サステナビリティやSDGs活動を推進する企業が増えている一方で、従業員の理解や意識の向上、社内浸透に苦戦している企業が多いのではないでしょうか。
従業員の意識向上や社内浸透のアプローチの一つが勉強会や研修の開催です。
今回は「サステナビリティってなんだろう?」というテーマで勉強会を開催し、グループ社員105名が参加した、株式会社中島董商店の事例を紹介します。
これからサステナビリティ勉強会やセミナーの実施を考えている企業の参考になれば幸いです。
目次
サステナビリティ勉強会開催の背景
株式会社中島董商店は、食品事業・ワイン事業・IT事業・アセット事業からなるグループ会社7社のコーポレート機能、経営企画、商品開発を担っています。
2023年度からサステナビリティの推進を加速させている一方で、各グループ会社の従業員にとってはサステナビリティが身近に感じられていないことが課題でした。
そこで、同グループのサステナビリティ方針を示しつつ、まずは従業員一人ひとりがサステナビリティについて考えるきっかけをつくりたいとの想いから、「サステナビリティってなんですか?」というテーマで勉強会が開催されました。
サステナビリティ勉強会の概要
対象者: グループ会社従業員(役職・部署問わず)
種類 : 講演式(対面・オンラインのハイブリッド型)
参加数: 105名(会場35名、オンライン70名)
登壇者: ICHI COMMONS株式会社 代表 伏見崇宏
<登壇内容>
・サステナビリティの概念と歴史
・SDGsから生まれた変化
・ESG投資について
・企業の視点
・社会課題の複雑性と多様性
・身近なことから始める重要性
当日の質疑応答内容
当日、参加者の皆さんからいただいた質問について、伏見が回答しました。
海外の事例で日本に取り入れた方がいいものは?
伏見:寄付文化やフィランソロピー(利他的・奉仕的活動)は日本よりアメリカのほうが発達していますが、日本には民間資本(民間におけるお金の流通)がたくさんあります。
日本にはNPOが約50,000組織ありますが、そのうち税控除がきくNPOは1,500組織、約2%しかありません。
一方、アメリカは税控除がきく組織は100万以上あります。これには税金の仕組みの違いなどが関係しています。
日本において、ソーシャルセクターへの寄付の浸透にはもう少し時間がかかると思いますが、システムがもっと機能することでより広がると思っています。
というのも、2017年のデータでは、日本では個人で7,000億円、企業で7,000億円の寄付があったとされています。
日本には隠匿文化があるためなかなか可視化されていませんが、寄付市場を見える化していくことが今後は大事だと思っています。
海外から学ぶこともありますが、日本も社会課題の解決に関して発信できることがあると思っているので、「共助共創」という社会課題解決の仕組みを日本で作って、アメリカ・ヨーロッパなどに持っていきたいと個人的には思っています。
従業員の方をどのように巻き込むかが重要だと感じており、アドバイスが欲しい
伏見:従業員の巻き込みにおいては、サステナビリティにおいて従業員がやりたいことや事業に関連することの提案ができる環境設計と、そこに対して投資ができるかの2つの観点があると思います。
環境設計に関しては、「人事評価にサステナビリティ活動の評価を入れてください」とお伝えしていますが、中島董商店グループの人事評価にはすでに入っていると聞いています。
人事評価に入っていることで、日頃から考える基盤があるということですね。
そのうえで、従業員の声を聞きながら、ポジティブな成果を生み出している従業員を応援する仕組みを作ることが大事だと思っています。
企業はネガティブな意見を持っている人に対して説明する責任はもちろんありますが、スポットライトを当てる必要はないはずです。
単なる寄付という形になってしまうと、「そのお金を従業員に還元してよ」という考え方になってしまいます。そもそも企業が取り組んでいる内容が社会課題の解決につながっていると思うかを従業員からフィードバックを受けながら取り組む必要があると思います。
このようにして、サステナビリティ活動に積極的な従業員が応援される文化や風土を作っていけることが大切になります。
サステナビリティは成果を見える化するのが難しい領域だと思うが、どのように評価していくべき?
