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全方位的なサステナビリティを評価する「B Corp認証」。日本における現状と課題とは

社会や環境に配慮した公益性の高い企業であることを認める、アメリカ発の認証制度「B Corp認証」。サステナビリティへの関心が集まる中、B Corp認証を取得しようと考える企業も増加傾向にあります。

企業がB Corp認証を取得する際に大きな壁となるのが、5つのカテゴリーからなる厳正な審査基準です。今回は、B Corp認証の取得サポートを行う岡望美さんに、日本におけるB Corp認証の現状やサステナビリティとB Corpの関係性、認証取得に必要なことなどについて伺いました。

お話を訊いた方

B Corp認証取得支援コンサルタント
岡 望美さん

外資系及び政府系金融機関、日系メーカー、スタートアップと幅広い経験・知見を活かし日本企業のB Corp取得拡大を推進中。

B Corpはいい社会を築くためのムーブメント

——そもそもB Corpとは、どのような認証制度なのでしょうか?

岡望美さん(以下、岡さん):サステナビリティというと「環境に優しい」「脱炭素化」のようなイメージが大きいと思いますが、本来のサステナビリティは「事業の存続性」などにも関係しています。

サステナビリティに関する項目を全方位的に評価し、高い基準をクリアした企業に与えられる認証制度がB Corpです。認証を取得して終了ではなく、認証を受けた企業がさらによりよい社会を築いていくというムーブメントのことをB Corpと指しています。

——岡さんがB Corpと出会ったきっかけを教えてください。

岡さん:当時手伝っていたスタートアップ企業がB Corpの取得をめざすことになり、申請する立場として関わり始めたことがきっかけです。最初は、いくつかある認証やフレームワークの一つとしか捉えていなかったのですが、調べていくうちにB Corpへの興味が深まっていきました。

B Corpの取得サポートを始めた理由は、審査基準である何百もの質問を「訳すところから始める」時間がもったいないと感じたからです。「自分が訳したものを他の方にも使っていただけるようにしたい」という思いから、Webサイトを立ち上げ、2021年ごろから他の企業でも認証の取得支援を担うようになりました。

認証取得は自社活動の明文化につながる

——問い合わせがある企業はすでにB Corpを知っている場合が多いと思いますが、企業が認証を取得したい理由は何だとお考えですか?

岡さん:取得する理由はさまざまですが、小規模の企業にとっては、「今推進している活動は正しいのか」など、事業活動にまつわる「問い」に対して、B Corpをフレームワークとして活用しているケースもあります。

中堅企業や大企業に関しても、SDGsのフレームワークや投資家からの評価基準だけでは物足りなさを感じ、B Corpをめざす場合もあるかもしれません。

——B Corpは、自社及び社会におけるチェック機能のような役割も担っていると思います。B Corpの質問に回答すると、具体的に何がわかるのでしょうか?

岡さん:「自社活動を明文化」でき、制度化しようというモチベーションにつなげられるのがB Corpの特徴です。B Corp認証を受けるには、実際に活動に取り組み、実績を証明として認めてもらう必要があります。

「本当にやっているんだぞ」と第三者に対して胸を張って伝えられるところが、自社だけで進める場合と大きく違うと思います。

——B Corpを使って、企業自体の“ものさし”に気づいてもらう部分もあるんでしょうか?

岡さん:そうですね。アセスメント通りに証拠資料を揃えていくと、実はアニュアルレポートができていた、というのは中小企業のメリットとしてあると思います。自分たちの活動の整理に役立っていることは大いにあります。

——企業とNPO、社会的事業との連携はどのように評価されるんでしょうか?

岡さん:社会的事業と連携しているほうが評価が高いです。B Corpはビジネスモデルで評価するところもあり、売上高に対して社会的事業の占める割合が高ければ高いほど点数が高いです。

もちろん、「金銭的寄付をしているか」「ボランティアをしているか」という社会貢献活動としての評価項目もあります。その中には「NPOに株を持たせているか」「政策提言をしているか」など、寄付だけではないいろいろな項目が入っているのは面白いなと思いますね。

——社会的事業とはいえ、一義的な意味ではないんですね。

岡さん:ほかにも、「寄付の方法を社員に選ばせているか」や「寄付先がどのような社会的インパクトを出しているか」というところまで評価に入ります。これは多くの日本企業ができていない項目なので、これから導入しようという企業も多いです。

——B Corpを取得した企業にしか受けられない特典などはありますか?

岡さん:取得した企業だけが入れるコミュニティ、オンラインプラットフォームがあります。世界中のB Corp取得企業と交流できるので、ビジネスチャンスにもつなげられるかもしれません。

カンファレンスも存在しており、業種ごとに分科会のようなものを作って、意見交換で得たアウトプットを世の中に出していく。世界中の同じ業界の人たちと交流することにより、新しいアイデアや刺激をもらえるような仕組みになっています。

業種や規模を問わず取得できることがB Corpの魅力

——B Corpを取得しようとしている日本企業に、業界としての傾向はありますか?

