神奈川・東京を営業基盤とする横浜銀行は、地域の社会課題解決に貢献する取り組みの一環として、2022年に「〈はまぎん〉ミライを創るアクションプログラム」を開始。
本プログラムは、おもに神奈川県で活動しているNPO法人を対象に、活動奨励金を支給することで地域の社会課題解決に貢献することをめざす取り組み。
これまで2回実施し、「子どもの貧困対策」に関するアイデア・プランを募集。計6団体に活動奨励金を支給しました。
今回は、本プログラムを通じて生まれた成果や課題、今後の展望などについて、同行 地域戦略統括部 地域戦略・SDGs推進グループの山本理恵子さん、梅垣倫子さんにお話を伺いました。
目次
CSR活動だけでは解決できない「子どもの貧困」に向き合う
——「ミライを創るアクションプログラム」を始められたきっかけを教えてください。
梅垣倫子さん(以下、梅垣):弊行グループでは、「人生100年時代の暮らしのサポート」をマテリアリティの一つとして特定し、SDGs目標1「貧困をなくそう」に関する取り組みを進めています。近年、社会的にもこの課題の解決に向けた機運が高まっている中で、本プログラムが発足しました。
厚生労働省が発表している最新の『国民生活基礎調査』では、相対的貧困状態(*1)である人は全体の11.5%、9人に1人と言われています。
このような人々は最低限の衣食住は満たされていたとしても、教育など将来への投資を行うことが難しい状況にあると言われており、その結果、子どもたちの将来の選択肢が狭まることで貧困が連鎖してしまう可能性があります。
子どもの貧困の深刻化や格差の拡大は、地域経済にも大きな影響を及ぼすため、神奈川県と東京都で地域貢献に注力する横浜銀行にとっても取り組む意義が大きいテーマだと考えています。
*1:相対的貧困とは、国や地域の水準の中で比較して、大多数よりも貧しい状態のことを指す。 所得でみると、世帯の所得がその国の等価可処分所得の中央値の半分に満たない状態のことを言う。
山本理恵子さん(以下、山本):弊行はこれまでにも、子どもをテーマにCSR活動を展開してきました。例えば、横浜市の施設である「はまぎん こども宇宙科学館」のネーミングライツの取得や、銀行併設ホールでの親子向けコンサートの開催など、さまざまな取り組みを社会貢献の一環として実施しています。
しかし、子どもの貧困の現状を踏まえると、これまでのCSR活動だけでは不十分であり、将来を担う子どもたちに向けて何かできればと考え始めたことが一つのきっかけでした。
神奈川県や中間支援組織との連携で、幅広いアプローチを実現
——どのようにして、本プログラムの内容を練られたのでしょうか。
山本:子どもの貧困については調べれば調べるほどセンシティブな内容が多く、銀行が直接アプローチすることが難しい領域だと感じています。
情報収集をする中で、NPO法人の皆様が子どもに寄り添った活動に取り組まれていることを知り、どのような形であればNPO法人の皆様を支援できるのかを考えました。
本プログラムでは応募制という方式を採用し、SDGsに関する連携協定を締結している神奈川県や有識者の方々とともにアイデア・プランを審査させていただいた上で、助成団体を決定することになりました。
——応募候補団体へはどのように周知活動を行っているのでしょうか。
山本:周知活動については、神奈川県と連携して行っています。
また、各行政にあるNPOの支援センターなどにもチラシを置かせていただいています。本プログラムの審査員である「認定NPO法人 神奈川子ども未来ファンド」様のような中間支援組織(*2) の皆様にもご協力いただき、チラシやメルマガなどで助成金情報を発信いただいています。
*2:NPO法人を支援するNPO法人のこと。NPO法人に必要な資源を提供する「資源提供者」とNPO法人をつなぐ役割を担う。
プログラムとは別に、継続的な支援を模索
——これまでどのようなNPO法人に助成されましたか。
梅垣:第1回目は「食」を通じた支援を行う団体の応募が多かったです。食品の提供を通じて相談支援につなげる活動や、虐待被害などを受けた子どもたちに食品や生活必需品を提供し自立を支援する活動などを行う3団体に助成しました。
一方、第2回目は、居場所づくりや学習支援・就労支援などを行う団体の応募が多かったです。貧困による教育・体験格差に対する学習、体験、居場所等の支援を行う団体や、児童養護施設の子どもたちへのキャリア教育・就労支援などを行う3団体に助成しました。
子どもの貧困に対するアプローチは多岐にわたるので、さまざまな側面から活動を支援できるようなプログラムにしています。
——助成決定後、助成団体様とはどのようにコミュニケーションをとられていますか。
山本:NPO法人様の活動現場を訪問させていただきました。また、随時電話やメールなど等でやり取りを行いながら、活動内容についてお伺いし、第1回実施報告書も作成しました。
