創業時から「商売は人助け」というDNAをもつカルビー株式会社。
同社が宇都宮市に構える清原工場では社会貢献活動が盛んで、年に1回は必ず全従業員が社会貢献活動に参加しています。
今回は、同じく宇都宮市を拠点に活動する一般社団法人栃木県若年者支援機構内キッズハウス・いろどりが運営する「昭和こども食堂」との連携について、 当活動発起人の橋本靖文さんにお話を伺いました。
連携を始めるに至った背景や、連携によって見られた変化、そして、今後の課題や展望などについてリアルなお話が満載。
これから他組織と連携しながら社会活動に取り組もうと考えられている企業の参考になれば幸いです。
お話を訊いた方 橋本 靖文 さん
カルビー株式会社 人事総務本部
人事総務部 人事サービス課
“汗をながす”社会貢献がしたい
――この活動は御社の中でのCSR活動の中でどのような位置づけにありますか?
橋本さん:こども食堂との連携が始まったのは2018年で、当時のCSR活動の「地域社会のための活動」として位置づけていました。
「従業員一人ひとりが自らすすんで地域のために汗をながす」というところがポイントで、商品やお金を出すだけの社会貢献に留まらない活動をしようという考えでした。
私が入社した頃のカルビーは広く商品などを協賛していることが多かったのですが、そうした一円一円はお客さまからお預かりした利益なわけです。
そういったお客さまからお預かりしたお金を使うのではなく、従業員自らが汗をかくことで地域に貢献することが、CSRの本来あるべき姿だと思っています。
――“汗を流す”活動として、なぜキッズハウス・いろどりの「こども食堂」を選ばれたのでしょうか?
橋本さん:カルビーだからこそできる意義のある活動だったり、もっと社会課題につながる、人とコミュニケーションを取るような活動をしたいなと思い、提案したのがきっかけです。
私はもともと研究開発本部でCSR活動をやっており、そこで「お菓子コンテスト」というイベントを担当していました。そちらでご協力いただいていた宇都宮大学の教授から初めてこどもの貧困の話を聞き、関心を持ち調べたところ、宇都宮市初のこども食堂である「昭和こども食堂」を見つけ、見学しに行きました。
*1: お菓子コンテストとは、カルビーグループの従業員が子どもたちに企画について直接説明をし、テーマに沿って子どもたちに自由にお菓子を考えてもらう活動です。
――その場では、キッズハウスいろどりの方とどういった話をされましたか?
橋本さん:キッズハウス・いろどりの荻野友香里さんに、自分がカルビーで社会貢献委員(*2)をしていることを伝え、カルビーが協力できることがないかを尋ねました。
ちょうど私が訪れたときが「昭和こども食堂」が始まってから半年くらいだったのですが、荻野さんから「子どもたちが親から離れ、自分たちでごはんをつくってみんなで食べる『こどもだけ食堂』というイベントを月に1度開催していて協賛金を募集しているが、1社も協賛がない」という話を聴き、なぜこんな素晴らしいイベントに協賛する企業がないのかと思い、自社で提案をしたところ、採用されました。
ただ、協賛するのではなく、従業員がイベントをお手伝いすることで子どもたちと交流する場も作れると思いました。
その後、夏には「夏祭り」、冬には「文化祭」と「新年会」を開催するようになり、イベントは毎回すぐに定員となる盛況ぶりとなりました。
当社の従業員もさまざまな部署から参加があり、普段の業務とは違った交流が生まれています。
「こども食堂」は、縁日や工作の手伝いを通して子どもたちと触れ合う機会や、自分たちがつくった商品(お菓子)を直接子どもたちに配って喜んでいる様子を直接感じられる機会となっており、それぞれが工場では味わえない体験をしております。
このように、当社は資金支援だけでなく、資金支援+社員のイベント参加+商品の提供という形で活動に関わらせていただいています。
*2: カルビーでは、各事業所・工場に「社会貢献委員会」を設け、各拠点が裁量をもってCSR活動に取り組めるようにしている。社会貢献委員は各委員会のメンバーのこと。
――実際に協働を開始するにあたり、社内ではどういった動きがありましたか?
