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サステナビリティ・リンク・ローンとは?ESGとの関連性や事例を解説

サステナビリティ・リンク・ローン

企業が環境や社会に配慮したビジネスを展開するために役立つ「サステナビリティ・リンク・ローン」。ESG投資が普及したことにより、世界各国で注目を集めるようになりました。

今回の記事では、サステナビリティ・リンク・ローンの概要やESGとの関連性をご紹介します。国内事例についても解説するので、ぜひ最後までご覧ください。

サステナビリティ委員会

サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)とは

サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)とは、借り手(企業)が設定するサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)の達成状況に応じて、金利が変動するローンのことです。

借り手はESG戦略と整合したSPTsを定める必要があり、目標の達成率はサステナビリティに関する重要業績評価指標(KPI:Key Performance Indicators)に基づいて評価されます。金利的なインセンティブを受けるためには、SPTsの目標達成への意欲を示し、実際に行動に移すことが重要です。

通称SLLと呼ばれるサステナビリティ・リンク・ローンは欧州を中心に拡大しており、企業の持続可能な経済活動の促進を目的としています。

グリーンローンなどとの違い

サステナビリティ・リンク・ローンとよく似た言葉に「グリーンローン」があります。

グリーンローンとは、環境に関連するプロジェクトや活動を支援するための融資や債権のことです。

たとえば、企業が再生可能エネルギーの開発やエネルギー効率の向上に関する資金を集める際に、融資を受けることができます。ただし、グリーンローンで得た資金は、環境的な目標を満たしたプロジェクトに利用しなければいけません。

また、グリーンローン以外にも、社会課題に対処するための活動に融資する「ソーシャルローン」や環境・経済・社会を総合的に考慮したプロジェクトに融資する「サステナビリティローン」などが存在します。

どれも類似したローン制度ですが、準拠するガイドラインが異なり、サステナビリティ・リンク・ローンに比べて資金を使える範囲が限定的であると考えておきましょう。

サステナビリティ・リンク・ローン原則(SLLP)とは

サステナビリティ・リンク・ローン原則(SLLP)とは、サステナビリティ・リンク・ローンの普及を推進するための自主的なガイドラインのことです。

金融形態を代表する調達手法であるシンジケートローン市場の主な金融機関の代表によって2019年に策定され、下記5つの要素で構成されています。

①重要業績評価指標(KPI)の選定
②サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPT)の測定
③ローンの特性
④レポーティング
⑤検証

サステナビリティ・リンク・ローン原則は、今後も改訂される可能性があります。
サステナビリティ・リンク・ローンを利用する際は、最新版のガイドラインを確認するようにしてください。

サステナビリティ・リンク・ローン普及の背景

世界中で注目されているサステナビリティ・リンク・ローンですが、その背景には何があるのでしょうか。

ここでは、サステナビリティ・リンク・ローンの普及が進んだ3つの背景について詳しく解説します。

ESG投資の拡大

サステナビリティ・リンク・ローン拡大の要因のひとつとして、ESG投資の拡大が考えられます。

ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に着目した事業展開をしている企業に投資をすることです。目先の利益だけでなく、投資先企業の持続可能性の促進を目的としています。

サステナビリティ・リンク・ローンでは、借り手のESG戦略と整合した目標を定める必要があるため、ESG経営を推進している企業から注目されるようになりました。

環境保全意識の高まり

パリ協定やSDGs目標などの策定により、企業で環境保全意識が高まっていることも背景として考えられるでしょう。
企業にも社会や環境に配慮した持続可能な事業活動が求められており、そのような取り組みを推進するための金銭的支援としてサステナビリティ・リンク・ローンが普及したと考えられます。

温室効果ガスの削減や再生可能エネルギーの導入など、持続可能な経済活動を推進するためにも、サステナビリティ・リンク・ローンは有効な手段なのです。

サステナビリティ・リンク・ローンガイドラインの策定

サステナビリティ・リンク・ローン普及の背景として、日本国内でのサステナビリティ・リンク・ローンガイドラインの策定も挙げられます。

現在日本では、政府や金融庁などによってESG投資やグリーンファイナンスが推進されており、環境問題への取り組みのひとつとしてサステナビリティ・リンク・ローンの促進を進めています。

