株式会社ニチレイフーズは、全社員が自分の担当領域を超えて自発的に取り組む「ハミダス活動」の一環として、アップサイクル(*1)に取り組んでいます。
これまでは生産過程でどうしても出てしまう残渣(ざんさ)はすべて肥料や飼料へリサイクルしていましたが、2022年にアップサイクル商品として、「焼おにぎり」「今川焼」の規格外品を使用した除菌ウエットティッシュを開発しました。
今回は、アップサイクルを通じた社会的価値と経済的価値の両立などについて、ハミダス推進部長の吉野達也さんと、広報グループの原山高輝さんにお話を伺いました。
また、サステナビリティ推進部がどのように活動に関わっているかについて、同部長の佐藤友信さん、ハミダス推進部で環境活動に携わる石井泉さんにもお話を伺っています。
*1アップサイクル:リユース(再利用)、リサイクル(再循環)と異なり、廃棄物や副産物など、従来、不要と考えられたり有効活用されていないものを、様々なアイデアや手法でさらに価値の高いプロダクトに転換すること。
目次
人気商品がウエットティッシュに生まれ変わる
——なぜアップサイクルに取り組まれようと思われたのでしょうか。
吉野達也さん(以下、吉野):食品ロス削減のために、子ども食堂への寄付やフードバンクに取り組んできましたが、寄付だけではサステナブルではないという思いもあり、食品ロスに貢献しつつ、新たな価値を作りたいと考えていました。
原山高輝さん(以下、原山):冷凍食品メーカーとしては、製造工程でどうしても残渣(ざんさ)と呼ばれる残りかすが出てしまいます。これまでは肥料などにしていましたが、今回弊社商品「焼おにぎり」の製造工程で出るご飯かすをアルコール発酵させ、蒸留したアルコールをエタノールにしてウエットティッシュを作りました。
「今川焼」は規格外品そのものをアルコール発酵・抽出し、それを利用して作っています。
佐藤友信さん(以下、佐藤):ウエットティッシュは弊社の工場で作っているわけではなく、独自の発酵技術で未利用資源を再生・循環させる研究開発型スタートアップの株式会社ファーメンステーション様と共創で製造しています。
私たちの工場で余ったお米や原材料を先方の工場に送り、アルコール発酵・抽出してもらっています。
——ウエットティッシュの原料は、パッケージに選ばれている商品の一部ということですね。
吉野: そうですね。パッケージを冷凍食品と同じにしたところが私たちの遊び心で、結構評判も良いです。 「焼おにぎり」のウエットティッシュは、ロフト様も面白がってくれて一部店頭での販売につながりました。
原山:「今川焼」のウエットティッシュは、弊社がオフィシャルスポンサーを務めるキッザニア福岡内の「食品開発センター」にて、アクティビティに参加してくれた子どもたちに配っています。
キッザニア福岡では、今川焼を試食して味を比べる「官能評価」というアクティビティを提供しているんですが、コロナ禍にオープンしたこともあり、子どもたちは必ずアルコールティッシュで手を拭いてから比較試食するんです。
私が視察した際にその様子を見て、「これを今川焼のウエットティッシュでやれたらいいな」と思い、焼おにぎりに続いて開発が実現しました。
サステナビリティを“目に見える形”にすることの重要性
——アップサイクルとはいえ、多少コストが掛かると思いますが、ウエットティッシュでの利益は考えられているのでしょうか。
原山:サステナビリティ経営は社会的価値と経済的価値と両立に目を向けているものなので、食品残渣に「社会的価値」を付加して食品ロス削減に貢献するだけではいけないと考えています。
そのため、「焼おにぎり」の方はロフトで税込187円(2023年10月現在)で販売されており、少し利益が出るぐらいの値段設定になっています。
「今川焼」のウエットティッシュはノベルティなので直接的な利益はありませんが、今川焼の製造工場も福岡県にあるので、同じ土地でアップサイクルされたことがストーリーとして伝わりやすく、より弊社に愛着を持ってもらえていると感じます。
