経済同友会が主催する「ソーシャルウェンズデー」は、民間・公共・市民社会の3つのセクターを越えて社会課題解決に取り組むトライセクター人財の育成を目指す取り組みです。2026年度のリーダープログラムは参画企業を30社以上に拡大。「個人の気づきから、組織の学び、そして企業の前進へ」をテーマに、現場セッションと共創セッションを交互に展開しています。
この記事では、2026年6月にビジョナル株式会社 代表取締役社長の南壮一郎氏を迎えて開催された第3回・共創プログラムの内容をご紹介します。同社のサステナビリティプログラム「みらい投資プロジェクト」を題材に、企業の強みをどう社会価値に接続するのか、その思想と実践、そして南氏個人が挑む地域再建の物語までが語られる一日となりました。
目次
本業でやるからこそ続く、サステナビリティの原則
「共創」をテーマとした第3回のセッションにおいて、南氏がまず提示したのは、サステナビリティに対する明快な立場でした。企業のサステナビリティにはESG、SDGs、CSRとさまざまな呼び方がありますが、南氏が最もサステナブルだと考えるのは、自社の事業・製品・サービスを通じて世の中にどう貢献できるかを突き詰めることです。世の中にとって良いことをする。それ自体は大変意義深いし、価値ある行動だと思う。けれども、自分たちが本業で培ったものを活かして貢献することこそが、本当の意味でのサステナビリティである。創業以来一貫して、その姿勢で取り組んできたといいます。
その原点は、創業初期のビズリーチにありました。有料サービスであるビズリーチは、資金の限られたNPOには手が届きません。「採用に困っている」と相談してくる非営利組織の友人たちに対し、ならば無償で提供する代わりに、何か一緒にブランディングやプロモーションを行い、一緒に成長していかないかと持ちかけたところから、すべてが始まりました。
もう一つ、南氏が繰り返し強調したのは、社員にとっての意味です。自分たちが働いている会社は、こんな素晴らしいことをやっているんだと社員自身が感じられること。それこそがサステナビリティプログラムにとって最も重要であり、日々の営業やものづくり、マーケティングの延長線上にプログラムがあってほしいと南氏は語ります。
「みらい投資プロジェクト」の3つの柱と、仕組み化の思想

こうした個別の取り組みを一つのパッケージへと束ねたのが、SDGsと連動したサステナビリティプログラム「みらい投資プロジェクト」です。「未来のプロ人材を育てる」「未来の新産業を創る」「未来の環境を守る」の3つを柱に、ビズリーチに登録している342万人超のスカウト可能会員とパートナー団体とともに、知見やノウハウを未来へ投資していく取り組みです。
象徴的な事例が、国立高等専門学校機構との連携から生まれた「副業先生」の仕組みです。デジタル化が加速するなかで、サイバーセキュリティやAIといった最先端領域を教員がアップデートし続けるのは容易ではありません。そこで、ビズリーチに登録するプロ人材が副業で高専の教壇に立つモデルを構築。のべ14高専で公募を実施し、2,351名の応募から72名の副業先生が誕生、1,200名以上の学生が受講しました。第8回日本オープンイノベーション大賞では選考委員会特別賞を受賞しています。
ここで南氏が指摘したのは、スポーツ業界での経験にも通じる“業界の思い込み”でした。転職では給与が下がるから優秀な人材は来ないと、多くの現場が考えます。しかし、副業という選択肢を用意すれば、本業を続けながら関わりたい人は驚くほど多い。その仮説をプラットフォームの力で実証したのが、この取り組みでした。
慶應義塾大学との連携も同じ発想で始まりました。大学発スタートアップは、起業前の時点で人材面の壁を抱えています。これに対し、副業・兼業で大学発シーズに参画する「慶應版EIR(客員起業家)モデル」を始動。この仕組みは現在5つの大学へと広がり、累計で5,000名超の応募から約50名が活躍しています。また、長野県原村との包括連携協定では、役場のDXを担う副業人材の公募、中学校でのキャリア教育、親子向けの農業体験イベントなど、村の課題に多面的に伴走しています。
一連の取り組みを貫くのは、一つの成功事例で終わらせず、仕組み化して横展開するという思想です。「早く何かを実現することが目的ではなく、サステナブルな仕組みを作って広げていくことこそが大事」「ムーブメントにしなければ意味がない」という言葉が印象的なセッションとなりました。
八ヶ岳農業大学校で一人の経営者が挑む、地域再建の実践

