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「地域課題や取り組みを見える化する」。地域とつながり、お金を循環させるには

地域とつながり、お金を循環させるには?

逆参勤交代構想の提唱者である三菱総合研究所  主席研究員の松田 智生さんと、ICHI COMMONS株式会社(以下、ICHI)代表取締役の伏見 崇宏が、「マッチング」「情報の見える化」「課題の先鋭化」をキーワードに行った対談をお届けしている本記事。

対談後編では、本プロジェクトを進める中で見えた可能性と課題をもとに、今後より発展させるために必要な連携方法や考え方についてうかがいました。

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対談者 松田 智生 さん
三菱総合研究所 主席研究員・チーフプロデューサー

1966年東京生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。
専門は地域活性化、アクティブシニア論。高知大学客員教授。
2017年より逆参勤交代を提唱、北海道から九州まで実証実験を展開中。デジタル庁シェアリングエコノミー伝道師、内閣官房地方創生×全世代活躍まちづくり検討会座長代理、内閣府高齢社会フォーラム企画委員、浜松市地方創生アドバイザー、壱岐市政策顧問等を歴任する当該分野の第一人者。
著書:「明るい逆参勤交代が日本を変える」 「日本版CCRCがわかる本」

社会的活動が社会に伝わりやすい形」を構造化するために

伏見:弊社のプラットフォームICHI.SOCIALでは、「地域・社会課題ライブラリ」を公開しており、全国47都道府県の課題については、約90種の国の調査・指標をもとにランキング形式で見える化しています。これにより、業種を超えて「地域」を軸にしたつながりをつくれたり、「課題」を軸にコミュニティを形成することができると考えています。

逆参勤交代プロジェクトをきっかけに、各自治体で課題解決に取り組まれていらっしゃる方々がICHI.SOCIALに載ることで、地域を超えて課題ベースで横のつながりを醸成することができたら面白いですし、逆参勤交代に参画する個人の流入にもお力添えできると思っています。

松田:弊社の小宮山理事長も言っていますが、企業の経営者が一番気にしているのは、SDGs投資とESG投資が集まらず、企業価値や株価が下がることです。ですから、SDGsにおける具体的な取り組みがメディアに出ることが株価の上昇につながるということですよね。

伏見:そうです。あとはそもそも従業員が、自社のSDGsやサステナビリティの取り組みを認知していないケースも多いので、メディアに出ることで、会社の取り組みを認知できるようになります。そのほかにも、営業担当がステークホルダーに対してビジネスを推進しやすくなるなど、関接的な事業に対するメリットをどれだけつくっていけるかが重要になってきます。

実は弊社で「サステナビリティをファンづくりにつなげる」というコンセプトのもと、『サステナビリティポートフォリオ』という企業向けサービスをスタートさせました。企業が行なっているD&Iや、脱炭素系の取り組みなどを自分たちで投稿することで、プラットフォーム上に情報が蓄積され、メディア関係者が取り上げたい情報をキャッチしやすい体制を作っていこうとしています。
企業としてもSDGs、ESGはやらなきゃいけない。でも100億円の売り上げより株価を1円上げるためには、個人投資家や個人ステークホルダーのその会社に対する認知が変わることが大事なんですよね。我々としては、真摯に社会的な取り組みをしている企業があれば、イノベーティブな取り組みとしてメディアに取り上げられるサイクル・仕組みを作っていこうとしています。その際には、広報が一つの切り口になると思っています。
寄付だけではなく、ボランティアやプロボノ、事業を通した社会貢献に関する情報を、各社会課題に全部紐づけることで、各会社が「どのくらい」「どの課題に対して」取り組んでいるのかが見える化されます。それぞれの企業の特性が、統合報告書よりもう少し手触り感のある情報として見えるようになります。

松田:これを三菱総合研究所が実施すると、自社のサステナビリティに関する通信網が見える化できるわけですか?

