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普段は聞けない、NPOとお金のリアル。「人とのつながり」や「好き」をベースに生きる

NPOで働く社会人に聞く!キャリアを通した社会貢献とは

ICHI COMMONS株式会社では、2022年6月9日にNPOでのキャリアを歩む2名をゲストにお迎えし、「NPOで働く社会人に聞く!キャリアを通した社会貢献」のイベントを開催しました。

今回は、「NPOで働く上でのやりがいは?」「NPOの資金繰りってどうなってるの?」など、普段はなかなか聞けないNPOとお金のリアルについて語っていただいた内容を一部抜粋してお伝えします。

NPOで活動することのイメージがより具体的に描けるようになり、「働く」「生活する」ことの価値観もアップデートされること間違いなし!

《ゲストのご紹介》

NPO法人森づくりフォーラム 事務局長
宮本 至 さん (Itaru Miyamoto)

熊本県出身。インフラエンジニアとして約3年の企業勤務を経て、企業CSRへの関心をきっかけに森林・林業業界に転職。
2012年よりNPO法人森づくりフォーラムスタッフ、2019年より現職。NPOの運営業務をはじめ、市民参加型の森づくりに関する普及啓発やリサーチ、森林保全に関する企業との協働等の業務に携わっている。

NPO法人三段峡-太田川流域研究会 代表
本宮 炎さん(Honou Honguu)

1976年、岐阜県土岐市生まれ。1996年に父で陶芸家の青葉太陽に師事。2009年広島県広島市安芸太田町に窯を築く。
地域の環境保全と歴史文化の伝承、教育人材育成などを行うNPO法人三段峡-太田川流域研究会の代表も務める。

決算報告書から見える、各NPOが大事にするもの

――本日はNPOとお金をメインテーマにお伺いしようと思います。NPOのお金の規模感や、お金が何にどれくらい使われているのかについてなかなかイメージが湧かない方々もいらっしゃると思うので、その辺りを具体的に教えていただけますか?

宮本至さん(以下、宮本)NPOは会計や事業報告を公開しなきゃいけないルールになっており、うちのホームページでは過去6年分ぐらい公開しています。(参考:森づくりフォーラム 2021年度『決算報告』

今年度の決算報告を開くと「活動計算書」と「財産目録」があるんですが、収入が1,900万円あって、支出が1,700万円ぐらいだったので黒字になっています。
収入としては寄付金が235万円、会費が180万円で、寄付が想定よりも多かったので黒字になっている印象です。

支出はほとんどを事業費に使っていて、他の事業体もそんなに変わらないと思いますが、支出の内訳は3分の1が人件費、3分の1が事業費、残り3分の1が管理部門でかかってくるイメージです。
事業の数が単年度でどんどん変わっていくので、事業の数が多ければ多いほど事業費もかかってきます。

NPO法人森づくりフォーラム 2021年度収支(概算)

収入:約1,900万円
《主な収入項目》
・会費:約180万円(うち団体正会員:88万円)
・寄付金:約235万円(企業:約195万円、個人:約40万円)
・助成金:約935万円

支出:約1,800万円
《主な収入項目》
・人件費:約500万円(事業費仕分け分)+約50万円(管理費仕分け分)
・業務委託費:約300万円
・諸謝金:約250万円

森づくりフォーラム 2021年度『決算報告』より抜粋・編集(数字を概算で記載)

――収入源は「会員の方からの会費」と「寄付金」があるかと思います。会員さんは何人くらいで、どんなことをする人たちが会員と呼ばれていますか?

宮本:会員は「正会員」と「賛助会員」っていうのがあって、正会員の団体会員が88団体で、一口1万円の寄付をいただいているので88万円です。
賛助会員だと企業さんから一口5万円というのもあるんですが、そこはまだプッシュしきれていないところがあって今は2団体くらいです。残りの会費は個人の会員さんからですね。

個人の会員さんは基本的にうちが開いているイベントなどで活動をされていて、会員だと割引のサービスもあるので、そういうのを求めて会員になっていただいてる方が多いです。
団体会員はうちでやっている「グリーンボランティア保険」が安く利用できたり、役立つ情報を発信しているので、そういうことで会員になっていただいている感じですね。

――寄付はどういう方からの寄付ですか?

