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サステナビリティの下支えとなる「ハミダス活動」——社内浸透の秘訣はボトムアップ

株式会社ニチレイフーズは、「焼おにぎり」や「今川焼」などを筆頭に数々の冷凍食品を世に送り出してきた加工食品メーカーです。

フードバンクや子ども食堂への寄付、環境型ふるさと納税など、さまざまな取り組みをされている同社にお話を伺ったところ、その根底には2011年から取り組まれている「ハミダス活動」の存在がありました。

今回は、ハミダス活動の社内認知向上の秘訣と、持続可能な仕組みなどについて、ハミダス推進部長の吉野達也さんと、広報グループの原山高輝さんにお話を伺いました。

社内の風土改革から始まったハミダス活動

——御社のサステナビリティや社会貢献活動の全体像を教えてください。

原山高輝さん(以下、原山):ニチレイフーズは冷凍食品の特性を活かし、SDGsという言葉がない時代から社会貢献に取り組んできました。冷凍食品そのものがご家庭の食品ロスが出にくいというサステナブルな特性もあります。

それらに加えて、キッザニアを通じた子どもたちへの食育活動、静岡大学の遠隔地でのリモート授業プログラムへの参加、出張工場見学など、冷凍食品の持続可能性をお伝えする啓発活動にも幅広く取り組んでいます。

こうした活動を「ハミダス活動」と呼んでおり、吉野が所属するハミダス推進部が先導しています。
ハミダス活動は2011年に始まり、最初は企業風土やコミュニケーションの改善を目的として、経営層と従業員の対話の場『あぐら』の開催や経営者の動画メッセージの配信をしていました。『あぐら』の開催は今でも続いており、これまでに500回以上、延べ参加者は約6,000人にも上っています。

近年は、環境活動や食品ロス削減、子ども食堂への寄付など活動が多方面に拡大し、ハミダス活動という名の通り、縦にも横にも“はみ出し”てきていますね。

——なぜハミダス活動は社内の風土改革以外、とくにサステナビリティなどの領域に広がっていったんでしょうか。

吉野達也さん(以下、吉野):活動領域が広がった理由は、従業員から「食品メーカーとして食品ロスについて考えたい」という意見が出てきたからです。

私たちの工場は北海道から長崎県まで13拠点にあるんですが、工場ごとに考えて活動しており、ハミダス推進部はあくまで旗振役です。
それぞれの部署や工場が考えて取り組んでいることが私たちの強みだと思います。

——これまでに従業員の皆さんからどのような声が上がり、活動につながりましたか。

吉野:「お客さまや取引先から食育活動について言われる機会があり、食品メーカーとしてやりたいけど、時間や労力がないからできていない」という声が上がってきたので、ハミダス推進部で食育プログラムを作りました。

それが「出張工場見学」というプログラムで、工場見学に来ていただくのではなく、私たちが出向いて、工場ラインの動画などを見て冷凍食品ができるまでを学んでもらうというプログラムです。それがきっかけで食育活動が広がりました。

また、子ども食堂への寄付も、従業員からの声がきっかけでした。
こうした提案に応えて「認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ」さんを紹介し、1ケースに満たない半端品や営業で余った食品サンプルなど廃棄してしまっていた食品を子ども食堂に寄付するようになりました。

社内認知度ほぼ100%の秘訣

——ハミダス活動の中でもサステナビリティ活動や社会貢献活動などの従業員の理解度や、社内への浸透度はいかがですか。

吉野:ハミダス活動の社内浸透度はほぼ100%と言っていいと思います。各部署や個人が取り組んだハミダス活動は社内のイントラネットで掲載しているので、社内の認知度はとても高いと思います。

——従業員に対してアンケートを取られたりしているんでしょうか。

吉野:アンケートは取っていませんが、年に1回、ハミダス活動の従業員投票を行っています。

——何に対して投票するのでしょうか。

吉野:1年間で取り組まれた活動の中から、ハミダス活動の3つのキーワードである「思いやり」「チャレンジ」「楽しく」に最もふさわしいと思う活動に投票してもらっています。投票すること自体が目的ではなく、従業員の皆さんにハミダス活動を知ってもらう目的で開催しています。

原山:なかでもサステナブルな取り組みはとても人気があり、2022年度のチャレンジ賞の1位が「環境型ふるさと納税」、2位が「アップサイクルのウエットティッシュ」でした。

この2、3年で、社内外でのサステナビリティに関する意識が高まり、当社でもサステナビリティ部署が設立されて2年が経過しました。

——投票のほかに社内認知が広がっている要因はありますか。

吉野:「ハミダスもったいない活動」も、社内の認知度を高めていると思います。

もったいない活動は、フードバンク(セカンドハーベストさんへの寄付活動)を始めるきっかけとなったブロークン(*1)という商品の存在を従業員に知ってもらう目的で、7年前から始めています。
*1: 箱の中の商品は問題がないのに箱が少し傷ついただけで販売できなくなり、最終的に破棄される商品のこと。

例えば、「冷凍食品の日(10月18日)」に本社の食堂で、穴が空いたり潰れたりした箱を展示して、食堂でブロークンを試食するイベントをしています。これが、社員の食品ロス削減への意識づけに寄与していると感じます。

