のひとつである食品製造業の生産額指数は、2017年以降横ばいで推移しており、2021年以降は上昇の一途を辿っています。

2020年前後は新型コロナウイルスの影響もあり経済が低迷していましたが、現在は徐々に回復傾向となり、感染症対策の規制緩和や各種政策の効果から回復の兆しを見せているようです。

ただし、業界全体に目を向けてみると、経済動向は決してかんばしいものではありせん。現在の食品業界が直面している大きな課題として、下記の4つが挙げられます。

・エネルギー価格や原材料価格の高騰
・物流・生産コストの価格転嫁
・食料品価格上昇による消費の低迷
・慢性的な人手不足

たとえば、世界的な人口増加や天候不順による穀物相場の上昇により、食品の原材料価格は高騰し続けています。

さらに、多くの食料が輸入で賄われている日本では、円安や原油高騰といった価格転嫁の影響を大きく受けると考えられるでしょう。

また、日本の労働人口は年々減少傾向にあり、人手不足は食品業界でも避けられない課題のひとつです。

実際に食品製造業の欠員率は、製造業全体と比べて2倍以上高いというデータも算出されています。

産業全体の就業者数の1割は食品業界が占めているとされていますが、より多様な人材を確保し続けるためには、従業員が働きやすい環境をつくることが重要です。

食品業界におけるサステナビリティの動向

世界中でサステナブルな経営に注目が集まる中、投資家や消費者から評価される企業になるには、E(環境)・S(社会)、G(ガバナンス・管理)に配慮した経営を推進することが欠かせません。

特に食品業界は、生産工程における温室効果ガスの排出や食品ロスなど、多くの環境課題と密接にかかわる業種であり、サステナビリティへの対応が急がれています。

ここからは、食品業界が環境や社会に与えているインパクトと目指すべきESGの取り組みを確認していきましょう。

E:食品ロスの削減・脱プラスチック化

食品業界における「E:環境面」では、まず食品ロスが大きな課題と言えるでしょう。

多くの途上国で飢餓問題が深刻化する一方、毎年世界では食料生産量の3分の1にあたる約13億トンもの食料が廃棄されています。

これは日本も例外ではなく、日本では1年間に約612万トンもの食料が廃棄されていると言われています。

食品ロスが発生する大きな要因は「過剰な生産」や「家庭・飲食店における食べ残し」です。
日本をはじめとする先進国では、まだ食べられる食材を廃棄しているのが現状であり、将来的な食料不足を見据えた課題解決が急務となっています。

日本においても、2030年度までに食品ロスを2000年度比で半減するという目標が設定されています。
自治体や企業での積極的な取り組みも拡大しつつあり、中小企業でも具体的な数値目標に向けて食品ロスを削減していくことが重要です。

もうひとつ、食品業界の環境面で大きな課題となっているのが、プラスチックの削減です。
食品の保存性を高められるプラスチックは、食品容器として多く生産されており、食品ロスの削減にも寄与しています。

しかしその一方で、プラスチックは自然分解できない物質のため、適切に廃棄されなければ海洋汚染の原因になることも見逃せません。

日本でも、レジ袋の有料化や紙ストローの利用、リサイクルの推進など、脱プラスチックへの取り組みが推進されており、食品業界でも対応が求められています。

具体的には、バイオマスプラスチックなど環境負荷の少ない材料を使ったパッケージの採用やリサイクルの仕組みづくりなどの対策が効果的です。

S:人権を尊重したサプライチェーンの構築

原材料が多岐にわたり、サプライチェーンが長い食品業界では、人権の尊重が大きな課題となっています。

世界中の製造企業でも、強制労働や児童労働といった人権侵害は避けられない課題となっており、日本も例外ではありません。

具体的に企業が対応すべき人権の分野としては、下記の項目が挙げられます。

・サプライチェーンにおけるハラスメント
・雇用差別の廃止
・強制労働や児童労働の廃止
・労働環境・条件の改善
・安全な職場環境の提供

このように、食品業界が対応すべき人権課題は非常に多岐にわたり、デジタル技術の活用や労働環境の透明化など製造プロセスの変革が重要視されています。

特に農林水産業は、強制労働が多い産業のひとつとして注視されており、技能実習生を含む外国人労働者の不適切な労働慣行を改善する必要があるでしょう。

G:サステナビリティ情報の開示

食品業界の「G:ガバナンス・管理」に関しては、法令順守はもちろん、品質情報やESG情報の適切な開示が重要となります。

現在、欧米を中心に情報開示の義務化が進んでおり、企業のESG取り組み状況やリスクを分析・評価するESG評価機関の活動も活発化しています。

日本の食品業界も評価対象であり、投資家からの資金調達を実現するためには、ESG情報開示による評価を得ることがポイントです。

食品業界が開示すべき情報の一例は、下記をご覧ください。

・企業のエネルギー消費や温室効果ガス排出量などのデータ
・労働基準や人権に関する情報、社会貢献への取り組み状況
・製品のライフサイクルに関する情報
・サプライチェーン全体の労働環境/人権に関する情報

具体的な開示内容は、企業によって異なり、自社のサステナビリティ戦略や目標に基づいて適切な情報を開示することが重要です。

食品業界でサステナビリティを推進する際の注意点

ここからは、食品業界がサステナビリティを推進する際の注意点をご紹介します。

今後サステナビリティ活動への取り組みを考えている企業は、ぜひ参考にしてみてください。

品質管理を徹底する

食品業界において、サステナビリティと品質管理は密接に関連しています。

品質管理は、食品の安全性を確保するだけでなく環境負荷を最小限に抑えるために重要な要素であり、環境に優しい生産方法や再生可能エネルギーの利用、廃棄物管理の最適化などが品質管理の一環として取り組まれます。

