まずは地域の生物多様性から
1000万種とも1億種とも言われる地球上の生物は、物質とエネルギーの循環を行って生態系のバランスを保っています。
が、現在、さまざまな人間活動のために、種の絶滅が本来よりもはるかに速いスピードで進み、長い間保たれてきたバランスが崩れてきています。
生物の多様性を守ることは、循環の一部である私たちヒトにとっても、待ったなしの課題です。
「そんな壮大な問題に対して何ができるの?」と思われるかもしれません。
しかし、地域には地域に特有の生態系があり、その地域ならではの生物がいます。
まずは、自分たちの暮らす場所からできることがあります。
庭=小さな「里山」をたくさん作り、地域の生態系を守る
地域の生態系を守る活動を実事業の中に取り込んでいるのが、積水ハウス株式会社です。
園芸品種や外来樹種ではなく、 地域の在来樹種を用いた庭づくりを行う「『5本の樹』計画」では、 2001年からの20年間で累積1709万本が植樹されました 。
“3本は鳥のため、2本は蝶のために”との想いで、日本の気候風土に合わせた5つの地域区分が設けられ、それぞれに適した樹木が植えられています。
都市に点在する住宅の庭が、それぞれ小さな「里山」(点)となり、鳥や昆虫が移動するための「回廊(コリドー)(*1)」(線)となる。
それが地域の生態系ネットワークを復活させ、守ることにつながる、というものです。
*1:「緑の回廊」とも呼ばれる。野生生物の生息地間を結び、移動を可能にする、連続性のある森林や緑地などのこと。
研究者と連携、ビッグデータを用いて実効性を定量化
「5本の樹」計画は、NPO法人シェアリングアース協会(当時)との連携によって始まりました。
2019年には、 琉球大学理学部久保田康裕教授らとの共同検証により、1709万本による生物多様性保全効果の実効性を定量化。(久保田教授へのインタビューはこちら:ビッグデータで生物多様性を“見える化”・財務価値化。研究者と企業とで社会変革へ|琉球大学/Think Nature久保田康裕さん)
用いられたのは、樹木本数・樹種・位置データと、生態系に関するビッグデータです。
地域の在来種の樹種数が平均5種から50種の10倍に、鳥の種類は平均9種類から18種類の2倍に、蝶の種類は1.3種類から6.9種類の5倍になっていることがわかりました。
また、久保田研究室のビッグデータを用いて、「5本の樹」計画を三大都市圏で拡大実施した場合の生物多様性保全効果のシミュレーションが行われました。
地域の生物が活用しやすい在来樹種を植栽することで、同計画開始前の2000年と比べ、2030年には37.4%、2050年には40.9%、2070年には41.9%、多様性が回復するとの予測がされました。(*2)
さらに、積水ハウスだけでなく、今後日本で新築される物件の30%で在来樹種による取り組みが行われた場合、回復効果は84.6%まで上昇するという予測もされています。
*2:指標となったのは多様度統合指数(1kmメッシュあたりの樹木の種数と個体数、鳥類とチョウ類それぞれの多様度指数と個体数の6変数について1977年を100としたときの値)。
生物多様性を財務価値化、他企業にも方法論を公開
積水ハウスは、この調査が世界で初めて「都市の生物多様性の定量評価の仕組み」を構築し、実例に適用した例だとしています。
また、「数値データが開示できることで、生物多様性が財務価値化につながり、民間の貢献を可視化して示すことができる」と言います。
さらに、この方法論(「ネイチャー・ポジティブ方法論」)を一般に公開し、他の企業も使えるようにすることで、広く生物多様性保全への貢献につなげていきたいとしています。
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