三木プーリ株式会社(本社:神奈川県川崎市)は、同社のグループ会社がある山形県米沢市に貢献したいとの想いから、米沢市を中心に社会課題の解決に取り組んでいる団体のうち、従業員投票で決めたNPOの支援を始めました。
初めての寄付先として選んだのは、不登校支援含めた、地域の中で孤立している方の“居場所と出番”をつくることを大切に活動しているNPO法人With優。
両者は「寄付だけの関係にとどまらず、継続的な対話を大事にしたい」という想いがあったため、寄付から2ヶ月後に、With優 代表の白石祥和さんと三木プーリのわくわく寄付コンペ委員会(参加者5名)の対談をリモートで実施しました。
三木プーリの委員会メンバーは、今回の対話によって、白石さんがフリースクールや就労支援の活動をされている背景に「米沢という地域をもっと魅力的な街にしたい」という強い想いを感じ取ったそうです。
対談の内容から、NPOと企業が連携を模索する過程や、両者から見た新たな気づきを感じ取っていただけたらうれしいです。
目次
寄付先団体をもっと知るために
朝5時からの山菜採りがルーティン
白石さん:皆様おはようございます。改めましてNPO法人With優の代表している白石祥和です。この度はわくわく寄付コンペを通じ、三木プーリの皆様にたくさんのご支援いただきましてありがとうございました。
私は山形県米沢市でフリースクール(不登校のお子さんのもう一つの学校)を立ち上げるところから活動を始め、ちょうど2022年5月で丸15年を迎えました。
私自身、皆さまの自己紹介や趣味をお伺いして、米沢とは違う環境なのかなと考えながら聞いていました。
私自身の趣味は、山菜採りに行くことです。自分の趣味でもあるんですが、子どもたちや若者を連れて一緒に山に行くこともあります。
今日も朝5時くらいに山にワラビを取りに行ってから出勤したんですが、夜は居酒屋をやっているので、「よく起きられるね」と言われますね。
だけど私にとっては山に行くのが本当に楽しみで、いつも目覚まし時計が鳴る前には起きて、山で採った山菜を居酒屋の食材として使っています。山菜採りが日常のサイクルかつ気分転換にもなっています。
本日はどうぞよろしくお願いします。
――3月にわくわく寄付コンペにご参加いただいてから今のWith優さんの現状についてお話いただけますでしょうか?
白石さん:当法人の活動拠点は米沢市内が中心で、学校に行けないお子さんや、仕事に就けなくて引きこもっている方、離転職を繰り返している若年層を中心に、実数で約150名にご利用いただいています。
特にここ1年くらいは、生活に困窮している世帯のお子さんや若者からの問い合わせが非常に増えており、最近は、DVや就労に関する問題など、複合的な課題を抱えている方からの相談が多いと感じています。
――DVなどいろいろな問題を抱えられた方々がご相談に来られると思うんですが、そういう方々がWith優さんにご相談に来られるプロセスやきっかけは何ですか?
白石さん:私たちは飲食店を市内に3店舗展開しているので、地域の方には飲食業を通して知っていただくことが多いです。
今は、生活に困窮されている方の事業を行政の方と一緒に取り組んでいるので、行政の方から「With優さんで支援をしてもらえないか」と相談いただくケースが非常に増えてきています。
複合的な課題を抱えている方であれば、「生活困窮」という入り口から、実は不登校になっていたり、家庭内DVが発生していたりなど、他の問題が見えてくることも多いです。
一歩先の自分を想像できる卒業生とのかかわり
――過去にWith優さんを利用された卒業生の方々との継続的な関わりはありますか?
白石さん:団体の事業の指標としては、例えば就労支援事業だと就労がゴールになっています。
ただ、支援が終了した後に大きな壁にぶつかったり、つまずきかけたままなかなか立ち上がることができない若者も非常に多いので、若者たちが私たちとつながっている間に、いかに信頼関係を構築しながら「いつでも戻ってきていいんだよ」というメッセージを伝えられるかが大事だと思っています。
実際、フリースクールの卒業生はよく長期休暇に遊びに来てくれます。自団体で運営している居酒屋で就労支援を卒業して就労した子たち向けにセミナー兼懇親会を開催したりしています。
出席率も良く、卒業していった若者も自分と同じ経験をしている人たちと話せる機会を楽しみにしていますね。
若者や子どもたちも実際に経験した本人から言葉として聞くと、ちょっと先の自分を想像できるみたいで、「今どんなことを頑張ってる?」とか「どういうことで困ってる?」などの話をして、それを励みに頑張っています。
立ち上げ当初にはできていなかったことが、さまざまなケースを経験するにつれてどんどんできるようになってきていると思います。
NPO職員がすべての責任を背負わない
――ここからは三木プーリの皆さんから質問していただきます。
平賀さん:今、職員の研修やケアのお話がありましたが、私の部署もメンタルの部分に関わるので近い気がしています。With優さんに通われているお子さんたちには大変な部分がもちろんあると思いますが、対応されている職員の方たちもつらい話を常に聞いているという意味で相当メンタル面での負担が大きいのではないかと思っています。
そのあたりのケアなどはどういうふうにされていますか?
