貧困は世界中において深刻な問題です。
日本も例外ではなく、コロナの影響の失業などで日々の生活に困窮している人も増加しています。
また、行政の課題もたくさんあり、貧困を根本的に解決するのは簡単ではありません。
今回の記事では、SDGsにおける「貧困をなくそう」の概要や、日本企業の取り組みやNPOとの連携事例などについて解説します。
SDGs目標1「貧困をなくそう」とは
最初に、SDGsの目標1「貧困をなくそう」について解説します。
この目標は1日あたり1.25ドル未満で生活する“極度の貧困”の状態を、2030年までにあらゆる場所で終わらせることを目標としています。
SDGs目標1「貧困をなくそう」は、衣食住における最低限の生活をすべての人が保証されている状態を目指していると言えるでしょう。
貧困問題を根本的に解決しなければ、貧困に不満を感じた人々によって紛争が起こるなどのリスクにもつながります。
また、貧困というと、発展途上国のような衣食住の基盤が整っていない国に関連しているものとイメージするかもしれません。
しかし、日本のように食糧や住宅などが豊富にある国においても、貧困は大きな課題となっています。貧困は日本を含めた世界中で解決すべき問題です。
「貧困をなくそう」に関連しているSDGs目標
SDGs目標1「貧困をなくそう」が最低限の生活の保証を目指しているのに対し、以下の2つはさらにウェルビーイングを踏まえた内容です。
SDGs目標3:「すべての人に健康と福祉を」
SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」は、“だれもが健康で幸せな生活を送れるようにしよう”というビジョンで採択されています。
最低限の食事を摂れても、病気になっても治療できないまま生活しなければならない状態は、決してウェルビーイングとは言えないでしょう。
実際にサハラ以南のアフリカ地域では、2人に1人の子どもがかぜで肺炎になっても治療を受けられません。
SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」は、初期段階として出産時に命を落とす子どもや母親の数を減らすことを目標としています。
将来的には、すべての人がお金の心配なく基本的な保健サービスを受けられる状態を目指します。
人としての豊かな生活には、健康と福祉は欠かせません。
予防接種などセルフメディケーションによって、常に健康な状態でいられることも目標としています。
SDGs目標10:「人や国の不平等さをなくそう」
世界的に見ても、貧富の格差はどんどん広がっています。
教育制度や雇用条件などが整っていないことによって、満足な収入を得られない人は少なくありません。
国単位でも社会保証給付や失業手当などの助け舟の有無は異なります。
経済状況や事故など大きなトラブルが起きた際の制度が整っていないことは、最低限の生活で精一杯な人にとっては致命的になるでしょう。
SDGs目標10は、国または個人間の不平等を無くし、誰も経済的に取り残されない状態を目指します。
また、平等な教育を受けることで、経済的だけでなく社会的にも政治的にも必要な知識を身に付けられる世界を目標としています。
貧困に対する日本の現状と課題
SDGsにも定められているように、世界中で貧困を解決するための意識が高まっています。
しかし、日本には以下のような貧困に対する現状や課題があります。
高齢者の貧困
日本には高齢者の貧困問題があります。
内閣府『平成24年版 高齢社会白書によると、高齢者世帯の平均年間所得は約307万円で、全世帯平均の約549万円と比べると決して裕福ではありません。
また、高齢者世帯の約7割は公的年金や諸手当が収入の80%を占めており、労働収入や資産以外がほとんどです。
つまり、高齢者の多くは生活の基盤を行政などのサポートに頼っているということです。
年金や貯蓄が十分に無く生活保護を受給する65歳以上の人口は増加しており、高齢者の貧困は日本でも大きな課題と言えるでしょう。
さらに高齢者は医療に使うお金も増えるため、日々生活を送るだけでも精一杯という人も少なくありません。
若者・子どもの貧困
日本では、約7人に1人の子どもが相対的貧困という厚生省のデータがあります。