プレゼンテーションの後半では、南氏が個人として取り組む八ヶ岳農業大学校の再建について語られました。1938年に開校したこの学校は、国の補助金の受給を前提とした運営が続くなかで、2010年の事業仕分けによる補助金打ち切りを経て、2024年には破産寸前の状態に陥っていました。破産すれば267ヘクタールもあるキャンパスがなくなってしまい、地域のシンボルが失われる瀬戸際で、南氏は個人として再建を担う決断をします。
再建の核となったのは、農業を学ぶ意味の再定義でした。生産起点のものづくりとしての農業に加え、顧客起点の事業経営としての農業を教える。販売計画から逆算した作付、採算がとれる事業計画を立てたうえで閉鎖されていた加工所の再開、直売所の直営化と学生による接客実習、季節ごとの集客イベント。事業会社では当たり前のことを、農業教育の現場に持ち込んだのです。
結果は数字にも表れ、とうもろこしは楽天ランキング全国2位に浮上し、冬季の集客は難しいという通念を覆したクリスマスマーケットは初開催で3,000名超が来訪しました。関東圏の小中学生を受け入れる農林体験プログラムは年間1万人超の規模へと拡大しています。
さらに、10ヘクタールの花畑「YATZ GARDEN(ヤッツガーデン)」の造成、当校の生乳と平飼い卵で作る「生ミルククッキー」の開発など、地域振興の取り組みも次々と動き出しています。全国50カ所超の花畑施設を徹底的に分析し、業界のトップランナーを招聘するやり方は、まさに事業経営そのものです。
いろいろな方々と連携することも重要ですが、最終的には自分でリスクを取ってやったものを自分で応援する。そして、結果が出るものでなければ続かない。いずれは、この学校が全国の同じような施設や自治体へのモデルケースとなり、ムーブメントを起こせるようになりたい。そう話す南氏がその先に見据えているのは、地域そのもののアップデートです。
ディスカッションから生まれた「共創」の視点

セッションの後半では「Visionalの挑戦・戦略・組織のあり方から、自社に持ち帰れる気づきは何か。自社が抱える課題と新たな可能性は?」をテーマに、チームディスカッションが実施されました。ディスカッションでは、企業とNPOの連携を単発の社会貢献で終わらせないための視点が数多く共有されました。共通して挙がったのは、活動を続けるには関わる人が楽しさを感じられることが欠かせない、という気づきです。
また、社員をどう巻き込むかも共通の悩みとして上がりました。本業を持つ若手社員に個別に声をかけ、上司の承諾を得て参加できる仕組みが有効ではないかといった意見や、単に希望者を募るのではなく、業務との両立を図る設計が重要だという実践的な意見などが出されました。さらに、共創を「研修」「福利厚生」「社会貢献」の三つの側面から捉え、それらを高い次元で融合させることで、社員の成長と企業の社会的価値創出を同時に実現できるのではないか、という考え方も共有されました。
共創とは一方通行の支援ではなく、「社員の成長・企業活動への理解・社会課題の解決が同時に回る仕組みの設計のあり方」といった視点が得られる、今回のセッションとなりました。
ソーシャルウェンズデーが目指すのは、各社の戦略的な共創企画を生み出すリーダープログラム、社員が個人として機会をつかむオープンプログラム、そして大学連合や多様な連携を拡張するエコシステムが重なり合う、横断的なコレクティブインパクトの創出です。
サステナPressでは、引き続き12月までのリーダープログラムの内容をご紹介するとともに、トライセクター人財の活躍や共創事例、これからの社会課題解決の新たな形を探っていきます。