伏見:そうですね。情報が蓄積されていき、弊社が連携している『CLOUD PRESS ROOM』というサービスを通じてメディア関係者に届ける仕組みです。

松田:多くの企業では、プレスリリースを頻繁にしながら、本当に載ってほしい情報がなかなか掲載されないことがあります。こちらが見せたいものと、メディアが書きたいものはなかなかマッチしない。載せたいことがメディアではバリューとして認められないと。

伏見:そういう意味では、私たちのプラットフォーム自体が成長すれば、例えば、特定のメディアの広告枠を取得し、そこにプラットフォームで活躍している人たちが載るという構造を作ることができ、メディアに左右されずに我々が発信していきたいものを発信していけると思っています。最終的にめざしているのはそういったところです。
ポイントは露出を増やすことなので、メディアが取り上げたい内容を企業が無理につくるという話ではないと思うんですよね。企業のパーパスが社会に伝わる形をどのように構造化できるかがポイントだと思っています。

逆参勤交代でいうと、受け入れ先の自治体や、現地の事業者様にプラットフォームをご活用いただけると考えています。そういう方々のインタビューを載せて、ここでプロボノや副業で関わりたいと思える地域の団体を見つけて、事前勉強してから現地を訪れる仕組みを作るのも面白いですよね。
そういったアセットがないと、せっかく地方に人の流れができても、自治体が受け入れて終わりになってしまうと思います。現状はおそらく自治体の中にそういった設計をできる方がいらっしゃると思うのですが、これから業界全体で動いていくことになったときに、インフラとなるものが必要になってくると思います。ICHI.SOCIALはそのインフラとして機能していきたいと思っています。

活動の継続には、自律的に動けるパートナーが不可欠

松田:丸の内プラチナ大学は、エコッツェリア協会、三菱総合研究所、一般社団法人ソーシャルビジネスネットワークが共催しています。このエコッツェリア協会の活動の場である大手町の「3×3Lab Future」という施設が学びや人材育成、人材交流の拠点になっています。

伏見:教育や人材育成という文脈では、学校等の教育機関にもICHI.SOCIALを利用してもらえるように働きかけています。高等学校などが取り組んでいる地域連携のプロジェクトが掲載されることで、教育という切り口で協働できるところはたくさんあると思います。

松田:このプラットフォームには、首都圏でも地方でも地域連携に力を入れている学校と相性がいいということですね。

伏見:そうですね。学校外連携を積極的にやっているところですね。最近、総合的な探究の授業などで、「プロジェクトベースドラーニング」や「チャレンジベースドラーニング」という考えのもと、学生たちが自分たちで課題を見つけて取り組む起業体験などを実施している学校も出てきています。そうなると、外部有識者に話を聞くような必然性が出てくるので、弊社のプラットフォームに登録している社会的事業者にヒアリングしてもらうこともできます。

松田:僕も教育への活用には大賛成ですね。以前、逆参勤交代で訪問した熊本県の南阿蘇村は熊本地震の被災地で、いまだに仮設住宅があります。こうした被災地は得てして、子どもたちは自分の街の行き先が不安で、自己否定感が強い傾向があります。
逆参勤交代で訪問した大人たちがその街の魅力を伝えたり、復興について一緒に考えましょうと言うと、子どもたちが目をキラキラさせ、自己肯定感に変わっていくのを感じました。

もう一つ、奄美群島の徳之島で実施した多世代のキャリア勉強会があります。離島には大学がなく、また一次産業が主なので、大学で学ぶことや働くことについて、高校生がじっくりと考える機会が少ないのです。そこで逆参勤交代で訪問したビジネスパーソンが、例えば建築家がデザインについて話すと、「建築家になるためにはどういう大学に入ればいいんですか」という質問が出たりします。エンジニアがものづくりの話をしたり、元キャビンアテンダントがホスピタリティの話をすると高校生たちは目を輝かせるのです。
どんなにオンライン化が進んでも、地域の教育格差はどうしても生まれるので、教育や未来人材育成は大事だと思います。こういうときに企業版ふるさと納税で、教育面に寄付したり、社員をIT教育やエンジニア教育に活用するなどができればいいと思っています。