白石さん:おっしゃる通り、私たちの仕事は、まず職員が元気であることが一番大切だと思っています。基本的には担当制を敷いており、1対1の個人面談が中心に、職員自身が抱え込まないよう相談できる機会をいくつか設けています。
例えば、団体の中で、法人全体の会議を月に1回設けており、対応が困難な事例に関しては他機関の方も含めたケース会議を開催しています。本当に難しいケースであれば、精神科医や臨床心理士の方からスーパーバイズを受けるような形で進めています。
私たち職員がすべて責任をもつというよりは、いろいろな方の助言を受けながら、子どもや若者自身が決めていくことをサポートするという意識でやっています。面談ではこちらからの助言を求められることもありますが、職員にはどちらかというとしっかり話を聞くトレーニングを継続して行っています。
平賀さん:やっぱり大変ですよね。接する職員の方は。
白石さん:そうですね。やはり今は特にスピードを求められますね。
なかなか家庭では忙しくて話を聞いてもらえない方が多いので、私たちは1回の面談にしっかり1時間ぐらい時間をとっています。
「ちゃんと話聞くよ」という姿勢が求められているところでもあるので、しっかり本人の話を聞いてあげることが一番大切にしなきゃいけないところかなと思いますね。
平賀さん:本当に我々の仕事と通じるところがありました。ありがとうございます。
米沢が好きだからこそ、もっと魅力的な街にしたい
西村さん:フリースクールだけでなく、居酒屋などいろいろな事業を展開されていると伺いました。幅広くいくつかの事業を展開されている理由はありますか?
白石さん:フリースクールから活動をスタートしたんですが、私自身、それ以前は学校で勤務したり、民間企業でも働いていました。
そのなかで、不登校や引きこもりの問題は、その当事者の方に寄り添うことはもちろん、社会全体に働きかけて変えていかなきゃいけないことだなと強く思ったんですね。
あとは何より私自身、不登校の問題をどうにかしたいというよりは、この生まれ育った米沢が好きだという想いが一番ベースにあって、不登校ひきこもり支援を切り口に、この街がもっともっと魅力的な街になればいいなと思うし、そうしたいという想いが非常に強いです。
なので、学校をつくるというよりは、地域づくりが私の仕事です。引きこもっている方などを少しでも元気にすることはもちろん大切なのですが、大本はこの地域の子どもや若者が出番と居場所をもっともてるような魅力的な地域にしていくところにあって、地域の人たちといろいろな「あったらいいな」を一緒につくってきて結果、事業が広がってきました。
山口さん:「地域づくりをしていきたい」とのことですが、それをしていく上で、行政や国に求めるものや、もう少しサポートしてもらえると助かるなと思うことはありますか?
白石さん:当法人は米沢市や山形県、国からも事業を受託していますが、行政の事業は1年契約なので、来年も事業を受託できるかわからず見通しが立たないことが一番苦しいです。当法人は入札事業がほぼすべてで補助金事業がまったくないので、自分たちから動かなければ来年の予算はゼロに近いです。
不登校や引きこもりの問題は今非常に注目されている部分ではありますが、例えば公共事業で何か建物をつくるとなったらボランティアだけではできないので、こういった事業に対しては行政がただ委託する形ではなく、高く評価できる仕組みをつくってほしいなと思います。
また、行政は配置転換が頻繁にあるので、年度ごとに関係性を構築していかなければいけない部分が多いですね。こういった不登校など若者に関する部分については、専門職として行政の方でもしっかりと地域のNPO等と連携できるような体制をとってほしいなと思っています。
今は短時間の連携しか図れていないので、本来の意味で連携したいと思っています。
例えば、私たちNPOが市役所で働いたり行政の方がNPOで働いてみたりと、もっと行き来がある中でお互いのできることを模索したりして、何か新しいものをつくるというよりは、連携の在り方を少しずつ変えていけるといいなと個人的には思っています。
社会貢献や連携のカタチは十人十色
――今の回答で「連携」という言葉が数回出てきたと思いますが、企業との連携に関してはどういう可能性を感じられていますか?