「冷凍食品の日(10月18日)」に、本社食堂にてブロークンの試食

全国の事業所でも「うちでもやりたい」と手を挙げてもらっていて、そこにブロークン商品を送って試食してもらっているので、認知度は高いと思います。これは、ニチレイフーズだけでなく、ニチレイグループ全体にまで広がっています。

吉野:約2年前から、社長も含め全従業員の名刺にハミダスマークが入るようになりました。
名刺にマークを入れると取引先などから「ハミダスって何?」と聞かれることが増えるので、従業員一人ひとりが説明できるようにするために覚えようとしますし、自然と社内に浸透していっているように感じます。

ハミダス活動は十人十色。ボトムアップを促す仕組み

——ハミダス活動とは、一つのことに対してみんなが取り組むというよりは、いろいろな活動の集合体として認識されているということですね。

吉野:そうですね。「ハミダスって何ですか?」に対する従業員の答えは十人十色だと思います。社長と対話をするのがハミダスだと言う人もいれば、フードバンクやもったいない活動がハミダスだと言う人もいると思います。

——いきなりNPOとの連携を始めて軌道に乗ったというよりは、ハミダス活動という地盤がある上に寄付活動などが乗っかっているんですね。

吉野:そうですね。全部を下支えしているのがハミダスだと思います。

ハミダス推進部としても、いろいろ行いたいことはありましたが、推進部が押し付けても駄目なので、ボトムアップで従業員から上がってきたアイデアを一緒に推進しています。

ハミダス活動の良いところはボトムアップ型だということです。
推進部が考えつかないようなアイデアもどんどん上がってきて、皆さんが自主的に考えて取り組める仕組みが良いと思っています。

原山:ハミダス活動は相手を否定しないからブレストに良いと思っています。直属の上司には仕事に直接関係のないことはなかなか話しづらくても、ハミダス推進部の人たちにだったら何を言ってもいいという気軽さがあります。

ハミダス活動は、組織論の良い事例にもなっています。「社内風土改善」みたいな堅苦しい名前ではなく、ハミダスという親しみやすいネーミングにしたことも功を奏したと思います。

最近では外部から評価を受ける機会も増えており、2018年には消費者志向経営優良事例表彰にて「消費者庁長官表彰」もいただきました。

——ハミダス活動のボトムアップを推進するために取り組まれたことはありますか。

吉野:従業員同士がゆるくつながる「ハミダスフレンズ」というものを作りました。

「ゆるく」というのがポイントで、ハミダス活動の強制はしないようにしています。忙し過ぎて取り組めない部署もあるので、できる部署、やりたい人だけがやってくださいという形で始めています。
急激に変えるのではなく、徐々に変えていき、気づいたら機運が高まっているようにできたことが大きかったと思います。

——「ハミダスフレンズ」を集めて、ハミダス活動に関する研修を実施しているということでしょうか。

吉野:そうです。ハミダス活動の歴史や、活動の背景、活動を通じて目指したいことなどを共有するための研修です。

最近は年度初めと年度末の年2回実施しています。毎年実施することで、ハミダスフレンズがどんどん増えていき、前までは部署に1人くらいしかいなかったのが、今は1部署に10人程いたりします。

研修を始めてから1、2年目は、参加者みんなの表情が硬いんですが、3年目くらいから少しずつ笑顔が出てきて、途中からハミダスの赤いTシャツを着用してピースまでできる雰囲気になりました(笑)

途中からはグループ会社の従業員も参加してもらい、最初は20数名だったのが直近では117名までになっています。

年に2回実施されている、ハミフレワークショップという研修の様子

負担の少ない仕組みが持続可能性につながる

——ハミダス活動にかかる費用はどのように捻出されているんでしょうか。

吉野:ハミダス活動はできるだけお金が掛からない仕組みで取り組んでいます。その理由は、お金を掛けない方が継続すると考えているからです。

大手企業では外部コンサルタントを入れて大々的にやる場合も多いと思いますが、弊社では動画メッセージの作成からハミダス活動そのものの仕組み作りから全て自前でやっています。

寄付活動だけでなく、新たな価値を作りたい

——今後、ハミダス活動をどのようにしていきたいですか。

吉野:ハミダス活動の中にもサステナビリティやSDGsにつながるような活動が増えてきましたが、寄付だけでは持続可能性がないという思いもあり、約2年前にサステナビリティ推進部ができました。

そこから、新たな価値を作りたいと言って生まれたのがアップサイクルのウェットティッシュと、環境型ふるさと納税の取り組みです。

おかげさまで、地道に続けてきたハミダス活動は、外部機関から表彰されたり、社外からヒアリングを受けたりするようになり、社内の雰囲気も変わってきたと感じています。
しかしながら、従業員の全員が全員、ハミダスに共感しているわけではないですし、ハミダス活動はまだまだ道半ばだと思っています。

ハミダス活動を始めた当時の社長はよく「入社したときからハミダスが当たり前にある人で全員が入れ替わらない限り、ハミダスは本当には浸透しない」と言っています。

ハミダス活動が始まってからまだ10数年しか経っていないので、40年、50年と続けることが重要だと考えています。ハミダス活動に終わりはありません。

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インタビュー:平野美裕、川添克彰
文・編集:平野美裕