岡さん:今のところ、目立った傾向はあまりないですね。B Corpはありとあらゆる会社が受けられるという点が良さであり、実際にそうなっています。

ただ、やはりサステナビリティへの影響がわかりやすいBtoCや、第二の汚染産業といわれているアパレル業界の関心が高く、問い合わせが多いです。

——では、BtoC企業のほうが多いんでしょうか?

岡さん:取得済み企業の数は、日本、イギリス、世界全体で見ても、半々くらいです。従業員数や売上高で見ると少し変わってくると思いますが、会社の数自体は、BtoBとBtoCは同じくらいです。

業種ではコンサル会社の取得が多いことも特徴の一つです。特にサステナビリティの領域で企業をサポートするうえで、自分たちが実践していないと説得力がないということもあり、取得する企業が多いようです。

——認証の取得準備から申請までは、どれくらい時間がかかるのでしょうか?

岡さん:それも企業ごとによって異なります。もともとB Corpのような行動をしてきた企業は、回答を埋めるだけですぐに申請できますし、それぞれの項目で改善が必要であれば半年以上かかる場合もあります。

大企業になれば、サプライチェーンなど全体のビジネスの方向性を変える話にもなり得るので、より長期になる場合が多いです。

——そういう意味では、大企業だと取得しにくいとも言えますよね。

岡さん:実は「B Corp認証を取得している大企業がなぜ少ないのか」という問いは昔からあるんです。体系を転換するのが難しいという理由もありますが、大企業が必ずしもB Corp認証にメリットを感じられない面も正直あると思います。しかしそうも言っていられないくらい気候変動や人権の問題は深刻です。本気で取り組んでいくフレームワークとして今後より多くの企業が取得をめざせるといいですよね。

また、認証取得だけがゴールである必要はなく、認証取得に積極的な企業と取引したり、認証の考え方を取り入れたりすることも、一つの関わり方だと思います。

——そもそもB Corpの質問の基準作りは、誰が行っているんですか?

岡さん:B Corpの審査機関かつ運営団体である「B Lab」の委員会が決めています。2024年からはこの審査基準を大改定する予定になっており、2020年ごろから改訂を進めています。B Corp史上かなり大きな改訂になり、2024年から新しくなる予定です。

——改訂では、何が変わるんでしょうか?

岡さん:マスト項目が制定されます。今までは、端的に言えばどの分野でもいいから「80点を超える」ことが取得要件の一つでした。しかし新しい基準では「B Corpたるもの、これはできていないといけない」というミニマムラインを作っています。

従業員などの項目も含め、「全方位性」の重要度がよりグレードアップする予定です。

——ベーシックな部分を押さえておく必要があるんですね。そもそもB Corpでは、何種類・何項目の質問を聞かれるんでしょうか?

岡さん:今の基準だと5分野で、それぞれの分野に4から5つぐらいのサブ項目があります。分野としては「ガバナンス」「従業員」「環境」「コミュニティ」「顧客」の5つです。

——日本企業の認証取得をサポートしていて、5分類の中でどこの分野が強い傾向にあるんですか?

岡さん:やはり「従業員」分野は強い傾向にあります。従業員の分野は「どれだけ福利厚生が充実しているか」「研修がどれくらいあるか」などがポイントになるので、この部分は終身雇用の時代からの手厚い福利厚生や社会保険、国民皆保険などが大きな強みになっていると思います。

終身雇用がなくなりつつある今も「従業員を会社が育てよう」という思いは根付いており、どんなに小さな規模でも、評価基準をしっかり作っている企業が多い印象があります。

——反対に、日本の企業が弱いと感じる分野はありますか?

岡さん:対応が難しいと思うのは、例えば「原料売上原価の何%を80km圏内から調達・販売しているか」という項目です。

アメリカでも日本でも、行きすぎた資本主義の代償として産業の空洞化が問題視されましたし、遠くから物を運ぶより近場で作って消費した方が環境フットプリントは低くなります。しかし、良いものを売るとき、経済圏に留まるよりも全国に展開したいという企業にとっては、地産はできても地消が難しいケースがあります。

また、「過小評価グループ」「人種」などの言葉が出てくるので、「日本社会には関係ないのではないか?」と思いがちな質問もあります。大事なのは、こうした問いに対して「自分たちはどうありたいか、どうあるべきか」を経営層や従業員、ステークホルダーたちと対話し、よりよい選択をしていくことだと感じています。

——地域によって地理条件や人の違いなどがあると思いますが、B Corpでは国ごとの基準調整などはないんでしょうか?