白石さん:就労支援においては特にいろいろな事業者さんと連携させていただく機会がありますが、やはり企業との連携なくして、私たちNPOが今関わっている子どもや若者のニーズに対応することは非常に難しいと思っています。
連携の在り方も様々あると思いますが、就労支援に関しては、職場を見学させていただくところから始められるとうれしいです。
私が今まさに担当しているのですが、少し引きこもりがちな方と一緒に企業に赴き、私も一緒に仕事をさせていただいています。
もし2、3時間くらいの単純な作業かつ従業員の方じゃなくてもできそうなことがあれば、そこだけ切り出していただいて、引きこもりがちな若者の一歩を支えていただけると大変ありがたいと思っています。
あとは、フリースクールでは山菜を取って販売し、その収益が修学旅行の資金になったりしています。もし休憩のときに子どもたちを連れて山菜の販売に来ていいよっていうことがあれば、コロナの状況で今すぐは難しいかもしれませんが、そういったことも含めて連携できたらいいなと思っています。
――本日ご参加いただいた三木プーリの皆さまは、米沢ではなく、神奈川にいらっしゃいます。企業として、例えば就労支援の観点で、2、3時間若者を受け入れることは、実現可能だと感じますか?
平賀さん:企業としても、今働き手が少なくなってきています。まだ神奈川はそんなに深刻ではないですが、地方では高校生がどんどん県外に出て行ってしまっていますよね。
ただ、With優さんのフリースクールに通われている方は、白石さんと同じ気持ちにどんどんなってくるのか、「米沢という地域をもっと発展させたい」という気持ちを持たれている方が多いなと思っています。
当社も今回、製品を通してではない社会貢献のカタチを見つけ、アクションを始められたので、もっと地域に対して貢献はしていきたいですね。そういった中で、神奈川だったら神奈川、米沢だったら米沢の地域の方たちに企業のことをもっと知っていただいて、そこで働きたいという気持ちになってもらいたいです。
あと、仕事を2、3時間程度で終わる分量に切り分けての提供に関しては、可能性があると考えています。今後当社が米沢にどう関わるかという話を展開するときの一つのテーマとして考えられると思います。
西村さん:今後やっていきたいことはありますか?
白石さん:NPOを立ち上げたときは、家族と一緒に子どもたちや若者のサポートをしていくことを非常に大切にしてきました。ただ今は、家族の在り方も多様化しており、私たちが今関わっているお子さんにもご両親がいなかったり、本人は家を離れたいけど、就職もできず経済的余裕もないがゆえに家に居ざるを得ない若者も多いです。
昨今のそういった相談から、そもそも安心できる居場所をつくってあげる必要が増えてきたと感じているので、今年度の計画としては、いわゆる家族に近いような関係性がつくれて安心して生活できる居場所を米沢市内に試験的につくってみようと思っています。
就労支援だと個人の内面や作業性に焦点を当てることもありますが、やはり生まれた家庭環境によってできることが限られていることもあるので、そこにもアプローチしていきたいです。
私たちがこの米沢でできることはまだまだありますし、外に広げるよりは、どこまで子どもたちや若者の多様化するニーズに添えるかを大切に、まずはこの地域で挑戦し続けたいなと思っています。
対談を終えて(三木プーリの委員会メンバーのコメント)
今までこのようなお話をあまりする機会がなかったので、知らないことや教えていただくことがたくさんあり、本当に勉強になりました。また、今後は今回寄付させていただいた活動のことも教えていただきながら、一緒に活動していきたいと考えていますので、よろしくお願いいたします。また、米沢で取れた山菜をいただきたいと思います。
総務部・高萩さん
白石さんは「フリースクールだけに留まらず米沢の地域を盛り上げたい、お子さんたちが住みやすい街にしたい」という想いからこういった活動を始められたと聞いてすごく共感しました。今回このような形で寄付させていただいたことが良いきっかけになりました。米沢には事業所やグループ会社がありますので、これからいろいろな面でご協力できればと思っています。ありがとうございました。
総務部・平賀さん
=======================
三木プーリ株式会社が利用した『わくわく寄付コンペ』では、様々な社会課題に取り組む団体から企業の従業員投票によって寄付先を選定し、継続的な寄付を行なうことができます。
=======================