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NPOとの連携で、医療通訳の課題を打ち破る——「Medi-Way」がめざす多文化共生社会とは

オンライン通訳

教育・企業・公共などの分野に向け、ICTやAI技術を中心としたソリューションを提供する株式会社東和エンジニアリング。

地域創生や教育支援といったサステナビリティ活動を推進されている同社ですが、特に意欲的に取り組まれているのが、医療通訳 遠隔サービス「Medi-Way」による多文化共生社会の確立です。

今回は、医療通訳サービス「Medi-Way」が生まれた背景や多文化共生との結びつき、NPO法人多言語センターFACILとの連携について、同社 Medi-Way推進部の中牟田和彦さん、松枝克則さんにお話を伺いました。(以下、敬称略)

「Medi-Way」を通じ、各地域での多文化共生を

——医療通訳サービス「Medi-Way」は、どのようなサービスなのでしょうか。

中牟田:端的に言うと、医療分野に特化したオンラインの通訳サービスです。

医療分野における通訳とは、医師が患者に話す言葉をわかりやすく整理し、伝える通訳なのですが、これまでは医療現場に通訳者を派遣する同行通訳が主流でした。

しかし、「Medi-Way」では、通訳者が同行せずにオンラインで映像を活用しながら通訳を行います。医者・患者・通訳者の顔がお互いに見える状態になるため、表情から状況を察知したり、それぞれの不安感を取り除けることが大きな特徴です。

最近は東南アジア諸国の方が増えているため、多様な言語での通訳が必要とされており、適した通訳者を派遣することが難しいということも、オンライン通訳が必要とされている要因の一つです。

——「Medi-Way」を開発されたきっかけを教えてください。

中牟田:弊社の経営層がアメリカ視察に行った際に、オンライン医療通訳の浸透を目の当たりにし、多文化共生社会の発展に感銘を受けたことがきっかけです。

弊社はICT・映像音響システムの構築を事業としている企業なので、事業を通じて手助けができるのではないかと考え、医療通訳事業をスタートさせました。

もともとつながりがあった医師を介して医療通訳者の方々に集まっていただくようになり、事業を徐々に拡大させていきました。

東和通訳センター
東和エンジニアリングでは自社内の「東和通訳センター」から医療通訳を提供している

——社会に貢献しつつ、事業として展開することは非常に難しいと思うのですが、御社ではどのようにバランスを取られているのでしょうか。

中牟田:社会貢献活動や多文化共生が社会から求められていることは全社共通の理解なので、SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」につながる活動の一つとして、多文化共生に貢献していこうという考えはもちろんあります。

ただ、利益を求めない社会貢献だけでは永続性がありません。未来に向けて発展していくためにはビジネスとして利益を生み出す必要があります。そのため「Medi-Way」は、社会的価値と経済的価値を持ち合わせた事業と言えます。

NPOとの連携で「Win-Winの関係性」を築く

——「Medi-Way」を事業化させた流れを教えてください。

中牟田:2015年からスタートさせたのですが、その時点で、医療通訳に関する考え方は厚生労働省からも公表されていました。

弊社は医療通訳分野の知見がなかったので、医療通訳の経験者の方や研究者の方々に「医療通訳はどうあるべきか」「医療通訳者にはどのようなスキルが必要か」などについて教えていただきながら、自社の事業として確立させていきました。

——知見のある方々を巻き込んで作り上げていったのですね。NPO法人多言語センターFACIL様と連携を始めたのも同時期でしょうか。

中牟田:そうですね。もともと弊社の経営層と関わりのあった病院の先生からご紹介いただき、NPO法人多言語センターFACIL(以下、FACIL)さんとの連携を始めました。医療通訳の考え方が私たちと合致したことも連携が進んだ理由の一つです。

FACILさんは長年、在住外国人に向けたことばのサポートをされているNPOで、2002年から兵庫県での医療通訳システム確立へ向けた活動を行い、医療機関での通訳実績やノウハウを豊富に持っています。

連携することで、私たち自身も医療通訳の知識やスキルを学べ、インターネットを活用した映像や電話を通じてどこからでも医療通訳を提供できるようになったのは大きなメリットだと思います。

——連携によって、具体的にどのような成果がありましたか。

中牟田:「Medi-Way」の提供開始当時、弊社ではベトナム語の医療通訳に対応できる人材を有していなかったので、FACILさんが持っているベトナム語による医療通訳の知見を共有いただくことで、オンライン通訳の仕組み化がスムーズにできました。