橋本さん:カルビーのCSR活動の特徴として、工場ごとに社会貢献委員会(*3)があり、各事業所に比較的裁量が任されていることがあります。当時は東北から関東までを管轄する東日本事業本部という委員会があり、そこに提案して承認をもらいました。
*3: 清原工場内の社会貢献委員会は月に一度開催。委員会のメンバーは各部署から1人ずつ選出し、ボランティアの推薦や紹介をしたり、各活動の人集めを行っている。工場内の掲示板には地域のボランティア活動の情報が掲載されており、各自がリストを見て、自身が参加する活動を決めている。
――委員会に承認をもらった後は地元(宇都宮)で検討を進められたのでしょうか?
橋本さん:その後は、私が事務局を務めていた清原工場内の社会貢献委員会に話をもっていきました。当時は従業員の岩崎晃司(以下、岩崎)が委員をやってくれており、私が社内異動した後は委員長もやってくれていました。
岩崎のほかにも各製造課に委員がいたので、イベントの案内やスタッフの募集は各委員が率先して手伝ってくれました。月に1回は委員会を開催して、工場の従業員には「こんなボランティアがあるよ」と紹介していました。
また、工場長も「一人一回は活動に参加しようね」と呼びかけ、従業員も「どうせ行くならこの活動がいいな」と自主的に選んでいました。
清原工場はCSR活動が盛んで、当時から仕組みが整っていると思います。地元の知り合いや友人に聞いても、他社では、本社で決められたことを現場がやるだけの企業が多いみたいなのですが、当社は工場や事業部の中で自主的にやっていこうという文化があるので、今回のような地域に根付いた小さな団体と連携できたと考えています。
企業勤めをしていても社会活動に取り組める人を増やしたい
――キッズハウス・いろどりさんとの連携や活動を通じて、従業員や会社(工場)がどうなることを期待されていましたか?
橋本さん:私自身、NPOの方とお付き合いする中で、「圧倒的に人手が足りない」と感じていました。
そのため、月に2、3時間でもいいので、企業勤めをしていても社会活動に取り組む人が増えてほしいと考えていました。
会社から言われなくても、みんながそれぞれ好きな社会活動を、家族の理解を得ながらやるのが当然の世の中になったらいいなという想いがありました。
――では、活動によって、何か会社に還元してほしいというところまでは想定されていませんでしたか?
橋本さん:そうですね。従業員に対してそこまでのことは求めていませんし、伝えてもいなかったです。
会社への還元についてはどちらかと言うと、経営陣を説得するのに必要なロジックだと考えています。
もちろん「このように従業員が成長しました」、「このようにしてブランドの価値が上がりました」ということが目に見える形や数値で出せたら良いなとは考えていました。
――経営陣へ説明する際には、「会社への還元」に関する説明はやはり必要ですか?
橋本さん:必要ですね。やはり企業なので収益を出さなきゃいけないですし、我々もそれでお給料いただいてる訳なので、還元する責任はあると思っています。
――実際に当活動の成果として数値化できたことはありますか?
橋本さん:活動に対して関わった年間の人数を数値化することができ、その数字を示したことにより、清原工場に社会貢献活動が根付いていることはアピールできたと思っています。
ただ、従業員の成長だったり、地域や地域住民からのイメージアップに繋がっているかどうかまでは目に見える形では測定できていないので、本当はそこを見える化して、アピールしていきたいと思っています。
人とのつながりは、社会活動の中で生まれる
――実際にキッズハウス・いろどりさんと連携することによって生まれた価値はありますか?
