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海を守るアマモ場再生活動——NPOや地域との連携で見えた、次世代を見据えた取り組みとは

漁業や養殖、水産物の輸出入から冷凍食品、レトルト食品、缶詰などの加工食品までを手掛けるマルハニチロ株式会社

「海といのちの未来をつくる」をブランドステートメントに掲げ、生物多様性と生態系の保全や海洋プラスチック問題への対応など、海の環境を守る活動に取り組まれています。
その代表的な活動の一つが、国土交通省 関東地方整備局の「東京湾 UMI プロジェクト」にも認定されている「アマモ場再生活動」です。

今回は、アマモ場再生活動を広げるための戦略や、NPO法人 海辺つくり研究会との連携について、同社 経営企画部 サステナビリティ推進グループの志村遥夏さん、山口俊彦さんにお話を伺いました。

社会貢献活動から企業価値向上を見据えた活動へ

——アマモ場再生活動に取り組み始めたきっかけを教えてください。

志村遥夏さん(以下、志村):弊社は海の恵みを受けて事業を行っているので、海の環境再生活動に取り組む責任があると考えています。

アマモは水質浄化の機能を持っていたり、小魚や甲殻類などのすみかになったりしているという点で、身近な海の環境再生活動として社員も取り組みやすいのではないかと考え、アマモ場再生活動がスタートしました。

最初は社会貢献(CSR)の観点から始めましたが、近年ブルーカーボン(*1)という言葉が浸透してきたこともあり、「企業価値にもつなげていく」というCSV(Creating Shared Value)の観点も重視して取り組んでいます。

*1:ブルーカーボンとは、藻場・浅場等の海洋生態系に取り込まれた炭素のこと。ブルーカーボンを隔離・貯留する海洋生態系として、海草藻場、海藻藻場、湿地・干潟、マングローブ林などが挙げられる。

——CSRからCSVへの切り替えに難しさを感じている企業も多いですが、どのように考え方を変えていったのでしょうか。

志村:社会貢献活動を推進する際は、「弊社が取り組む意義」を説明できる必要があると思っています。

アマモ場再生活動も、巡り巡って水産物につながり、私たちの事業収益や企業価値の向上につながることを丁寧に説明していったことで、徐々にCSVの一つとして捉えられるようになりました。

アマモ場再生活動に関しては、社員の環境教育はもちろん、社内全体の意識改革を目的に取り組んでいます。

そこから一歩踏み込んだ活動を推進しようと始めたのが、養殖場がある鹿児島県奄美大島の瀬戸内町でのマングローブ植栽です。今後も事業活動を行う地域で環境再生活動を展開したいと考えています。

人事評価への組み込みと社員の体験が、社内浸透の鍵

——御社のサステナビリティ活動は、社員へ浸透していますか。

山口俊彦さん(以下、山口):現在、アマモ場再生活動に限らず、サステナビリティ活動全般の目標を全社で立てており、そこからプロジェクトが発足して各事業部署に参加してもらったり、各部署でも目標を立ててもらったりしています。

部署の目標として組み込まれることで、これまでは会社が主導の活動に社員が参画することが多かったのですが、自主的に「うちの部署でこの日にクリーンアップ活動をやりたい」という相談が来るようになりました。

従業員の皆さんによる、海岸クリーンアップの様子

志村:参加の動機が目標達成であっても、実際に活動することで意外と気づくことがたくさんあると思うので、まずは参加してもらうことが大事だと思います。朝から清掃活動をすると、その後の仕事も良い気分で取り組めることがわかったりして、社員の意識が変わっているのを実感しています。

また、NPO法人 海辺つくり研究会(以下、海辺つくり研究会)と一緒に取り組む中で、海の現状やアマモを増やすことの効果、ブルーカーボンの重要性について直接お伺いできる機会が増えたことも大きかったです。

参加のきっかけはそれぞれですが、現場で体験しながら理解することで、海を守る活動と事業とのつながりが実感しやすくなり、SDGsやサステナビリティへの意識が高まっていると思います。

活動の推進には、地域コミュニティや他組織との連携が不可欠

——連携されている、海辺つくり研究会さんとのつながりはどこから生まれたのでしょうか。

志村:弊社で取り組んでいる海岸クリーンアップ活動を神奈川県で行った際に、当時連携していた団体の方からご紹介いただきました。

海辺つくり研究会さんはもともと海を守る活動をされている団体だったので、弊社がめざすところとマッチしていたこともあり、連携をスタートさせました。

NPO法人 海辺つくり研究会からブルーカーボンの重要性などについて説明を受ける従業員

——海辺つくり研究会さんとの連携で苦労されたことはありますか。

志村:特に苦労した点はありませんが、海辺つくり研究会さんをはじめとしたNPOの方々は「なぜこの地域で活動に取り組むのか」という点を重視されている印象です。NPOの方々からも「企業に参画してもらうなら、最後まで責任をもって取り組んでいただきたい」というお声をよくいただきます。