最近は日本各地から依頼をいただくため、FACILさんの通訳者だけでは人手が足りません。私たちも自社で医療通訳に必要な人材を養成し、その都度必要とされる言語を判断しながら、通訳者を必要とする現場に割り当てています。

NPO法人多言語センターFACILでの、オンライン通訳の様子
NPO法人多言語センターFACILでの、オンライン通訳中の様子

——FACILさんとは、通訳者の運用やノウハウなども共有されていたのでしょうか。

中牟田:連携当時、FACILさん側にも別の課題がありました。たとえば、病院からの依頼に応じて通訳者を現地にアサインする「医療通訳コーディネーター」へ負担がかかりすぎ、他の事業を圧迫していたそうです。

FACILさんは当時、通訳者を現地に派遣する方法を採用していましたが、一部をオンライン対応に切り替えることで、医療通訳をうまく仕組化できるのではないかと考えられていました。

弊社との連携により一部をオンラインに移行できたことで、通訳コーディネーターの負担が軽減し、FACILさんにとっても大きなメリットだったと伺っています。

医療通訳の必要性を唱え、制度として確立したい

——医療通訳サービスを確立するうえで、苦労されたことや難しいと感じることはありますか。

中牟田:「医療通訳に要した費用を誰が負担するのか」が課題となっています。

例えば、アメリカやオーストラリアでは英語が不自由な方には、医療通訳サービスが無料で提供されています。

日本では、これまで医療通訳にかかった費用を医療機関に請求するのが一般的だったのですが、近年では赤字経営が続いている病院も多いのが現状です。なかには患者さんに通訳費用を負担してもらう病院も増えており、誰が通訳費用を払うのかについては未だに明確な答えが出ていません。

本来あるべき姿は、言葉が問題なく通じることで誰でも安心して医療を受けられることだと思っています。費用負担の所在は難しい課題ですが、今後も動向を注視していきたいです。

——医療業界の問題でもありつつ、日本における多文化共生の課題でもありますね。

中牟田:費用負担に付随して問題になるのが「通訳にお金がかかるなら、言語を話せる身近な人を連れてきたらいいのではないか」という議論です。

言葉がわかる家族や友人を病院に連れてこられるケースも多いのですが、このような場合、医師が本当に伝えたいことが患者に伝わらないことが多いのです。

特に家族は、良いことだけを伝えて、悪いことを伝えない傾向があるので、医療分野は特に第三者が通訳することの意義があると考えています。

また、精神科領域や複雑な治療・手術、余命宣告といった場面の通訳では、機械翻訳でなく「人間」による通訳が求められます。状況に合った言葉を選択し、医師と患者双方の伝えたいことを伝えられる手段として、医療通訳が重要視されていると思います。

実際にこのような課題を鑑みて、中立的な立場の通訳者を入れるようになった医療機関もあります。今後は社会に対して、医療通訳の必要性を発信していくことで、医療現場の課題解決にもつなげていきたいと考えています。

手術シーンにおけるオンライン通訳中の画面
患者から見た、手術シーンにおけるオンライン通訳中の画面

誰もが安心して医療を受けられる環境を

——現在は兵庫県を中心に事業連携されていますが、今後他の地域でNPOとの連携を広げていく予定はありますか。

中牟田:まずは外国人のサポートを行う各都道府県の国際交流団体などと連携することで、他の地域にも広げていきたいと考えています。現段階では、国際交流団体の方にアプローチをかけています。

——今後の医療通訳における展望を教えてください。

松枝:日本における医療通訳者のリソースは常に不足しているため、私たちとしては、どのように医療通訳者を育成し、事業を継続させるかが鍵になると思います。

少子化により日本の人口が減っている中、日本の大学もさまざまな国から留学生を受け入れており、大学側はカウンセリングなどの場面でオンライン通訳の利用を考え始めています。

企業も同様に、外国人労働者が安心して日本で働けるよう、福利厚生の一つとして医療通訳を導入する企業も増えており、医療通訳の重要性が高まっていると感じています。

個人端末でのアプリ活用やサブスクリプションのように、すべての外国人が日本や海外で医療通訳サービスを利用できるよう進めていくためにも、通訳者のネットワークを構築・拡大していく必要性を感じています。

さらなる「Medi-Way」の普及を通して、「誰もが、常に身近な病院で、高品質の医療通訳を受けられる」社会づくりに貢献していきたいです。

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インタビュー:平野美裕、川添克彰
文:岩崎奈々、編集:平野美裕

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