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個人の変容から始まる、リジェネラティブな企業のあり方

 
経済同友会と新公益連盟等が連携して展開する「ソーシャルウェンズデー」は、民間・公共・市民社会の3つのセクターを越えて社会課題解決に取り組むトライセクター人財の育成を目指す取り組みです。2026年度のリーダープログラムは参画企業を30社以上に拡大。「個人の気づきから、組織の学び、そして企業の前進へ」をテーマに、現場セッションと共創セッションを交互に展開しています。

この記事では、2026年9月にオンラインで開催された第6回プログラムの内容をご紹介します。一般社団法人Earth Company 代表理事の濱川明日香氏を迎え、「アジアでの共繁栄を考える」をテーマに開催。地球規模の社会環境課題の構造と「リジェネラティブ」という考え方を学んだうえで、個人の変容と、企業が未来を創る責任を参加者同士で問い直す時間となりました。
 


サモアでの原体験と、ツバルで見た20年後

一般社団法人Earth Company 代表理事 濱川明日香氏

 
濱川氏の原点は、学生時代に訪れたサモアにあるといいます。幸せや豊かさとは何かという問いを抱き、さらに気候変動の影響を目の当たりにしたことから、ハワイ大学大学院で太平洋における気候変動研究の修士号を取得。サモア沖大地震や東日本大震災での支援活動を経て、気候変動NGOの副代表としてツバルに駐在し、2014年にEarth Companyを設立しました。

そこから20年。太平洋の島々では海面上昇が悪化し、頻度と規模を増す台風によって人々は何度もすべてを失ってきました。退学通告、貧困、飢餓、病気。私たちは知らず知らずのうちに、誰かの大事な何かをたくさん奪ってしまっている。そして日本をはじめ、世界中の国が例外ではないと濱川氏は語ります。
 

 
日本国内においては、2026年夏だけでも福岡・鹿児島や千葉、福井、東海・名古屋における豪雨被害が相次いでいます。世界では、ヨーロッパ全域の記録的熱波により、超過死亡者数は推計35,000人以上にのぼります。積極的な気候対策をしない場合には、2100年に国内人口の3割が住む場所を失うリスクがあるというシミュレーションも示されました。

濱川氏が強調したのは、これらが個別の問題ではないということ。気候変動の例に限らず、たとえば私たちが日常的に手にする服、IT機器、食肉、魚などの背後には、コンゴの少年兵と児童労働、アジアの漁船での奴隷労働、鉱山での人権侵害と環境汚染など、さまざまな課題が存在しています。
 

 
その原因として示されたのが、誰かを、何かを犠牲にしないと発展できない経済や社会のあり方という構造的問題です。ここ70年で社会・経済システムが飛躍的に加速した一方、地球・生態系システム損害も加速。プラネタリーバウンダリー(生態系の生存限界)の指標を見ても、私たちが安全に生きられる地球システムの崩壊まで、もう三分の二の地点まで来ています。

それでは、搾取的な経済発展の末に、人類は幸福になったのでしょうか。ハーバード大学の調査では96%の幹部社員が常にバーンアウトを経験しています。ストレスフルな心身がストレスフルな社会と地球を生み、それがまた心身に返ってくる。この悪循環のなかで現代を働く私たちは、未来を創る行動を起こすためのマインドセットや環境を醸成できていないと、濱川氏は指摘します。
 

サステナブルの先にあるリジェネラティブ

そこで提示されたのが「リジェネラティブ」という考え方です。課題を生まないと発展できない従来の世界(EARTH 1.0/Net Negative)から、課題を解決しながら発展するサステナブルな世界(EARTH 2.0/Net Zero)へ。そのさらに先に、社会の発展が地球上すべての命のウェルビーイングを向上させるリジェネラティブな世界(EARTH 3.0/Net Positive)がある。今はまだ、その途上だと位置づけられます。
 

 
個人の変容が、組織を変え、社会を変え、地球を変える。Earth Companyの事業においてもリジェネラティブ・モデルを掲げ、チェンジメーカーを支援する「IMPACT HERO」は20カ国61名を輩出し、10年間で770万人に支援を届けています。人財育成プログラム「Impact Academy」には24カ国から16,217人が参加。バリ島ウブドのエシカルホテル「mana」では、事業の繁栄が人と社会と環境を良くするモデルを自ら体現するなど、人と社会と自然が共に繁栄するあり方を追求しています。
 

