経済同友会と新公益連盟等が連携して展開する「ソーシャルウェンズデー」は、民間・公共・市民社会の3つのセクターを越えて社会課題解決に取り組むトライセクター人財の育成を目指す取り組みです。2026年度のリーダープログラムは参画企業を30社以上に拡大。「個人の気づきから、組織の学び、そして企業の前進へ」をテーマに、現場セッションと共創セッションを交互に展開しています。
この記事では、2026年8月に株式会社NTTデータ ライフデザイン 代表取締役社長の濱口雅史氏を迎えて開催された第5回プログラムの内容をご紹介します。仕事と介護の両立という社会課題に挑む新会社の立ち上げを題材に、大企業のなかで社会課題解決事業をどう成立させるのか、その構想と実践が語られるプログラムとなりました。
目次
SIerから社会の変革パートナーへ

濱口氏は1992年にNTTデータへ入社。データセンタ事業部長やNTTでの新ビジネス推進室担当部長などを経て、2022年に執行役員 ソーシャルデザイン推進室長に就任。2025年8月からNTTデータ ライフデザインの代表取締役社長を務めています。
セッションの前半で語られたのは、事業の背景にあるNTTデータ自身の役割の変化でした。従来のSIerは、企業や行政にシステムを個別に納品する存在です。しかしこれからは、企業・行政の枠を超えて社会システム全体を設計・実装する「お客様と社会の変革パートナー」へと軸足を移していく。その方針のもと2020年に設立されたのが、事業セグメントにとらわれない新規ビジネスの企画・創発を担うソーシャルデザイン推進室でした。
設立の背景にあったのは、コロナ禍に顕在化したあらゆる分断です。給付金支給の遅れに象徴されるデジタル化の遅延、データの縦割りによる非効率さ。医療、教育、働き方、防災といった領域で、社会課題が一気に浮き彫りになりました。
同室が掲げたのは「生活者視点でありたい姿を描き、社会課題を解決していく」という組織ビジョンです。ビジネス領域を従来のBtoBからBtoBtoCへと拡大し、社会アセットの縦割り・分断による弊害にフォーカスする。注力テーマとして、モビリティ、高齢者ウェルビーイング、女性ウェルビーイング、サプライチェーン変革、住まい、地域創生の6領域を設定し、はじめの事業化に至ったのが、高齢者ウェルビーイング領域の「介護」でした。
ワーキングケアラー支援に向けた「ケアラケア」の展開
2025年8月、NTTデータと東京海上日動火災保険株式会社の共同出資により、NTTデータ ライフデザインが設立されました。掲げるミッションは「働く人々のライフデザインを通し、社会のウェルビーイングの向上に貢献する」こと。結婚、出産、育児、住宅購入、そして親の介護。人それぞれのライフステージに寄り添い、仕事と生活の調和であるワークインライフを支えることを目指しています。そのなかで2026年の事業方針として最初に選ばれたのが「親の介護」でした。

経済産業省の推計によれば、2030年には家族介護者のおよそ4割が働きながら介護を担う「ワーキングケアラー(ビジネスケアラー)」となり、労働生産性の低下等に伴う経済損失は約9.2兆円に達するとされています。介護離職者は年間10万人、国内の働く家族介護者は約300万人。企業にとっては人的資本の維持と企業価値向上に直結する経営課題であり、従業員にとっては一人ひとりの状況に応じた支援が必要な切実な問題です。
この両者を一体的に解決するために立ち上げられたのが、ワーキングケアラーサポートサービス「CARE la CARE(ケアラケア)」です。企業向けサービスでは、社内実態調査に始まり、調査結果に基づく次アクションの提案、制度対応サポート、離職リスクの高い従業員へのハイリスクサポート、パーソナルカウンセリングまでを提供。個人向けサービスでは、介護・福祉の専門資格を持つ「ケアライフデザイナー」が、ケアマネジャーや行政、事業所への連絡・調整を本人に代わって担う伴走サービスや、離れて暮らす親への見守り・会話サービスを展開しています。

自社を最初の顧客にして、数字と現場の声で実態をつかむ
ケアラケアの展開においては、最初の顧客としてNTTグループを「クライアント・ゼロ」と位置づけ、まずは自社グループ内でショーケースを構築していきました。その設計のもと、約15,000人の従業員を対象とした実態調査を開始しました。
調査から見えてきたのは、想像以上に広い裾野です。すでに介護を担うワーキングケアラー群は全体の約7%。一方、いつ介護が始まってもおかしくない予備群まで含めると割合は大きく膨らみます。役職別では部長級の7割以上が該当し、ワーキングケアラー群の約4割は子育てと介護を並行する「ダブルケアラー」となりました。

離職リスクの高い従業員への個別ヒアリングでは、家族の事情で仕事量を調整したいと伝えたところ取り合ってもらえなかった、家族を大事にしようと思ったら会社を辞めるしかない、といった生々しい声も共有されました。パフォーマンス低下度は国内企業平均を下回る一方で、ワーキングケアラー群の半数以上が仕事への影響を「大〜中」と回答している。数字と現場の声、その両方から実態を捉える姿勢が印象的でした。
こうした取り組みは着実に広がり、2026年7月末時点で導入企業は15社、対象者数は約10万人に達しています。パーソナルカウンセリング利用者からは「介護に関して相談できる人が身近にいなかった」といった声が寄せられ、満足度は「とても満足」「満足」で100%となりました。2026年7月には個人向けサービスも正式にローンチ。介護周辺産業とのデータ連携による社会データ・プラットフォーム構想も動き始めています。
ディスカッションから生まれた気づきと参加者の声

セッション後半のチームディスカッションでは、二つのテーマが設定されました。濱口氏のプレゼンテーションを受けての気づき・学びの共有と質問づくり、そして、ソーシャルウェンズデーのコミュニティや各社がCSR・共創の観点で取り組めるアイディアの検討です。社内起業や他社との共創という濱口氏の実践からヒントを出し合い、自社単独でできることと、コミュニティだからこそできることを整理していきました。
参加者からは、事業そのものの仕組みだけでなく、それを立ち上げた「人」に目を向ける声が多く挙がりました。「新規事業を立ち上げるにも、やはり人の思いが重要だと改めて感じた」という感想には、社会課題解決事業を動かす原動力が何であるかを掴んだ実感が表れています。
また、「相当なご苦労をされたこと、また、社内の反応などを話していただきイメージを持てた。自社の場合はどうかを考えやすくなったように思う」という声もありました。成功した事業の完成形ではなく、そこに至るまでの葛藤や社内の温度感まで共有されたからこそ、自社に引き寄せて考える手がかりが得られたのではないでしょうか。
「新規事業として腹を括るポイントや、生活者の声をどれだけわかっているかなど、多くの気づきや学びがあった」という感想は、今回のセッションを象徴するものでした。BtoBtoCへと事業領域を広げるうえで、最終的な受益者である生活者の声をどこまで解像度高く掴めているか。そして、社会課題解決という不確実性の高い領域で、どこで腹を括るのか。企業が社会課題に本気で向き合うときに避けて通れない問いが、参加者それぞれの自社の文脈へと持ち帰られるプログラムとなりました。
ソーシャルウェンズデーが目指すのは、各社の戦略的な共創企画を生み出すリーダープログラム、社員が個人として機会をつかむオープンプログラム、そして大学連合や多様な連携を拡張するエコシステムが重なり合う、横断的なコレクティブインパクトの創出です。
サステナPressでは、引き続き12月までのリーダープログラムの内容をご紹介するとともに、トライセクター人財の活躍や共創事例、これからの社会課題解決の新たな形を探っていきます。