このような商品のストーリーをアップサイクル商品を通してしっかりお伝えできているという意味では、弊社のブランドにプラスになっていると思います。
——社員の方への効果はいかがですか。
吉野:ウエットティッシュは社員の啓発活動になっていると感じます。
今まで捨てていたものに新たな価値を持たせてアップサイクルできることを知ってもらえるとともに、社員のサステナビリティへの意識醸成にもつながっていると感じます。
原山:ウエットティッシュという目に見えるものになることで、取引先からも聞かれる機会が増え、社員も説明できるように調べるようになります。サステナビリティ活動において目に見える形にすることの重要性を改めて感じています。
サステナビリティ推進部が活動をブラッシュアップ
——サステナビリティ推進部はハミダス推進部よりあとに設立されていますが、活動にはどのように絡んでいるのでしょうか。
佐藤:弊社にはハミダス活動の地盤があったため、寄付活動やフードロス削減活動、食育などの取り組みは比較的スムーズに始まっていたので、サステナビリティ推進部としては外部や国際的な動きの話を社内に投げかけながら、これまでの活動をブラッシュアップしています。
例えば、2019年からは、WRI(アメリカの世界資源研究所)というシンクタンクが提唱する「10X20X30食品廃棄物削減イニシアティブ」に参加しています。
このイニシアティブでは、2030年までに食品ロスを半減させることが目標とされています。他メーカーとも食品ロス半減のための意見交換をする機会が増えたことで、以前から取り組んでいた肥料などへのリサイクルを“もっと価値のあるリサイクル”にするため、方法を再検討しています。
——サステナビリティ活動にかかるコストについてはどのように考えていますか。
石井泉さん(以下、石井):会社全体としてもサステナビリティ経営を重視し、生産過程で環境への配慮や容器包装の改善、新工場建設時にもサステナビリティへの対応を組み込むようになりました。
これらの取り組みには当然コストがかかりますが、社内でも「必要な経費」という共通の認識ができており、取り組みが推進されています。
——今は複数の部署でサステナビリティを推進されていますが、活動の情報整理や記録管理などはどのようにされていますか。
石井:食育に参加した子どもたちの人数など、ハミダス活動にかかる数字をまとめるのがハミダス推進部です。一方、CO2削減量など、主に外部発表のための数値をまとめるのはサステナビリティ推進部が担当しています。
吉野:数字にまとめることは大切だと感じています。なぜなら、数字で伝えることが一番わかりやすいと考えているからです。
例えば、経営層と従業員の対話の場『あぐら』も「いっぱいやっています」と言っても伝わらないんですが、「延べ7,000名の従業員と700回対話しています」と数字で言うととても伝わります。
他のハミダス活動、とくにサステナビリティ領域においては数字でお伝えできるようにしていきたいですね。
会社にとらわれず、社員一人ひとりがサステナビリティに取り組む
——サステナビリティ活動における今後の展望を教えてください。
吉野:会社という組織にとらわれずに、社員一人ひとりがサステナビリティに関わるようなハミダス活動をどんどんやってもらえるように支援していきたいです。
サステナビリティも幅が広いので、「ハミダス活動」がサステナビリティを包含するようになれば良いと思っています。それがニチレイフーズらしいサステナビリティの取り組みであるような気がします。
佐藤:私は「サステナビリティ推進部がなくなるのが究極のサステナビリティ」だと思っています。 サステナビリティが当たり前に社内に根付けば、推進部としての旗振り役は要らないと思っているので、それが最終目標です。
今は、SDGsやカーボンニュートラルなどは2030年や2050年を目標としていますが、弊社としてはニチレイグループ100周年の2045年を節目に、さらに取り組みを進めていきます。
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インタビュー:平野美裕、川添克彰
文・編集:平野美裕