2020年には、環境省によってサステナビリティ・リンク・ローンガイドラインが策定されました。

ガイドライン策定後には融資件数と融資額が急激に増加しており、2022年には融資件数241件、融資金額6,573億円を記録しています。

サステナビリティ・リンク・ローン(SSL)の融資件数と融資額
グリーンファイナンスポータルを基にICHI COMMONS株式会社が作成

このように、国内での政策や規制が追い風となってサステナビリティ・リンク・ローンが注目され始めており、今後も普及拡大が見込まれています。

借り手(企業)のメリット

サステナビリティ・リンク・ローンを活用することで、企業は持続可能な事業展開を実現できます。

ここでは、サステナビリティ・リンク・ローンを活用することで得られる、借り手のメリットについて深堀りしていきましょう。

サステナビリティ経営の強化

サステナビリティ・リンク・ローンを利用することにより、企業のサステナビリティ経営の強化につながる可能性が高いです。

サステナビリティ・リンク・ローンではESG経営と整合性の取れたSPTsを設定する必要があり、その目標達成に向けて戦略を立案・遂行していかなければなりません。

組織内でのリスクマネジメントやガバナンスの体制整備が必要となるため、社員への動機付けやサステナビリティ経営の高度化に役立つと考えられます。

また、ESG課題を解決するためには、自社だけでなくサプライチェーン全体での取り組みが重要となります。

サステナビリティ・リンク・ローン利用のための準備は、サプライチェーン全体としてのサステナビリティ経営強化につながる可能性があります。

企業価値の向上

サステナビリティ・リンク・ローンで資金調達をすることにより、持続可能な企業に向けて意欲的に取り組んでいることをアピールできます。

環境・社会・経済の3つの側面に着目して事業を展開していることは社会的な支持の獲得につながり、ひいては企業価値の向上につながるでしょう。

また、サステナビリティ・リンク・ローンを利用するには、企業のESG経営に関する情報を開示する必要があるため、企業の透明性が担保されるというメリットもあります。

ESG融資を検討する金融機関や投資家から信頼されやすくなり、新たな資金調達先を獲得できる可能性も高まるかもしれません。

このように、サステナビリティ・リンク・ローンは、企業価値の向上だけでなく資金調達基盤の強化としても大きな利点があります。

サステナビリティ経営の強化によるインセンティブ

サステナビリティ・リンク・ローンは、借り手の目標達成率により融資条件が変動するローン制度です。企業のサステナビリティ・パフォーマンスを向上させるために、目標の達成に応じてインセンティブが設けられています。

借り手は、サステナビリティ経営を高度化することで「金利を引き下げた状態で資金調達ができる」といったインセンティブを得ることが可能です。

ただし、目標の達成状況によってはディスインセンティブを受ける可能性もあるため注意しましょう。

サステナビリティ・リンク・ローンの国内事例

次に、サステナビリティ・リンク・ローンの国内事例を確認していきましょう。

事例①:株式会社リコー

事務機器や光学機器を製造する株式会社リコーは、株式会社三菱UFJ銀行とサステナビリティ・リンク・ロー ン契約を締結しています。

リコーでは「第20次中期経営計画」の開始に合わせて、「リコーグループ環境目標」 の達成に力を入れてきました。
今回の契約ではSBTの新基準である「1.5℃目標」に沿って設定した、温室効果ガス削減目標の達成状況によって金利が決定されます。

サステナビリティ・リンク・ローンで調達した資金の一部は、温室効果ガス削減の目標達成に向けた再生エネルギーの導入や省エネ設備投資に活用するとのことです。

リコーは、事業に使う電力を100%再生可能エネルギーで賄う「RE100」という団体に日本企業で初めて加盟しています。
省エネルギーへの取り組みを本格化させるためにも、サステナビリティ・リンクローンの利用を決定したと考えられるでしょう。

事例②:三菱地所株式会社

日本の大手総合不動産デベロッパーである三菱地所株式会社は、国内の不動産業界として初めて、農林中央金庫とサステナビリティ・リンク・ローンを締結しています。

三菱地所では2050年のサステナビリティ経営を見据えた「三菱地所グループのサステナビリティビジョン 2050」を制定しており、その中間目標として「三菱地所グループのSDGs 2030」を定めました。

本ローンでは、「三菱地所グループのSDGs 2030」での目標に基づき、CO2排出量と再生可能電力比率をSPTsに設定しています。
調達した資金の一部は、再生可能エネルギーの導入拡大やCO2削減に関連した取り組みに活用する見込みです。

長期的なビジョンの達成に向け、サステナビリティ・リンク・ローンを有効的に活用している事例と言えます。

事例③:西日本旅客鉄道株式会社

西日本を中心とした鉄道事業者である西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)。三井住友信託銀行とのサステナビリティ・リンク・ローンを締結しています。

JR西日本では、環境長期目標である「JR西日本グループ ゼロカーボン 2050」を策定しており、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにすることを目標に掲げています。

本ローンでは、JR西日本グループのCO2排出量(総量、Ccope1・2)の削減をKPIに設定し、2030年度までにグループ全体でのCO2排出量を2013年度比で46%削減することをSPTsに定めました。

温室効果ガスの排出が多くなる鉄道事業だからこそ、脱炭素社会への対応は非常に重要な課題のひとつです。
サステナビリティ・リンク・ローンを利用することにより、グループ全体でのサステナビリティ経営の強化が期待されます。

サステナビリティ・リンク・ローン借入に向けて企業が行うこと

さまざまなメリットがあるサステナビリティ・リンク・ローンですが、企業が実際に利用するにはどのようにすればよいのでしょうか。

最後に、具体的な発行フローと取り扱っている日本の金融機関をご紹介します。

サステナビリティ・リンク・ローンの利用を検討している方は、ぜひ最後までご確認ください。

発行フローとチェックリスト

サステナビリティ・リンク・ローンを利用して借入をする場合は、通常の借入手続きに加えて、KPIの選定やSPTsの策定、レポーティング方法の検討といった、サステナビリティ・リンク・ローンの条件を満たす必要があります。

具体的なフローについては、こちらのリンクを参照してください。

また、サステナビリティ・リンク・ローンのガイドラインでは、借入れ時のチェックリストが用意されています。
利用前にはチェックリストに基づいて適格性を確認することが重要です。

サステナビリティ・リンク・ローンを扱う日本の金融機関

サステナビリティ・リンク・ローンは、さまざまな日本の金融機関で取り扱っています。主な金融機関は下記のとおりです。(2023年5月現在)

三菱UFJ銀行
三井住友信託銀行
みずほ銀行
農林中央金庫
滋賀銀行
三井住友銀行
日本政策投資銀行
りそな銀行
中国銀行
伊予銀行
横浜銀行

サステナビリティ・リンク・ローンは持続可能な事業活動のための有効手段

今回の記事では、世界で注目が集まるサステナビリティ・リンク・ローンについて解説しました。サステナビリティ・リンク・ローンは、持続可能な経済活動を支援する融資制度です。

積極的に活用することで、企業のサステナビリティ経営の高度化が期待できます。サステナビリティ経営への取り組みを検討している企業は、ぜひ一度検討してみてはいかがでしょうか。

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