また、食料不足を解消するために効果的な代替肉や培養肉など、新たな開発を進める際にも、品質管理の徹底が必要不可欠です。

このように、品質管理とサステナビリティは相互的に補完しあう関係であり、企業は同時に取り組むことで消費者や投資家からの評価向上につなげられる可能性があります。

SDGsウォッシュに気を付ける

SDGsウォッシュとは、表面的にSDGsに取り組んでいるように見えても、実態が伴っていない状態のことを指します。
SDGsを利用してブランドイメージを改善しようとする際に、実際のサステナビリティの取り組みが不足していれば、消費者やステークホルダーから信頼性を失うリスクもあるでしょう。

SDGsウォッシュを回避するためには、企業や組織がサステナビリティに実質的に取り組むことが重要です。具体的なサステナビリティ目標や数値を設定し、それに向けた行動を起こすことが求められます。

サステナビリティの本質は、持続可能な社会や環境の構築に対する責任を果たすことです。単なるマーケティングの手段として捉えるのではなく、重要な経営戦略のひとつとして積極的に取り組む必要があります。

食品業界のサステナビリティ取り組み事例

最後に、食品関連企業のサステナビリティに関する取り組み事例を確認していきましょう。

企業事例①:キッコーマングループ

醤油などの調味料や加工食品の大手として知られる、キッコーマン株式会社。

食の自然環境保護に向けたさまざまな取り組みを推進しており、2020年には、2030年に向けた長期的環境ビジョン『キッコーマングループ 長期環境ビジョン』が策定されました。

長期環境ビジョンは「気候変動」「食の環境」「資源の活用」の3つの分野から構成されており、具体的な目標は下記の通りです。

  • 気候変動:2030年度までに、CO₂排出量を2018年度比で30%以上削減。目標達成に向け、製造プロセスの改善、エネルギー効率の高い設備の導入、再生可能エネルギーの活用や技術革新などの施策を推進
  • 食の環境:水環境の保全と持続可能な調達の実現。水の効率的な利用やクリーンな自然還元、環境に配慮した原材料の調達を推進
  • 資源の活用:食品ロスの削減や環境配慮型商品の展開。製造や流通プロセスにおける廃棄物の削減とともに再資源化率100%を目標に設定

また社会的な側面として、キッコーマンは「食育」活動に力を入れているのが特徴です。しょうゆ作り体験や調理体験など「食べることへの興味」や「食べる楽しさ」を育む活動に全社的に取り組んでいます。

このように、キッコーマンは環境課題や社会課題の解決を経営戦略にうまく取り入れながら、サプライチェーン全体でサステナビリティ活動を推進しています。

消費者との関係を重視していることからも、ESG評価の高い好事例だと言えるでしょう。

参照:キッコーマングループ「環境保全活動事例集」

企業事例②:プリマハム株式会社

日本の大手食肉加工品メーカーであるプリマハム株式会社では、食品ロスや廃プラスチックの削減に注力しています。

たとえば、工場に入荷した食品をムダなく活用するため、品目の切り替えを最小限に抑える生産スケジュールを設定。ほかにも、運搬や移し替え時の肉片落下を防ぐため、設備の配置を工夫するなど食品ロス削減と製造過程の効率化を両立しています。

また、廃プラスチックに関しては、リサイクル可能なものの売却や冷蔵保管用ビニールシートの見直しなど、プラスチックの廃棄量や使用量削減に取り組んでいるのがポイントです。

プリマハムでは、自社だけでなくグループ会社を巻き込んだESG活動を推進しています。

現時点では廃棄物削減の目標達成に至っていませんが、サステナビリティを意識した設備投資にも積極的なため、今後の動向にも注目です。

参考:プリマハム 社会活動報告書

企業事例③:株式会社SAMURAI TRADING

埼玉県に本社を置く、株式会社SAMURAI TRADING。

2017年に食品会社として創業し、現在は卵殻を利用した繊維成型品やバイオマスプラスチックの企画・開発に取り組んでいます。

実際に開発されたバイオマス素材Shellmineは、環境に優しい素材として注目を集め、⼤⼿外⾷チェーンや⼤⼿ホテルチェーンに採⽤されました。

また、SAMURAI TRADINGは、他組織と連携してサステナビリティ活動を推進しているのが特徴です。

実際、バイオマスプラスチックの拡大を目的として立ち上げたエコ玉プロジェクトは、約39社の企業の協力を得て活動を展開しています。

近年では、廃⾷油のアップサイクルプロジェクトを⽴ち上げ、⾃治体と連携した取り組みを予定。

さらに、バイオマスプラスチック製品の成形における指定障害福祉センターとの協業やパートナー企業との連携を活かした防災・減災に寄与できる仕組みづくりなど、中小企業へのサステナビリティ活動の普及に大きく貢献しています。

このような協業を重視したビジネスモデルは、社会的にも高く評価されており、参考にすべき事例のひとつと言えるでしょう。

食品業界に関わりが深い社会課題

まとめ

今回の記事では、食品業界におけるサステナビリティ・ESGの動向や取り組み事例をご紹介しました。

環境や社会課題と密接にかかわる食品業界では、持続可能な食品生産や廃棄物削減に焦点を当てて事業を展開する必要があります。

ぜひ今回ご紹介した内容を参考に、適切なESGへの取り組みを通して企業価値の向上を目指してみてはいかがでしょうか。