徳之島で実施した多世代のキャリア勉強会
(出典:丸の内プラチナ大学)

伏見:実はそのモデルケースに近いものを、今年の6、7月に夢真ビーネックスグループさんと企業版ふるさと納税を活用した環境教育×ICT教育を行いました。プログラミング技術を使ってプラモデルを動かすという親子参加型のICT教育プログラム「ロボサバ」を作り、そこに講師として夢真ビーネックスのエンジニア社員が関わるというものです。
これは、役員の方がこのプロジェクトをやりたいと、直接動かれて実現したものです。

松田:先ほどのパートナー戦略の文脈でいうと、丸の内プラチナ大学だけでは限界があるので、現地でどんどん動いてくださる企業や団体がいるのはいいですね。

伏見:こういった活動を継続するために、逆参勤交代では、企業や社員の「Can」と「Will」を見える化する必要があると書かれていたと思います。

ICHI.SOCIALは、地域のプログラムに関わりたいと思われた企業が、どういうふうに関わるのかという「How」の選択肢を提供していこうとしています。企業が協賛で関われるのか、それとも従業員を送れるのか、関わり方の点と点をどうつなぐかを見える化することによって、「それならうちもできる」と言いやすくさせる仕組みができると、こういった取り組みにもいろいろな企業さんたちが応援する体制ができると思うんですよね。

松田:今後どうやって自律的に回していくかが共通の課題ですね。逆参勤交代は、今は原則、自治体の予算をベースとしてプロモーションをしていますが、今後は企業の協賛金も視野に入れると、企業が自立的に参加できるフレームを用意できているかが重要になってきますね。

伏見:そういう意味では、逆参勤交代プロジェクトをいろいろな地域で企画して、そこに対して企業が場所を選んでサポートすることになるのですか?

松田:これからはそういうふうにしたいですね。今年度は、福山市、福井市、北九州市、妙高市、伊東市と一気に5自治体に広げました。そこに継続的に来てくれる人や企業をいかに確保するかということと、受講生が実施した市長への提案をよりリアルな事業として組み立てていくことが、ネクストステージです。

人の流れだけでなく「お金の流れ」を変えるためには

伏見:今後の展望をお聞かせいただければと思います。

松田:逆参勤交代は、「続けること」「深めること」「広めること」ことを大事にしています。「続けること」は一過性のイベントにしないこと、「深めること」はより深化させてリアルな事業していくということです。「広げること」というのは、各自治体の広域連携です。今までの取り組みでは人の流れを動かすことはできているんですが、地域にお金が循環しているかというとまだ足りないと考えています。ICHIさんの『わくわく寄付コンペ』を利用することで、地域で頑張っているワイナリーに寄付するような取り組みもできそうな気がしました。

伏見:そうですね。企業版ふるさと納税は自治体に対する寄付ですが、私たちはワイナリー(事業者)に直接お金が落ちるようにするための構造を作っています。そうすることで、企業も事業者と連携できる機会が生まれ、寄付する意義も見出すことができます。

松田:逆参勤交代のプログラムでも、長野県小諸市のワイナリーで苗木植えのお手伝いをしました。ひとりでなく集団なので、そのうちに連帯感ができて、チームビルディングにプラスになることがわかりました。そうした体験によって“思い入れの強い地”になると、そのあとプライベートで再度訪問することになります。
現在もふるさと納税をしていますが、返礼品だけの浅薄な関係でなく、苗木植えや収穫体験、地元の方との交流という、もっと深くて尊い体験になります。

長野県小諸市内ワイナリーでの苗木植えのお手伝いの様子(写真:写真:松田智生)

伏見:お金が落ちる仕組みになっていますよね。まさに、「観光以上、移住以下」のような距離感ですね。そのような関係人口をどのように増やしていくかが引き続き大事になると思っています。

松田:ありがとうございます。逆参勤交代と貴社の事業とは非常に親和性があることがわかりました。

伏見:本当にいろいろと連携できることがあると感じました。本日はありがとうございました。