橋本さん:大きく分けて、以下の4つの価値が生まれたと思っています。
- 企業・企業活動の認知度向上
- 地域とのつながりの醸成、コミュニケーションの活性化
- 社内コミュニケーションの活性化
- 従業員の体験・学習の場の創出
一つ目は、活動自体が企業・企業活動の認知度向上に寄与していることです。
目に見えるものではないですが、このようにメディアに取り上げていただけることで、カルビーのブランドや活動内容が世間に広まっていくことも価値の一つだと思います。
私が普通に清原工場の片隅で給与計算だけをやっていたらありえなかったことがたくさん起きていること自体が価値だと思っています。
二つ目が、地域とのつながりができたことです。
ある年の新年会に、当社の東日本事業本部の本部長が直々に手づくりのケーキを持って遊びに来たことがありました。
実は彼女はプロ並みのケーキの達人で、食べる用と子どもたちがデコレーションして遊ぶ用の2種類を用意してきました。この活動への協働を決裁した本人が実際に活動に参加して、地域の方と直につながっていく光景を見たときは少し感動しましたね。
このイベントによって売上にいくら貢献できたというわけではないですが、このようにいろいろなつながりがどんどん広まっていって、その現場にいるからこそ感じられるものがあります。この感覚は実際に現場に行かないとわからないと思っています。
なので、連携したことで生まれた価値というと、やはり子どもたちや地域住民とのつながりで、人とのつながりや、そこから生まれるストーリーは、本業とは関係のない、こういった社会活動の中で生まれているんですよね。
三つ目が、社内コミュニケーションの活性化につながっていることです。
例えば、こども食堂の活動で言うと、いつも来てくれる従業員がいるのですが、正直職場ではそこまで関わる機会はありませんでした。
でも、CSR活動には工場で一二を争うほど多く参加してくれていて、職場とは違う一面を知れましたし、この活動を通じてコミュニケーションが増えたと思います。
最後は、従業員に体験・学習の場を提供できることです。
例えば、入社してからずっと製造ラインで働いていて当社のことしか知らない従業員でも社会貢献活動に参加することで、「社外にこんな世界、社会があるんだ」ということを学んできます。
それは現場をまったく知らないで言っている人よりもすごく価値があると思います。
各分野の信頼できるパートナーとともに、社会課題の解決に
――今の段階ではなかなか活動の成果を見える化できていない部分もあるとのことですが、今後もNPOなどとの連携を広げていきたいですか?
橋本さん:CSR活動、特にこども食堂の支援活動は、見える化することが難しい領域だと感じているので、必ずしも数値化できる成果や価値だけにこだわってはいません。
地域社会への貢献につながる活動は、これからも広げていきたいと思っています。
先ほどもお話したとおり、定性ベースでの成果や価値は確実にあると考えていますので、我々のようなCSR担当者などが決裁権のある人を実際に現場に連れていき、その場を目で見て感じてもらうことが、CSR活動の推進の味方になると思っています。
当社のように、各事業所や工場に活動の裁量を任せている状態であれば、実は数値的なものはあまり必要なく、「現場に一回来てください」と言えば済む話だと思います。
――従業員に継続的に参加してもらうためのポイントはありますか?
橋本さん:一番大切でありスタート、スタート時にすべきことは、組織トップのCSRへのコミットメントだと思います。トップ自らが参加する姿を見せて、従業員の評価指標にも取り入れていくことが大切です。
ただ、従業員が「会社の施策であるから社会活動に参加する」という意識では輪が広がっていかないと思っているので、我々社会貢献委員の務めとしては、活動に取り組む人や、活動に理解のある人を一人でも増やしていくことですね。
一般的な企業と比較すると、もともと参加している従業員は多いと思っていて、お客さまが身近な業態なので、そのような活動が好きなメンバーも多いです。
ただ、岩崎が誘ったら行くけど、僕が誘っても来ない人は一定数います。
だからこそ、各課に委員がいることが大事ですし、岩崎のようにリーダー的な立場に立って周りのみんなに声掛けをしてくれる存在は大きいです。こういうキーマンを社内に何人作れるかがポイントだと思っています。
――今後の子ども食堂活動の協働についてはどのように考えていますか?
橋本さん:こども食堂のイベントをオンラインで開催することもできなくはないのですが、やはり「汗をかく」活動をしたいと思っています。
社会貢献委員会でもコロナが下火になるたびに「そろそろ外部活動できるかな」、「屋外だったらできるかな」、「人数を減らせばできるかな」と相談しながらやっています。コロナが落ち着いたら、今までやっていた活動を再開したいと思っています。
こども食堂以外にもこのような場をどんどんつくっていきたいと思っているので、こども食堂であればキッズハウス・いろどりさん、障がい者支援であればNPO法人アクセシブル・ラボさんなど、各分野の信頼できるパートナーを見つけて、何年もかけて一緒に社会課題に取り組んでいくことにこれからもチャレンジしていきたいです。
2020年3月~現在まで、従業員の安全確保及び商品の安定供給を第一優先とし、カルビーの連携は休止しています。キッズハウス・いろどりでは継続してこども食堂を開催しています。