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寄付イベントから見えた競技団体・企業・自治体連携の可能性
東京2020パラリンピック以降、社会的にも認知の広がりを見せたパラスポーツ。しかし、競技の普及や選手の活動支援、団体の組織運営など、競技を持続的に発展させる中での課題はさまざまです。
2024年8月、オンライン寄付サービス「チャリーン」を活用したパラスポーツ競技団体への寄付イベントが行われ、日本障がい者乗馬協会、日本パラカヌー連盟、日本パラフェンシング協会の3団体が寄付先として参加しました。
イベント後に開催された、プロジェクトオーナーと各団体の座談会。イベントを通じ、パラスポーツ支援の課題と可能性が見えてきました。
オンライン寄付サービス「チャリーン」とは
「チャリーン」は、ユーザーがコメントを通じて応援したい寄付先を選ぶことで、コメント数に応じて寄付金が分配されるアプリサービスです。寄付金はプロジェクトオーナーにより出資され、企業をはじめ個人・団体など、誰もが寄付イベントを開催できます。支援者と寄付先が金銭的支援を超えた新しい関係性を築くことを目指し、社会貢献への参加のハードルを下げ、より多くの人々が気軽に寄付文化に触れる機会を創出しています。
「チャリーン」:https://charin.jp/
パラスポーツ競技団体への寄付イベント
2024年、パリパラリンピックの開催期間中に 「チャリーン」を用いたパラスポーツ競技団体への寄付イベントが開催されました。今回のプロジェクトオーナーである田中豊人氏の寄付金を基に、日本障がい者乗馬協会、日本パラカヌー連盟、日本パラフェンシング協会の3団体を寄付先として、各団体のインタビュー動画を公開。一般ユーザーは応援したい団体を選び、コメントを投稿しました。
田中氏は「パラスポーツ支援の新しい形として、単なる寄付に終わらず、多くの人々がパラスポーツを知るきっかけづくりに取り組んでいけたら」と、企画への想いを語りました。
>>応援コメントがパラスポーツへの寄付に変わる!オンライン寄付イベント「パラスポーツ競技団体にチャリーン!」を開催|ICHI COMMONS株式会社
寄付イベントから見えたパラスポーツ支援の課題と可能性
座談会では、田中氏と各団体が、競技団体の現状とこれからの展望を交えながら、寄付イベントを通じて感じたパラスポーツ支援に対する課題と可能性について語りました。
(写真左上から)
日本障がい者乗馬協会 事務局長 河野 正寿様
一般社団法人日本パラカヌー連盟 事務局 上岡 央子様
一般社団法人日本パラフェンシング協会 代表理事 都築 稔様
一般社団法人日本パラフェンシング協会 事務局 袴田 知子様
ICHI COMMONS株式会社 特別顧問 田中 豊人
ICHI COMMONS株式会社 代表取締役 伏見 崇宏
競技団体が語る、パラスポーツ支援と理解の現状
伏見:まずは、今回の寄付イベントを経て感じたことなどがあればお聞かせください。
河野(障がい者乗馬協会):東京2020パラリンピックは無観客開催であったものの、テレビを通じて多くの方にパラ馬術を知っていただけました。一方で、パリ大会ではメダルを獲得しない限り注目を集めることは難しかった。今後の大会でも同じことが言えるのではないでしょうか。共生社会の実現に対する意識は、東京大会を通して確実に高まりました。しかし、障害者支援や理解は進んでいるものの、パラスポーツへの支援や理解には必ずしも直結していないと感じています。
実際に、健常者の馬術選手からは「障害のある方々があれだけ馬を乗りこなせる」という競技としての評価をいただきましたが、「障害者だから頑張っている」という視点での共感は薄かったように思います。私自身、以前はサラリーマンでパラスポーツの馬術については全く知りませんでした。だからこそ「チャリーン」でコメントをくださった方々がどのような思いで応援してくださったのか、その本質を知り、今後の展開につなげていきたいです。
上岡(パラカヌー連盟):パラカヌーは2016年のリオ大会から競技が始まったばかりで、まだまだ発展途上です。選手数も少なく、競技環境のバリアフリー化が進んでいないことも大きな課題です。全国的な環境格差をなくしながら、多様な方が同じ目線で楽しめるカヌーの特徴を活かし、距離を縮めるカヌー体験や講習会をはじめとする普及活動にも取り組んでいます。今回のイベントは多くの方に魅力を知っていただくきっかけにもなりました。
田中:今回は、少しでも多くの人がパラスポーツをまず知っていただくきっかけになればと考えました。たとえば私自身も「チャリーン」の動画で上岡さんがおっしゃっていた「水の上は究極のバリアフリー。むしろ健常者が助けてもらう側になる」といった言葉に心を動かされました。ただ、イベントへのコメント数が予想よりも少なかったことが、今のパラスポーツに対する興味・関心の現状を物語っているようにも感じています。
都築(パラフェンシング協会):私たちは健常者スポーツや他スポーツとの連携も強化しながら魅力を伝え、フェンシング全体の発展につなげたいと考えています。「チャリーン」のようなサービスを通じて支援の輪を広げていくには、3つの要素が必要だと考えます。まずは「面白さ」。寄付文化もできておらずマネタイズも難しい中、共感を得られる仕組みは不可欠です。次に、自治体を絡めた活動にしていくこと。最後に、メディアによる効果的な情報発信を重視しています。