岡さん:基準を作っている委員会には、地域ごとの違いを吸収できる体制が敷かれています。特に新基準では、地域ごとの違いを重視しようという傾向が強いです。

ただ、これは私の考えですが、「国際基準だからこそ前向きに取り入れたい」と考える経営者も多いと思っています。海外に日本の良さを認知してもらうためには、まず世界と同じ土俵に立つことが大切なので、B Corp認証を取って、自社の良さを発信していくことも一つの方法だと考えています。

実際、社会にいいことをやっている会社はB Corpの項目で自然に評価されています。もちろん、歴史や地理などの要因の違いはありますが、「いい会社とはこうあるべき」という部分は世界共通だと感じます。

——B Corpの質問の定義も、解釈によって異なるところが多いですよね?

岡さん:B Corpの質問にはさまざまなシチュエーションが設定されているので、自分たちの会社に当てはめて解釈すると考えやすい場合が多いです。

例えば、ステークホルダーに関する質問でも、ステークホルダーが誰を指すかの定義はアセスメントに書かれていません。そこを自分たちで定義できるからこそ、あらゆる業種・あらゆる規模の会社がB Corp取得をめざせるようになっています。

B Corpのムーブメントを広げるために

——世界的にも認知され始めているB Corpですが、B Corpについて学べるコミュニティはあるんでしょうか?

岡さん:2022年に『B Corpハンドブック』という本が出ました。アメリカで出版されたB Corpハンドブックを翻訳した本で、この読者をはじめ、B Corpに興味ある方々が自由に入れるオンラインコミュニティも存在します。

また、私はこれから増えるであろう認証をめざす企業を応援できるように、コンサルができる方々を養成しています。自らB Corpに着目して集まってくれた方々なのですが、専門性を持っている方が多く、それぞれの強みやネットワークを生かしながら活動しています。

——B Corpを取得したい企業、認証取得をサポートする人が増えている中で、B Corp市場全体の課題感などはありますか?

岡さん:「B Corpのムーブメントをどのように拡大していくか」が課題です。広告を打ちすぎても薄っぺらい印象を与えますし、遠慮しすぎても一部の人にしか浸透していないニッチな集団になってしまうので、このバランスをどのように作っていくかが大事だと思います。

これは、日本だけでなくグローバルな問題なので、私自身もB Corpに浸りながらも一歩俯瞰して動向を見ています。

B Corpができてから15年以上経っていますが、2020年までに認証を受けたのは世界で4,000社弱でした。国際認証であれば何万社というスピード感で広まっていてもおかしくない中、ゆっくりと時間をかけて広まってきています。昨今急激に注目を浴びて今は認証企業が7000社を超えていますが、一過性のブームになってしまうともったいないので、B Corp自体のサステナビリティについても常に考え続けています。

——例えば今後、他の認証制度がB Corpの質問事項を参考にすることもできるんでしょうか?

岡さん:B Corpの質問項目を参考にすることはあり得ると思います。B Corpのアセスメント項目はオープンソース化されており、B Lab本部が出している声明にも「B Corpの帝国を作るわけではない」と書いてあります。

つまり、私の解釈では、B Corpに絶対的な優位性があるわけではなく「社会全体を変える」ことが使命なので、B Corpをきっかけに、いかに社会全体に働きかけられるかが重要だと思います。

今のB Corpには「利益を捨てて、社会性を大事にする」という印象があると思いますが、決して利益を考えていないわけではなく、社会や環境に優しい事業で利益を生み出しているかどうかも重要な指標の一つです。

今の資本主義社会のシステムの中でどのように経済的価値と社会的価値を一緒に生み出していくかを捉えていることが、私がB Corpを好きなポイントでもあります。

倫理観を大切に、オープンソース化を図っていきたい

——今後、認証取得支援事業をどのようにしていきたいですか?

岡さん:B Corpの取得サポートにおいては、サポートする人たちが集まれる場を作りたいと思っています。

まずはグリーンウォッシュを生み出さない組織にして、私たち自身も倫理感を持ってやりたいと思っています。また、B Lab自体も透明性高く、さまざまな情報をオープンにしているので、私たちもサステナビリティに関する情報を共有し合い、社会に向けてもオープンに発信していきたいと考えています。

B Corp取得のお手伝いをする中で「こんなに素晴らしい取り組みをしている企業がたくさんあるんだ」と気づき、毎日がとても楽しいという岡さん。
これからの日本のサステナビリティ推進に、B Corpが果たす役割はさらに大きくなると期待が寄せられます。

*B Corp認証取得サポートの詳細はこちらから

インタビュー:ICHI COMMONS株式会社 代表取締役 伏見崇宏
文:岩崎奈々、編集:平野美裕