また、本プログラムは期限が来たら一旦支援が終わりになってしまうこともあり、もう少しNPO法人の皆様の継続的な支援をしたいという思いがありました。
そこで神奈川県と連携し、同県主催の「かながわSDGsパートナー(*3)ミーティング」のテーマの一つに「子どもの貧困支援」を設定いただきました。
そのミーティングに、第1回目の本プログラムの最終選考会に残られた6団体をお招きし、SDGsを推進している企業・団体様と交流する機会を提供しました。
*3:かながわSDGsパートナーとは、SDGsの推進に資する事業を展開している企業・団体等を神奈川県が募集・登録するとともに、県と企業・団体等が連携してSDGsの普及促進活動に取り組むこと。
——本プログラムを通じて得られた成果を教えてください。
梅垣:「かながわSDGsパートナーミーティング」では、本プログラムにご応募いただき最終選考に進まれた2団体と、地元企業様をおつなぎすることができました。
現在、2団体が運営する子ども食堂に、自社製品の食品をご提供いただいたり、その企業様のオリジナルキャラクターが訪問したりと、さまざまな形で支援されているとお聞きしています。
NPO法人の皆様からも「地元企業とつながれたおかげで、食事の提供はもちろん、子どもたちとの交流機会も増えているので、とてもありがたく思っています」と、うれしいお言葉をいただきました。
山本:助成団体様については、広報活動に横浜銀行のロゴをご使用いただいています。弊行からの助成実績があることは、他の企業様からの信頼獲得にも役立っていると聞いています。
——本プログラムに取り組み始めたことで、御社内で変化したことはありますか。
梅垣:NPO法人の特性上、支店ではNPO法人様としっかりお付き合いをする機会がない行員が多いように思います。
しかし、私は最終選考会前にNPO法人様の活動現場を実際に見せていただいたことで、子どもの貧困は地域ぐるみで向き合っていかなければいけない課題だと強く感じました。
地域金融機関として、課題の重要性を肌で感じることができたこと、そして本プログラムをスタートできたことは、まずは大きな一歩だと思います。プログラム自体はまだ始まったばかりなので、もう少し行内に向けても周知活動をしていきたいと考えています。
また、第2回目については最終選考会に進出した6団体のうち5団体が横浜市の団体で、採択された3団体もすべて横浜市の団体でした。そもそも人口も横浜市が圧倒的に多いとは思いますが、地域性が若干偏ってしまっています。
来年度以降は横浜市以外の団体様からも多くご応募いただけるよう、告知を工夫していきたいと考えています。
各NPO法人との対話を通じて、支援の幅を広げたい
——本プログラムにおける今後の展望を教えてください。
梅垣:本プログラムは単発で終わらせるのではなく、継続して取り組もうという合意のもと活動を開始したので、今後も継続して取り組みたいと考えています。
また、来年度以降は応募団体数を増やす必要があると感じており、これまでの応募要件を見直して、対象団体を拡大していくことも検討していきたいです。
山本:NPO法人様へのサポートを一層手厚くするために、担当者を増やすことも検討していきたいです。弊行では、団体様としっかり向き合うことを大切にしています。資金を工面するだけでなく、団体様とのやり取りに時間をかけることが重要だと考えています。
NPO法人の皆様と接してみて、各団体によって求めるものが違うことを実感しています。
例えば、物品の寄付がウェルカムな団体もあれば、保管する場所や使い道がないので困る団体もあります。
NPO法人様と接してみて初めて気づいたことも多かったので、しっかり対話しながら対応しなければならないと感じています。
——現在、助成後の団体支援は本部の行員様がやられていると思いますが、今後支店など全社を巻き込んで取り組まれるご意向はありますか。
山本:弊行の店舗数は200を超えます。ご希望があれば、各支店に助成団体様の活動紹介のチラシを設置することなどはできると思います。まずは弊行ができることをご提示して、先方のご要望があれば応えていく形が良いのではないかと思っています。
梅垣:今後は支店の担当者を巻き込むことで、NPO法人様に対する支援の幅を広げていきたいと考えています。
ただ、通常業務がある支店の担当者に負担をかけすぎても、このプログラム自体がうまく回らなくなると考えています。
支店にはまず本活動の内容や取り組む意義を知ってもらい、例えばお取引先にNPO法人様をご紹介するなど、銀行としてできることを検討していきたいです。
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*他企業の取り組み事例はこちら
*「子どもの貧困」の課題解決に取り組むNPO一覧はこちら
インタビュー:平野美裕、川添克彰
文・編集:平野美裕