宮本:寄付の多くは企業さんですね。今年度の寄付は235万ぐらいありましたが、個人の方からの寄付は40万ぐらいで、あとはすべて企業さんの寄付でした。

――続いて本宮さんお願いします。

本宮炎さん(以下、本宮):昨年度(2021年度)の決算書案です(*1)。
NPOは、ちょっと書き方が変わっていて、支出の経常費用は「事業費」と「管理費」の二つに分けて書きます。
実際に「事業をした部分」と「NPOの管理運営をした部分」を分けて書くんですが、はっきり分けることが難しいので、うちだったら大体2割を管理費に充てる形で支出として分割しています。
*1:イベント開催時はNPO法人の総会前のため案とした上で提示

NPO法人三段峡-太田川流域研究会 2021年度収支(概算)

収入:約1,000万円
《主な収入項目》
・会費 :約58万円(正会員:約22万円、賛助会員約36万円)
・寄付金:約470万円
・助成金:約280万円
・事業収入:約200万円

支出:約900万円
《主な支出項目》
・人件費:約247万円(事業費仕分け分)+約27万円(管理費仕分け分)
・業務委託費:約110万円
・消耗品費:約200万円(事業費仕分け分)+約5万円(管理費仕分け分)
・謝金:約44万円

NPO法人三段峡-太田川流域研究会 2021年度『活動計算書』より抜粋・編集

僕の団体の収入は、正会員と賛助会員の2つを合わせた会費が58万円ぐらいあり、寄付金が470万円くらいあります。

受取助成金の中の「受取国庫補助金」は国からもらう助成金で、下の「受取助成金」はいわゆるセブンイレブンさんなどの民間が出している助成金のことです。
うちの団体の特徴としては行政などからの支援はまったくないことで、完全に民間からの助成金がメインです。

次に「事業収入」として自分たちが事業したものの収益が200万円ぐらいで、補助金が280万円ぐらいになっています。
事業収入が今少しずつ上がってきているところで、今年はなんとか1,000万円の収入を達成することができてよかったと思っているところです。

支出としては「人件費」と「消耗品費」が多いんですが、うちの場合は社員の職員が1人ですので、人件費には1人分のお給料が載っている形になります。
消耗品費が多いのは、助成金は人件費などに使えないので、10万円以下の物品にあたる消耗品費の購入が多くなっています。

あとは「謝金」が約44万円ということで、これもうちの団体としては助けてもらったらきちんとお金を支払っていて、お金をお支払いすることでまた良い循環をつくっていきたいという想いもあり、謝金をなるべく払うようにしているのも特徴だと思います。

今年は、100万円ぐらいが次年度に残る見込みで、黒字を達成できました。うちは寄付をしっかり貰うのをポイントにしている団体だと思っています。

NPOに会費や寄付が必要不可欠な理由

――NPOを運営される上での難しさについても資金面と絡めながら質問させていただきたいんですが、ここ数年はコロナ禍ということもあって資金調達での難しさなどありましたか?

本宮:寄付をお願いするところまでの心理的ハードルが最初はかなりあって、大変だったなと思いますし、僕は今でもちょっと苦手ですね。

うちは事務局の方が積極的にやろうっていうふうに言ってくれてるんですけど、やっぱり最初はなかなか日本人っていうか多分どこの国もそうだけど、お金をくださいってなかなか言いづらいんですよね。

でも「お金をください」じゃなくて、きちんと自分たちがやっていることの意義や、どう社会貢献につながっているかを伝えることが寄付につながると実感するようになってからは、きちんとそれらを伝えることができるようになって気持ちが変わってきましたね。

宮本:実はうちいろいろな団体を支援する立場でもあるので、他の団体の財務諸表を見たりもするんですが、さんけんさんみたいに中山間地域に組織があるNPOでこれだけ寄付を集めている団体さんって本当にごくわずかだと思います。

会費や寄付がなぜ重要かと言うと、助成金は使途が決められていて、人件費などには使えないからです。寄付や会費を集めるのは本当に難しいんです。さんけんさんはすごく頑張っていらっしゃって、僕も学ばせていただく立場だなと思いました。

本宮:寄付や会費が組織を強くするお金になってくると思うのですが、未だに「NPOはボランティアベースでやるべきでしょ」みたいな風潮が助成金を出す側にもあって、なかなかお金につながっていない気がしています。
社会の意識ももうちょっと変わってくるといいですよね。

宮本:人って人が困っていることに対しては寄付を出しやすいみたいで、貧困や子どもの支援をやっているようなNPOには結構寄付が集まっているみたいです。

これは環境分野に関わっているみんながよく言っていることなんですが、環境問題などフィランソロピー的な価値観に対してはまだ日本は追いついていない印象があります。

――ここではお話しきれないような困難などがある中で、これまでNPOの活動を続けてこられたと思います。活動を続ける上で何がモチベーションになっていますか?

