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<地域連携>ビジョンの共有で活動が広がると、新たに循環していく|夢真ビーネックス【後編】

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「パーパス経営」という言葉を、ずいぶん聞くようになりました。自社の存在意義、志、社会に与える価値などを意味するパーパス(purpose)を軸に、あらゆる企業活動を行うことを言います。

今回、取材を行った夢真ビーネックスグループは、メーカー、ゼネコン、IT企業へのエンジニア派遣を主な事業としています。同グループのパーパスは、「幸せな仕事を通じて ひとりひとりの可能性を ひらく社会に」というもの。

本シリーズ記事では、取締役である村井範之さんに、事業・非事業を通じたパーパスの実践と、それをきっかけに広がることについてお話をうかがいました。

後編となる本記事では、岩手県滝沢市との連携(詳しくは前編)で活用した企業版ふるさと納税(*1)や、パーパスの世界観を広げていくうえで大切にしていることについてお聞きしました。

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村井範之 さん

夢真ビーネックスグループ 取締役

<夢真ビーネックスは、企業版ふるさと納税による寄付(*1)(*2)とビジネス・インキュベーション施設「ビーネックスラボ滝沢」(*3)を通じて、岩手県滝沢市と連携しています。同ラボではグループ内のエンジニア5名が滝沢市に移住し、キャリアアップの取り組みに加え、オープンイノベーションや地域課題の解決につながる活動を行っています。>

*1:企業版ふるさと納税(地方創生応援税制):国が認定した地方公共団体の地方創生プロジェクトに対して企業が寄付を行った場合に、法人関係税から税額控除する仕組み。

*2:若者の交流と最先端の人材育成事業による地域活性化プロジェクト(「滝沢人」市場価値向上プロジェクト)の推進に参画。

*3:市町村が公立大学施設内に整備する全国初の産学連携サポート施設である滝沢市IPU(Iwate Prefectural University:岩手県立大学)イノベーションセンター内に設置。

地域課題などでの連携に、効率的なプラットフォームがあるといい

――企業版ふるさと納税を活用するにあたって、苦労された点はありますか。

村井さん:当社グループは、取締役直轄の体制からスタートしたこともあって、経営において日頃から議論されている価値観やビジョンに照らして、「これは当社の取り組みに相応しい」とある程度判断ができる段階で、社内の経営会議や取締役会に取り上げて機動的に舵取りを始めることができました。

ただ、一般的には、社内説明をして理解を得るまでに時間のかかる企業が多いのかなと思いますね。対象プロジェクトが自社の事業に関連するテーマであるか、事業に関係のある地域のものかなど、条件のフィルターは当然あるでしょう。

その点について、企業版ふるさと納税は、まだまだ事例があまり情報共有されていないと感じます。他社のストーリーが担当部門にとって「追い風」になって、もっと活用しようという空気になれば、結果的に国全体の地方創生に企業が参加しやすくなるのではと思います。

各地方自治体などの課題を企業からもっと“見える”ようにすることも重要だと思います。企業自身が自分たちで発掘するのは大変なことです。

――多くの企業が企業版ふるさと納税を活用するには、各自治体の課題が“見える化”され、知られる必要がある。企業が発掘するにしても、大変なので、そこは効率的にできるとよい、と。

村井さん:そうですね。地方創生やSDGsなどに関し、解決すべき身近なことに対して、すべての企業が高性能なアンテナを持っているわけではないので、社会インフラとして、もっと効率的に知ってマッチングできる仕組みがあればよいと思いますね。

――その他に、企業版ふるさと納税などを通じた社会的な取り組みにおいて、課題を感じられることはありますか

村井さん:SDGsや地方創生に関する取り組みを会社自身がアピールするのは大変だなと感じています。

当たり前ではあるのですが、企業がもともと構築している広報力や、発信に注ぐお金に比例してしまうところがあります。そうすると、大企業の取り組みしか世間には評価されなくなってしまいますが、取り組んでいる企業は、本当はもっとたくさんあります。

埋もれてしまう企業は社内外から認知や評価をされず、そのことが継続的な取り組みの足かせになってしまう可能性がある。事業ならば競争原理で良いのですが、SDGsや地方創生の取り組みの場合は、それだと社会全体として何かもったいない気がします。

取り組みが見えるというところも含めたサポートがあると、もっと活用したい、もっと貢献したい、となると思いますね。寄付などで地方創生のための連携をしたとして、そこでのアウトプットを社会として共有していく仕組み・プラットフォームがあると、絶対もっとやりやすい。