伏見:短期的な指標と長期的な指標があると思っています。
短期的な視点で言うと、ICHI COMMONS株式会社では、寄付団体が寄付金を使って生み出した成果をレポートにして企業さまにご報告しています。
長期的な視点で言うと、社会的インパクトが指標になると思います。
私たちがやろうとしていることは、効果測定ではなく、効果予測です。
私たちはよく「アウトプット」と言いますが、アウトプットはインパクトではありません。
「インパクト」とは、社会課題に対して何かしらの介入をして、その介入が社会課題の解決にどれくらい寄与したのかの評価を表しています。
インパクトはそれぞれの課題や地域で測定できると思っていますが、現在は課題のデータが集まっていないからできていないと考えています。
逆に言うと、社会課題のデータが集まり、解決方法や介入方法が整理されたら、インパクトの測定ができるようになると思っています。
そのために、ICHI COMMONS株式会社では48個の社会課題ライブラリを用意しています。
課題のデータが集まることで、企業としても、どの課題に取り組みたいのか、どのNPOを応援したいのかが見えてくるため、その仕組みをスタートアップ企業として作っています。
従業員アンケートの結果
勉強会前後のアンケート結果をもとに、サステナビリティにおける理解度や意欲度について分析しました。
また、勉強会を通しての気づきや学びについても多くの回答があり、各従業員が学びを得る機会となりました。
勉強会前回答数:99件/105
勉強会後回答数:62件/105
*勉強会前後で回答数が異なるため、以下の分析はパーセンテージで比較しています。
勉強会前後のサステナビリティの理解度
サステナビリティについての理解度を5段階で自己評価してもらったところ、<勉強会実施前>に理解度が高い「4」「5」を選んだ人は全体の約35%だったのに対し、<勉強会実施後>は約76%となり、サステナビリティについての理解が深まったことがわかりました。
<勉強会実施前>
<勉強会実施後>
会社を通じたサステナビリティ活動への意欲度
<勉強会実施後>に、会社を通じたサステナビリティ活動への意欲度を示す以下3設問について聞いたところ、意欲度が高い「4」「5」を選んだ人は、どの設問においても75%を超える結果となりました。
<アンケート結果のサマリー>
各設問に対し、そう思う「5」、だいたいそう思う「4」を回答した割合の合計
・今後、仕事を通してよりサステナビリティ活動が必要だと思う:約87%
・自社で行われるサステナビリティ活動に積極的に参加したいと思う:約77%
・自身の業務を通じて社会課題の解決に貢献できる創意工夫をしたいと思う:約82%
勉強会で得た気づきや学び
Q.セミナーで得た気づきや学びについて教えてください。
「サステナビリティやSDGsについて世界各地、人種、世代など幅広くに渡っていて広大かつ複雑なものだと学んだが、身近なこと、自分にできることから始めることが大事ということで、今まで広大過ぎてどう動けばいいか検討もついていなかったものを少し身近に感じることができた」
「これからは傍観者ではなく、当事者として、意識してできることから取り組んでみようと改めて感じさせていただけた貴重なきっかけになりました」
「正直サステナビリティについては懐疑的な部分をもっていましたが、社会課題の解決と企業価値の向上という部分でこの活動に意味があると感じました。伏見さんも言われていたように一朝一夕でできるものでもなく、この活動自体が持続的なものである必要があると感じました」
「ビジネスとサステナビリティを結びつける難しさを感じた。社会に対しての貢献度を、数値などでわかりやすく示すことがサステナビリティに興味を持ってもらうためのファーストステップだと気づいた」
「他社や組織との連動がSDGs飛躍のきっかけになりそうだと感じました」
まとめ
本勉強会を主導した同社・経営企画部の金子さんは、「アンケート結果を見ると今回の勉強会は好感触で、従業員がサステナビリティを考えるきっかけ作りとしては成功したと思います。さらに熱を上げる活動を進めていきたいと考えています」と話してくださりました。
ICHI COMMONS株式会社では、「サステナ委員会パッケージ」のメニューの一つとして、勉強会やワークショップ開催の支援・共同開催を行なっています。
サステナビリティを社内に浸透させる第一歩として、ぜひ勉強会・研修の開催を検討してみてはいかがでしょうか。