宮本:幼い頃に住んでいた家の目の前が神社だったんですが、鎮守の森みたいな広場が付いていて、そこで遊ぶために生きていた時代が結構長かったので、僕自身そういう場所が重要だなと思って生きています。

森や里山は所有権の縛りが強くて一般人がなかなか入りづらいという現実があるので、一般人が参加できる里山保全や森林保全の場所はこれからますます大事になってくると思っています。
その突破口を広げようとしている今の活動に自分としてはすごくやりがいを感じています。

本宮:宮本さん言われたように、「やりがい」がキーワードだと思います。
NPOはひとりじゃなかなかできなくて、いろいろな仲間や団体、会員さん、パートナーさんと一緒にやることがたくさんあって、僕としては「ひとりだとできないようなことがNPOでみんなと協力するからこそできる」という部分にすごくやりがいを感じるというか、なんか楽しいなと思っています。

自分の労力は社会を良くすることに使いたい

ここからは、参加者の方から出た質問への回答をご紹介。

――今就職活動中なのですが、自分はもしかしたら利益追求よりも社会や人を良くすることへの気持ちが大きいのかなと思っています。個人事業主や一般企業からNPOの仕事に変えたきっかけや理由はありますか?

宮本:私は3年間一般企業で働いて、その企業がCSR活動っていうのをやっていて、今から16年ぐらい前の2006年ぐらいに、CSR活動っていうのが企業の中で本格化するちょっと手前ぐらいでやってた企業だったんですけど、そこは農地とかを保全して、生態系にもいい農地を作っていこうみたいな活動してて、企業もこういうことやるんだなっていうことをきっかけに、だんだん森林林業みたいのに興味が出てきて、当時は僕もあんまり森のことよくわかんなかったんですけども、なんかやっぱ木植えるとかいいなとか思って。

要は自分が考えたり、動かしたりする労力を、利益の追求ではなく社会を良くすることに使いたい。そこはご質問者さんと結構近い価値観かなと思います。

企業に勤めてテクノロジー系には強くなったので、1回NPOに行ってみて何かあったらまた戻ればいいやぐらいの気持ちでした。
つまり僕はいろいろなセクターで働いてみたいんだっていうことに気づきがあってNPOに行ってみたんですが、そしたらズルズルと運営する側に引っ張られてしまって、気付いたら10年ぐらい働いちゃっていますね。

今はすごく流動性って高まっていますし、20代とか30代って働くチャンスがいっぱいあるので、いろいろなところに挑戦する一つの選択肢としてNPOもすごくいいんじゃないかなと思います。

本宮NPOっていろいろなことが学べるなと思います。僕は会社に勤めたことないのでわからない部分もありますが、僕自身は陶芸を辞めたわけではなくて、二足のわらじというか、自分の中で陶芸とNPOを同時並行でしています。
この生活も面白いなと思っていて、僕の友達はNPO職員として働きながらもんぺを作って売る事業を立ち上げていますね。
そうやってNPOだけで働くってよりは、働きながら自分で別の新しいことを始めてみることもできるのかなと思ったりしています。

――普段は聞きにくい話なんですが、どのぐらいの思いや覚悟を持ってNPOで活動をすべきなのかが感覚的にわかるとうれしいと思い質問させていただきます。実際NPO団体の活動でどれぐらいの収入が得られているのでしょうか?

宮本:本宮さんが本業の陶芸があったりするように、特に地方では、いろいろな職業を組み合わせてNPOの活動をやっている方が増えています。
NPOだけに限らず、一般社団法人や合同会社とかも結構増えているんですが、いろいろな仕事をしながら、そのネットワークでNPOなどをつくるパターンが地方の場合は多いですね。

僕も実は2015年までゲストハウスの経営をやってまして、それで家賃はペイしてて、多少収入もありましたね。
NPOの常勤もやっていたんですけど、当時NPOからもらっていたのは手取り240万ぐらいだったので、もうちょっと欲しいなみたいな感じはありましたが、幸運にもその他の仕事があったことで続けられたってところはありました。

本宮:田舎で暮らしていると、都会とは稼ぎに対する考え方が違うなと思うこともあります。近くの会社に勤めて働いてお金を稼がれる方もいらっしゃるし、いろいろなことをしながら生きていく生き方も結構できるなと思っています。