弊社は各地域に事業所があり、共に協力しながら長期的に取り組めるので、NPOの方々との信頼関係を構築するためにも、今後も積極的に取り組んでいきたいです。

——日本では地域の過疎化が問題になっているので、現時点で地域の方々とのつながりを作っておくことには意義がありますよね。

志村:そうですね。活動を通じて地域でコミュニティを築いていくことで、弊社が地域住民の方の就職先の一つになるかもしれませんし、その結果、地域で雇用を創出することにもつながり、双方にとってメリットがあると思います。

山口:活動を推進するにあたり、企業1社だけでは取り組めることに限りがあるので、同業他社や異業種との連携や協力が欠かせません。
藻場再生活動の面でも今後さらに連携が必要になってくることを考えると、ますますネットワーキングが重要だと感じています。

藻場面積やCO2吸収・固定量を企業価値の指標として可視化したい

——アマモ場再生のような活動は成果を数値で表しにくいと思いますが、御社ではどのように評価されているのでしょうか。

志村:現状は活動への参加人数を追っていますが、最終的には活動によって再生した藻場面積やCO2吸収・固定量を測っていき、それらを企業価値の指標として見える化することをめざしています。

山口:日本でも加速している「J ブルークレジット®」(*2)は、CO2吸収・固定量だけでなく、「どれだけ水産資源が増えたか」についても科学的な知見から算出しています。

アマモ場再生活動には、社員への環境教育というメリットに加えて、ブルーカーボン(CO2吸収・固定量)による気候変動への対応や、水産資源増加による生物多様性への貢献という3つのメリットがあると考えているので、CO2吸収・固定量や水産資源量などの数値化は今後ますます重要になると思っています。

*2:JBE(ジャパンブルーエコノミー技術研究組合)が認証・発行・管理する独自のクレジット。陸上での排出削減量を取引可能にした「カーボンクレジット」と同じで、漁業組合やNPOなどは海藻を育てた成果としてJ ブルークレジットを販売し、購入企業は自社の排出量から炭素吸収分を打ち消す「オフセット」ができる。

——藻場面積やCO2吸収・固定量を数値として算出する際、NPOの協力が必要になるかと思いますが、実際にどのような話をされていますか。

志村:藻場面積を求める際には、現実的に測定できるかどうかをNPOさんに相談しています。海辺つくり研究会さんは、過去にもクレジットの創出に携わられていたので、数値算出のご相談をしながら活動に取り組んでいます。

ただ、他の地域では、知見を持っていないNPOさんもいると思うので、その際は専門企業などへの相談も必要だと考えています。

各地域に種をまき、活動が芽吹いていくように

アマモ場再生活動の様子

——今は首都圏・東京を中心に活動されていると思いますが、今後活動を広げる予定はありますか。

志村:全国各地に事業所や養殖場があるので、まずは各地域での藻場再生や環境再生活動への社員の参加を推進し、その取り組みを地域と連携して広げていきたいと考えています。

私たちとしては、各事業所はその地域の恵みを受けて事業活動ができていると考えているので、闇雲に活動エリアを広げるというよりは、「社員が協力できる」「地域と連携できる」の両方を実現できる地域に絞って探している段階です。

——その際、NPOや他組織との連携は考えられていますか。

志村:アマモ場再生活動に限らず、活動を全国各地に広げようとすると、どうしても自社だけでやるには限界があります。

各地域で活動するためには、地元のNPOさんが心強い協力者だと思いますし、環境への機運が高まっていることもあり、地元の漁業者や漁師さんたちも危機感をもって取り組まれています。

地域のNPOさんや住民の方々とうまく連携して地域でコミュニティを作りながら、海を守る活動につなげていきたいと考えています。

——地方の場合だと、事業所や工場の方たちの協力や理解も必要ですよね。

志村:そうですね。弊社でもグループ企業を含めて従業員にはeラーニングを通じた理解促進に努めていますが、実際に体験してもらわないと伝わらないことも多いと感じています。

現在は首都圏の地域に活動が偏っているため、今後は各地域の事業所やグループ会社などに展開し、グループ全体で取り組むことが大事だと考えています。

例えば、兵庫県神戸市の兵庫漁業協同組合を中心として創出された「J ブルークレジット」を弊社が購入したことをきっかけに、同地域に拠点がある弊社のグループ会社と、同漁協やNPOがつながり、現在では環境教育活動や藻場再生を共に行っている事例があります。

このように、弊社の取り組みが広がっていくことで、グループ企業も活動しやすくなると思うので、私たちが各地域に種をまき、そこで活動が芽吹くようにしていきたいと考えています。

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*他企業の取り組み事例はこちら
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インタビュー:平野美裕、川添克彰
文:岩崎奈々、編集:平野美裕