相対的貧困とは、その国の生活水準と比較して困窮した状態を指します。
最低限の食事や通学はできていても、必要な栄養バランスや知識を学ぶ機会を得られているとは限りません。
一般的な子どもと同じような教育や食事を得られず、心身的な成長の機会が少ない子どもがいる点は日本の大きな課題です。
相対的貧困の理由には、世界が低収入というだけでなく、ひとり親や病気などさまざまな要因が挙げられます。
また、貧困世帯をサポートする制度があっても申請方法がわからない・存在自体を知らないという問題もあり、行政や学校など幅広い機関が協力して解決しなければなりません。
日本において貧困を招くさまざまな格差
日本において、上記で述べたような貧困問題によって、さまざまな格差が生み出されます。
経済格差
日本は、非正規労働者と正社員など、経済格差における問題があります。
特にコロナ禍になってから失業者や非正規労働者の割合も増加しており、経済格差はまだまだ力を入れて取り組まなければならない問題と言えるでしょう。
先述したように、ひとり親世帯は貧困になる傾向が高いです。
子どもを育てるための時間を確保するために正社員よりも非正規雇用を選ぶ人も珍しくありません。
しかし、非正規労働者は労働時間を抑えられるメリットがある一方で、収入が低く、契約を切られやすいというデメリットもあります。
日本における経済格差をなくすためには、行政が手当や給付金を用意するだけでなく、どのような世帯であっても働きやすい環境を企業が整えることも大切です。
参考:サステナNet 社会課題ライブラリー『経済格差の拡大』
地域格差
地域格差とは、地域によって平均所得や制度の充実度が異なる状態のことです。
東京や大阪などの都心部と比べて、北海道や九州などは平均所得が低い傾向にあります。
特に沖縄は東京と比べて平均所得が2分の1と著しく低いため、地域格差は早急に解決しなければなりません。
地域格差が生まれる要因として、労働生産性と産業特化があります。
人口が多い地域は労働力も豊富で、経済を回す力も強いです。一方で、人口が少ない地域は労働人口も少なく、経済力も乏しいと言えるでしょう。
また、その地域の産業が経済的効果が高いかどうかも格差を生み出す要因となります。
農林水産業をメインとする地域は生産性が低い傾向にあり、一人当たりの平均所得も低くなります。
情報格差
情報格差とは別名デジタルデバイドとも呼ばれ、情報通信技術の機器を持っている人と持っていない人との格差です。
今やインターネットは娯楽の一部ではなく、ビジネスや正確な情報収集においても必要不可欠です。
情報収集通信技術の機器を使いこなせないということは、安定した仕事に就けない、正しい情報を取得できないというリスクにも繋がり、生活が不便になるだけの問題ではありません。
情報格差は教育や収入などの差によって生み出されます。
家計が苦しくてインターネットを導入する余裕ない環境であれば、幼いころからネットに慣れ親しんでいる人と比べると情報リテラシーは劣ってしまいます。
情報社会が進んだ日本において、情報に対する知識や技術がない人は、就職先が限られてしまうでしょう。情報格差は経済格差にも関連しています。
貧困をなくすために企業ができることとは?
日本の行政が生活困窮者を支援する段階は、以下の通りです。
第一段階は、再就職の見込みがある人の就職活動期間をサポートする制度で、最終段階は失業や倒産などで生活するお金がない人をサポートする制度です。
第二のセーフティーネットである「生活困窮者自立支援」は、現時点で困窮しており就業が難しい人に対する支援制度です。
しかし、新型コロナウイルスの影響で行政は資金や人手に余裕なく、生活困窮者自立支援はうまく機能していません。
生活困窮者自立支援は金銭面的なサポートだけでなく、今後安定した収入を得られるようなサポートも欠かせないため、最も企業の支援を必要としている領域と言えます。
金銭的なサポートはNPOと企業が、就業におけるサポートは企業がというように、生活困窮者自立支援はNPOと企業との連携が必要不可欠です。
具体的には、生活困窮者とすでにつながりがあるNPOへの寄付やノウハウ提供による連携が有効的です。
企業がNPOと連携するきっかけづくりになる
従業員参加型で取り組めるサービスとは?