 

日本企業にできること、研修が生んだ意識変容

続いて言及されたのが、日本の人財をめぐる現状です。日本企業の従業員エンゲージメントは世界全体で最低水準の5%。国際競争力はこの30年で1位から31位に落ちました。昇進が遅く、転職が賃金増加につながらない。その結果、現職で働き続けたくないけれど転職も起業もしたくない、という層が生まれています。

こうした状況に対して、濱川氏が企業と取り組んできた事例も紹介されました。ある大手飲料メーカーでは、入社2年目の社員543名に対し、バリ島研修で社会課題を最前線で体験する機会を提供。研修前後のアンケートでは、サステナビリティへの関心が24.2%から75.8%へ、社会課題・環境問題への責任を実感している人の割合が17.4%から73.5%へと大きく変化しています。

また、ある総合電機メーカーの次世代リーダー育成プログラムでは、参加者の行動欲求を分析したところ、「合理性や防衛心(I=私中心)」から「利他と内発的動機(We=私たち中心)」への意識変容が確認されました。研修後には、MBAを受験し合格した人、社外出向という新しい環境へ踏み出した人も出てきたといいます。

最後に示されたのは、トレードオフからトレードオンへ、という視点でした。Aを実現するためにBを犠牲にする思考から、AとBの両方を実現する経営戦略へ。この転換こそが、リジェネラティブな企業のあり方だと締めくくられました。
 

ディスカッションから生まれた、個人と企業の気づき

後半は、「個人の変容と、企業が未来を創る責任」をテーマにグループディスカッションを行いました。①自社は個人の変容を受け入れ、促し、成長を支えることができているか、②できていないとすれば、壁になっているものは何か、③企業が未来を創る責任として、どういう個人の変容が実現できるといいのか。この3つの問いをもとに、立場を超えて率直に対話する時間となりました。

複数のチームから共通して挙がったのが「原体験」というキーワードです。個人の変容を促すためには原体験が必要と考えられるからこそ、原体験のない人に「社会課題に目を向けてほしい」と言っても難しい。そういった本音が共有される中、少ない時間であっても現場に触れ、感じ、行動することが変容につながるのではないか、だからこそ企業側が機会を用意する必要がある、といった意見も出ています。

また、会社の規模が大きいほど、会社の目標と個人の変容の寄与度が遠くなり、自分ごと化しづらい。会社の施策としてサステナビリティには取り組んでいるものの、会社として個人の変容をどう促したいのかは考えたことがなかったという気づきも共有されました。

壁として挙がったのは、風土と動機づけの問題です。個人が発言しやすいと感じているか、受け止めてもらえる場があるか。そして会社が機会を用意しても、内発的な動機づけにつながらなければ行動変容には至らず、研修も「やらされている」感覚で終わってしまうのではないか。サステナビリティは会社がやるものという認識が広がったことで、かえって従業員個人がやるべきことという意識が遠ざかっているという指摘や、業務外のことに変容の必要性を感じない無関心層の存在も、正直な現状として共有されました。

一方で、すでに動き出している例も挙がりました。起業した人や社内改革を進める人といった実践者を招いて講演を行い、参加は手上げ式にする。働きやすさ調査を実施し、新入社員の声を役員がレビューする。「まずは手を上げる人からマインドを変えていこう」という、現実的な一歩の踏み出し方です。そしてもう一つ、忙しい中で健やかでなければ、そもそも変容の必要性に目が向かない。会社として健やかな状態をつくり、背中を押す準備をしておく必要があるといった、濱川氏が示したネガティブサイクルと重なる視点も挙がるなど、個人としても企業としても多くの気づきが生まれた時間となりました。
 


 
ソーシャルウェンズデーが目指すのは、各社の戦略的な共創企画を生み出すリーダープログラム、社員が個人として機会をつかむオープンプログラム、そして大学連合や多様な連携を拡張するエコシステムが重なり合う、横断的なコレクティブインパクトの創出です。

サステナPressでは、引き続き12月までのリーダープログラムの内容をご紹介するとともに、トライセクター人財の活躍や共創事例、これからの社会課題解決の新たな形を探っていきます。