僕自身陶芸もしているし、僕の場合はNPOから理事長にお金が払いにくいところもあってあまりNPOからいただかないようにしているんですけど、例えばNPOで環境教育のツアーをしたときの日当だったり、ツアーは別会社を作ってやったり、本当にいろいろなことをしながら、工夫をしながら、ちょこちょこお金を得ている感じです。

だから時給換算すると働いている割にはお金がないなと思う時もありますが、そこにはお金以外の価値があるんだろうなってことはすごく実感しています。

例えば、子どもたちと触れ合ったり、フィールドを歩いたり、生き物を調査したりすることはそんなに報酬が出る活動ではないんですが、やりたいことで苦じゃないし、プライベートと境目がないなってちょっと思ったりもします。

企業に勤めていて、自分のサラリー(給与)が自分の価値と同等だと思っていると、お金の話をするのはちょっと恥ずかしさや抵抗があると思うんですが、宮本さんもご自身のお金事情を話していただけるのは、多分NPOソーシャルセクターで働いていると「もらっているサラリーが自分の価値ではない」と僕たちは思っているので、割と楽に話せるんだろうなと気づけたのが今日の発見ですね。

「人とのつながり」や「好き」をベースに生きる

――僕自身、高校時代に自分でNPOを起業したことがあります。資金調達の面でいくと、NPOは株式会社と違って利益を再分配できないので、資金調達をわかりやすく、より多くするという目線に立つと、NPOより株式会社で登記した方がいいと思うんですが、なぜNPOを起業されたんでしょうか?

本宮NPOを設立したのは割と軽い気持ちだったっていうのが正直なところで、そんなに真剣にファンドレイジングを考えて設立したわけじゃなくて、むしろ設立したら行政がお金をくれるんじゃないかぐらい軽い気持ちでした。
ただ、実際設立してみると行政からの援助は少なく、むしろ税金を取られるので結構大変だなって思いましたね。

なぜNPOにしたかの答えとしては、株式会社だと基本的には利益、いわゆるお金が組織を強くする唯一のものだと思うんですが、社会セクターやNPOの場合はお金に加えて、人とのつながりや、皆さんにどんなことをしてくれる組織と認識されるかという組織としてのブランドがとても大事だと思っています。

この3つをきちんと回していくのが、社会セクターやNPOの強さだと思っています。
NPOはお金を集めにくい側面もありますが、人との良いつながりをつくっていけるという面ではメリットじゃないかなと。

ーーNPOを運営して活動されている方と、一般企業などで働いている方でNPOで活動することを特に考えていない方との違いってどういうところにあると思いますか?

宮本:先ほど本宮さんがおっしゃったように、まずは好きという気持ちが大事だと思います。
やっぱり安定した収入って誰でも必要じゃないですか。なので企業で働く方は割り切って趣味は趣味、仕事は仕事って割り切っているという方も結構いらっしゃるんですが、NPOの場合やっぱり好きがベースにあるとは感じます。

あともう一点加えるとすれば、自発性ですね。企業の場合はミッションを与えてそれをこなす人が大半だと思うんですけど、NPOではこういうことがやりたいからこういうプランを練って自分で作るみたいなことをしているなと。

そういう意味だと今話題になっているWeb3やDAOの世界とも近いかなと最近思うんですよね。自発的に考える人たちが集まって、意見を交換する中でプランやアクションを考えていくという作業は、NPOの方がダイレクトに行われているなと思います。

本宮:宮本さんが言う通りかなと思うんですが、自分で仕事をつくろうと思う人かどうかは一つの違いなのかなと思います。

僕らも人を雇うために仕事をつくらなきゃって思うんですが、一人分の仕事をつくるのってとても大変で、そこまではできないなっていうときでも、自分で仕事をつくろうという気持ちがある人が声をかけてくださったら、多分すぐに一緒にやれるなと思っています。

ーー最後に今日のイベントのご感想や参加してくださった皆さんへのメッセージなど一言ずついただけたらと思います。

本宮NPOで社会セクターということで、もしかしたらまたどこかで皆さんとつながれたり、実際に何か事業ができることもあるのかなと思ったりしています。
そんな機会があったらいいなと思って、何か一緒にできることを願っています。最後まで聞いてくださり、ありがとうございました。

宮本:外国のデータでは、週1回森の中のように360度緑に囲まれているところを2、3時間歩くだけでも身体に良いということがわかってきているので、ぜひそういうところから自然を身近に感じてほしいですね。
実は人間の身体は自然に合う形で出来ているので、また機会があれば、皆さんとお会いできたらうれしいです。ありがとうございました。