ここからは、貧困をなくすために企業が取り組んでいる3つの事例を紹介します。
事例①:「子ども食堂」に社員を派遣
企業:カルビー株式会社
連携先:一般社団法人栃木県若年者支援機構
カルビー株式会社は、一般社団法人栃木県若年者支援機構が運営する「子ども食堂」に社員を派遣しています。
最初は子ども食堂に対する資金援助という形で連携しましたが、参加人数が増えたために社員を派遣するようになりました。
初期段階ではお金や人手のサポートでしたが、カルビーが一般社団法人栃木県若年者支援機構の想いに共鳴して、ともに活動するようになりました。
子ども食堂はただ単に子どもたちの空腹を満たすための場所ではなく、「誰かと一緒に摂る食事は楽しい」と実感できるイベントとして開催されています。
食事を通して子どもたちにウェルビーイングを提供する一般社団法人栃木県若年者支援機構に対して、カルビーは社員を派遣し、一緒に子ども食堂を盛り上げています。
事例②:生活困窮者の自立支援団体に寄付
企業:三木プーリ株式会社
寄付先:特定非営利活動法人 With優
三木プーリ株式会社は、特定非営利活動法人 With優 に寄付することで、日本の貧困問題解決に携わっています。
三木プーリの寄付金は、生活困窮世帯の子どもたち向けの宿泊型イベントに使われています。
このイベントはスキー合宿やキャンプなど内容が多岐にわたり、参加費もかかりません。幅広いイベントを無料で提供することで、生活困窮者の「体験格差」をなくします。
例えば、収入が低い世帯では、スキーやキャンプはお金の問題で体験しづらいでしょう。体験格差をなくすことで、多くの人に娯楽の機会を与えられます。
心身ともに豊かになれる場を提供することで、日本の貧困問題の解決に協力しています。
参考:活動レポート「寄付金で生活困窮世帯の子どもたち向けの宿泊型イベントを実施」
事例③:ひとり親家庭の子どもの支援団体に寄付
企業:株式会社竹村コーポレーション
寄付先:特定非営利活動法人 ターサ・エデュケーション
株式会社竹村コーポレーションは、特定非営利活動法人 ターサ・エデュケーションへ寄付することで、貧困問題の解決に役立っています。
ひとり親かつ経済的に困窮している不登校児へのボランティアは、課題が多い点からコストがかさむ傾向にあり、諦めなければならない支援も少なくありません。
コスト面でなかなか満足できる支援ができない状況において、竹村コーポレーションの寄付金によって、継続的なひとり親家庭利用児童のフリースクール利用料減免を実現できています。
フリースクールの利用料が減免されることで、より多くのひとり親家庭の子どもが利用しやすくなります。
人との交流がなく引きこもりがちだった子どもにとっても、多くの人と交流する機会が与えられ、ウェルビーイングな生活につながると言えるでしょう。
参考:活動レポート「寄付金で、ひとり親家庭に属する不登校児童の利用料減免を継続」
各社会課題に取り組む組織を検索して、
連携・協働してみませんか?
まとめ
今回の記事では、「貧困をなくそう」という課題や現状、日本の企業の取り組み事例について解説しました。
内容をまとめると、以下の通りです。
貧困はさまざまな格差を生み出す
貧困はただ単に「満足できる食事を摂れない」「服や住居に困る」というだけではありません。
満足な教育が受けられないことによって就業が難しくなり、将来的にも経済的な問題を引き起こします。
また、インターネットを導入する余裕がないためネットリテラシーが身に付いていない人とそうでない人との格差、つまり情報格差によっても経済的な問題が起こります。
仕事においてインターネットを使えない人は内定を貰いづらく、収入を得るために仕事に就きたくても就業できない……という人が増えてしまうでしょう。
貧困は衣食住だけでなく、多くの格差につながっています。
貧困をなくすために企業とNPOと連携が有効的
貧困をなくすためには、NPOなどの市民団体だけでなく、企業もアクションを起こしていくことが重要となります。
貧困問題の原因は多岐にわたるため、企業単体でアクションを起こす人手や資金に余裕がない場合、NPOとの連携が有効的です。
企業がNPOに資金やノウハウを提供し、実際の貧困解決のアクションはNPOに任せるという形を取れば、企業の負担を抑えつつ貧困問題に対応できるでしょう。
企業とNPOの連携によって活動の幅が広がれば、生活困窮者自立支援の活発化につながります。サステナビリティ経営を推進している企業は、ぜひ一度検討してみてはいかがでしょうか。