私たち寄付をいただく側も透明性を上げて活動報告していくことは必要ですし、多方面で露出を増やし自立した運営を目指すことで、本当のサステナビリティを実現できると考えています。
自治体・企業・競技団体で連携する可能性
伏見:都築さんがおっしゃるように、今回のような取り組みをより多くの方に訴求するには、自治体や企業を巻き込んでいく必要があります。自治体は地域のファシリテーターとして、また企業は様々なリソースを活用できるパートナーとして、大きな可能性を秘めていると考えますが、皆さまは他セクターとの連携についてどのようにお考えでしょうか。
都築:多くの地方自治体が人口減少に悩んでおり、スポーツを通じた地域活性化に関心を持っています。私たちは静岡県沼津市や東京都北区と連携を進めており、東京都フェンシング協会の活動拠点も北区に置いています。地域の学校施設も借りながら、区全体でフェンシングを盛り上げる取り組みを始めています。
上岡:私たちは鹿児島県伊佐市や、スポーツ庁から強化拠点として指定されている石川県小松市などで活動しています。カヌーの競技場自体は一応36都道府県にありますが、古い施設になると多目的トイレの設備がなかったり、階段が多かったりします。選手は車椅子ユーザーが多いので、設備のない競技場は使えません。しかし、新しい施設を作ることは環境保護の観点からも難しく、むしろ人の力で環境課題をクリアしていく方法を模索しています。各地での講習会やイベントを通じて認知度を高め、サポーターを増やしていく。そうした地道な活動を通じて、地域との関係を深めています。
河野:馬術でいうと、馬のナショナルトレーニングセンターが静岡県御殿場市にあるので、自治体や小学校などとの連携を進めています。他にも大きな競技場を持つ兵庫県三木市や、JRA馬事公苑がある世田谷区とも連携をしたり。来年は福岡県で選手発掘事業なども検討しています。地域企業の経済状況なども連携には大きく関わってきますが、競技場を市民の方に一般開放したり、企業が福利厚生で活用できるようにしたり、地域に根ざした持続的な関係作りは認知度にも影響してくると感じています。
「何かできたら」という気持ちから「行動」へ
伏見:せっかくの寄付を一時的な支援で終わらせないために、継続的な行動につなげていく工夫が必要だと思います。実践されている取り組みがあればお聞かせください。
上岡:私たちは2018年から自治体と協力してサポーター講習会を実施しています。参加費と会員登録料をいただく形式で、はじめは講習受講のみで終わる場合が多かったんですが、最近では受講者の約7割が会員登録してくださるようになりました。
講習会では「合理的配慮」について説明しますが、最初は皆さん「具体的に何をすればいいの?」とピンとこない様子です。しかし、カヌー体験を通じて実際の場面を示すと、一気に理解が深まります。一緒に水上で楽しみながら、そんなに難しいことではないんだ、人の気持ちはコミュニケーション一つでつながるし、こうして楽しめるきっかけを作れるんだと共感いただけることが応援につながっていると感じています。
都築:パラスポーツの場合、競技間で選手の移動も多く見られます。そのため、競技自体への愛着を育むことも大きな課題です。フェンシングの魅力をより多くの人に知っていただき、競技への理解を深めていただくことが、持続的な発展につながると考えています。
最近では高校の探究学習でも、地域の企業や団体と連携した社会貢献活動が行われています。こうした若い世代との接点も、将来の支援の輪を広げる可能性を秘めていると感じています。
田中:できることから始めて、フィードバックを得ながら改善していく。この繰り返しが必要だと改めて感じました。企業、自治体、競技団体、NPOなど、多様なセクターが持つ資源を効果的に組み合わせることで、より大きな価値が生まれるはずです。
心のどこかで「世の中の役に立ちたい」「誰かのためになりたい」と思っている人はきっと多くいると思うんです。しかし、そのきっかけがない、あるいは何から始めたらよいか分からない方が多いのが現状ではないでしょうか。「チャリーン」のような取り組みを通じて、そうした思いを具体的なアクションにつなげるきっかけが増やしていければと考えています。
伏見:ICHI COMMONSは『サステナNet』を通じて、社会課題の可視化と、解決に向けた多様な主体の共助共創を支援しています。ゼロから新しい関係性を作るのは難しいかもしれません。でも今回のような投票型寄付は、競技団体と企業、そして一般の方々を結ぶ新たな接点となる可能性があると感じました。小さな共感やきっかけから、パラスポーツ支援の新しいカタチが生まれていくのではないでしょうか。本日は皆様、ありがとうございました。
企業をはじめ個人・団体など、誰もが寄付イベントを開催できるアプリサービス「チャリーン」(https://charin.jp/)。ICHI COMMONSでは、寄付プロジェクトを通じた企業の社会課題解決等をサポートしています。
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