そうすることで、企業や経営者の考えにもスイッチが入っていくと思います。投資家やESG投資の観点でも、企業の取り組みに関する第三者情報がわかりやすく整備されていたほうがよいはずです。

CSR活動のKPIは難しいが、パーパスに一致させていく

――社内でCSRに関するKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)などはつくられていますか。

村井さん:CSR活動はKPIなどの目標や対する測定などが難しいですよね。テーマや内容によってKPI自体が適正なアプローチか疑問に感じる部分はあり、例えば自社の事業活動に貢献するかどうかをKPI設定の条件にすると、その段階でどの企業からも対象になりにくい社会課題や企業版ふるさと納税の対象プロジェクトが多いのではないでしょうか。

特に、これから取り組みを広げるという段階では、KPIの設定や評価で縮こまるのではなく、また経営層はきれいに整理することにこだわりすぎずに、「腹決めしてこれをやっていく」という姿勢が必要だと思っています。

また、多くの場合、主役は企業ではありません。企業のエゴが見えると関係者は冷めてくるのではないでしょうか。「当社のKPIは…」なんて、社外から見れば邪魔になりませんかね。

――最初にKPIを設定してしまうと、可能性が狭まってしまいかねないということですね。

村井さん:ただし、軸は必要です。当社ではパーパス(下図参照)が原動力となっています。パーパスの世界観を広げていくうえで、事業活動だけでなく、非事業活動も含めて、目指す社会に近づいていくというビジョンです。

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夢真ビーネックスのパーパスは「幸せな仕事を通じて ひとりひとりの可能性を ひらく社会に」。また、解説には、「働く人ひとりひとりの『幸せな仕事』に向けて、たくさんの扉を創り続けること」「扉とは可能性をひらく機会であり、『幸せな仕事』への道しるべ」とあります。(「『扉』をひらくこと」については、前編もご覧ください。)

当社グループは、パーパスに関連して「幸せ指数」というものを設定しました。

例えば、新しい「仕事との出会い」の扉を4年間で5万件つくります、という目標を示す指数があるのですが、この5万件という数字は、当社グループのエンジニアや技能社員が新たにチャレンジする機会を増やして可能性を広げていこうという思いでつくった指標です。

加えて、例えば滝沢市との連携では、当社グループは事業以外でも4年間で400名にリスキリングや教育で新たにチャレンジする機会をつくっていると言えます。

事業以外でもパーパスの実現を進めているということ、幸せ指数のような大きなKPIと接続していることで価値観と成果を共有できます。

世の中を良くする方法に事業があるし非事業もある

村井さん:いたずらにパーパス経営だとか言うつもりはないんですけれども、パーパスに共感できる事業に関わりたい世代や、事業で直接関わりがなくてもつながって応援する人たちは、やはり増えてきていると感じます。

売上高や利益が大きくなるだけではなく、皆が目指したい世界観に向けたアクションに貢献しているということは、今まさに大事になっていると思いますね。

当社グループの事業自体、SDGs8番の「働きがいも経済成長も」を体現するものだと言えます。

ただ、当社グループのようなエンジニアや技能社員による人材サービス業は、ものづくりや消費者に直接関わるものがないので、SDGsと目指すところが同じだと言っても、わかりにくいところがあります。

また、自社の技術やサービスで社会課題を直接解決する要素がないなか、なぜ地方との連携などで社会を良くするアクションにお金や時間等のリソースを使うのか、それが売上高にどれだけ貢献するのか、採用に効果があるのかなどの問いが出てきます。

連携する岩手県滝沢市にて、「ビーネックスラボ滝沢」(詳しくは前編)のメンバーであるエンジニア5名が、親子向けのプログラミングイベントで講師役に。赤い上着を着ているのがメンバーの1人。

これに対して、主となるのは事業活動を通じてパーパスの実現を進めて世の中を良くすることだけれど、同じパーパスの価値観で事業外の役割でも世の中を良くするということがポイントだと考えています。

パーパスの世界観を通して循環を生みたい

村井さん: パーパスの考え方は、社内での議論や浸透をまだまだ進めている段階で、会社の中でも未だに途上です。

ただ、CSR活動を通じて関わる社外の方々にもお話をしていて、共感をいただくことも多いです。同じビジョンを共有して、地域課題に関する活動が広がると、その地域で当社に関係なく、新たに循環していく感覚があります。

当社独自の技術やサービスを提供するといったことではなく、可能性の扉をつくる、扉をひらくきっかけをつくるというのが当社のできることなのですが、当社が関わることで循環が生まれるのであれば、うれしい限りです。